第106話 好事魔多し(1)
学校が終わってすぐ、俺は香の父親がいる病院へと見舞いに向かった。
無論、この田舎からは徒歩では到底行ける距離ではないので、タクシーを使う。
みんなで行くかという話にもなったが、あまり大勢で押し掛けても迷惑だろうという結論になり、香と一番仲の良い俺が代表に選ばれた。
(香の父親っていうと、やっぱりダム関連の調査だよな)
車窓から流れる景色を眺めつつ、俺は記憶を再確認する。
そもそも、香くんの一家がなぜこんなクソ田舎に引っ越してきたのか。それは、香パパンがダム建設に関わる候補地選定の調査員だからである。水源が豊富なこの田舎は、有力なダム建設候補地の内の一つなのだ。
(本編では田舎の陰湿な所が出て、嫌がらせ合戦みたいになるんだよなー)
本編のぷひ子ルートの高校生編では、ダム建設推進派と建設反対派で村が二分されることになる。その中で、考古学者パパンが保存派なので保存派の主人公と、開発派の香くんの間でも対立が発生。そこにぷひ子を巡る恋の鞘当て的な物も絡まって、なんやかんやで長年の友情にヒビが入ってギクシャクする――というストーリーが展開される。
(まあ、この世界線では絶対そんな展開にはさせないけどな)
俺としては絶対に足を突っ込みたくない、ぷひ子関連のフラグである。絶望の未来を回避するため、俺はこの件に関しては徹底的に対策をした。村を一つにまとめるため、そもそも開発派の勢力が発生する下地を片っ端からぶっ潰してのだ。
すなわち、地場産業を活性化させて地元に雇用を増やし、経済的な問題を解決。映画等を盛んに撮って、外にこの地域の文化的価値をアピールする共に、内に対しては『あなたたちの故郷は文化的な価値も高い素晴らしい場所なんですよ』と愛郷心を煽りまくっている。
そもそも、田舎というのは往々にして保守派が多いので、元から俺に優位な状況ではあったのだ。そこにさらにダメ押しにダメ押しを重ねたものだから、この世界線では開発のかの字も出させていない。もしダムを建設するか否かの投票をやったら、全体の九割を軽く越える圧倒的な得票数で反対派が勝つだろう。
ついでにいえば、県議員や土建関係に利権を持つ国会議員にも多額の献金して鼻薬を嗅がせて候補地から外すように圧をかけてるので、事実上、この地域にダムを建設するのは不可能だ。
(だから、香の父親は俺たちの田舎にダムを作るのは無理だと早々に諦めて、近隣の他の候補地を探しに出かけたんだろうな……)
別に俺は環境保護論者でもなんでもないので、この田舎に関わらなければ、ダムでも何でも作ってもらって一向にかまわない。そう思って放置していたのだが……。
(うーん。やっぱり何度思い出しても、くもソラ作中に該当するイベントがない。本当にただの事故か?)
そうであれば仕方がない。偶発的な事故まで予知できるほど、俺は万能ではないのだから。
(普通のお見舞いで済めばいいんだがな……)
俺は受付で香の父親の病室の番号を聞き、一直線にそこへ向かう。
『立花』と書かれたネームプレートを確認してから、そっと扉を開けた。
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