第101話 幕間 3倍偉大のヘルメス(3)
「ようやく気が付いたのぉ? 今のアタシは髪の色が変わっていたから分からなかったかしらぁ」
「アドリアナ! 生きていたのね! よかった! ――カフッ」
抱きしめようとしたヘルメスの
「随分となれなれしいわねぇ。ヘルメスさん? アイか、サードニクスって呼んで欲しいわぁ」
「アドリアナ! どうして!? 昔はあんなにお姉ちゃん、お姉ちゃんって甘えてくれたのに。ウチは、あの日から、今日まで、一日もあなたのことを忘れた日はないわ!」
「だからぁ? アタシ、生きる理由を他人に預けてる奴って、嫌いなのよねぇ。アタシが側にいた時はアタシ。それで今はその雑魚たち」
ヘルメスの訴えなど何も心に響かなかったかのように、アドリアナは子供たちを睨みつける。
「そ、そう。あ、アドリアナ。あなた、怒ってるのね。ウチがあなたを助けられなかったから」
「そうやって勝手に一人合点して、分かったようなことを言う奴も嫌ぃー」
「くっ。あなた、一体、どこでこんな力を」
圧倒的な実力差に、ヘルメスはアドリアナの攻撃を一方的に受け続ける。
何年か会わない内に、アドリアナは別人のようになっていた。
一体どんなひどい目に遭わされたのか、そう考えると心が痛む。
「やめてぇ!」
「お姉ちゃんをいじめないで!」
ヘルメスの後ろにいる子供たちが、震える声でそう言った。
「はぁー? 雑魚に口を開く権利があると思ってるのぉ? 生意気ぃ。アタシのマスターぁはとぉっても優しいから全員助けろって言ってたけどぉ、別に一人、二人摘まみ食いしちゃってもぉ、バレないわよねぇ」
「た、隊長、やめましょうよ。これじゃあ私たち悪人みたいですよ」
「そうですよ。隊長。私たちは彼女たちを救出にきたんですし、そもそも、実のお姉さんなんでしょう?」
「――あの、皆さん、色々と不安もあるでしょうが、ついてきてください。少なくとも、私たちのマスターはあなたちを、ここにいるよりはずっと幸せにしてくれます。私たちも同じような環境で育ちましたから、保証しますよ」
アドリアナの部下らしき少女たちが、口々にそう言い募る。
スペイン語は喋れないらしい。たどたどしい英語だ。だが、それでも意味は大体わかった。
洗脳や調教を受けている気配はない。
言葉に、人間らしい感情が宿っている。
「アドリアナ。――この子たちの言うことは、本当なの?」
「残念ながら本当ぉ。でも、アタシは別にこのまま抵抗してもらっても構わないのよぉ? 正当防衛なら、マスターぁも許してくれそうだしぃ。最悪、ボコボコにしたあんたを確保できればいいんだからぁ」
「……アドリアナ。ウチらのことは、後でゆっくり話し合いましょう! ――逃走ルートは確保してあるのね?」
「はい。急いでください。敵の増援とか、味方の増援も――とにかく、あまり現場は見られたくないので」
「みんな! ウチについてきて!」
子どもたちを急かす。
だが、栄養不足や運動不足で、足下のおぼつかない子も多い。
「ああ、もぅ。めんどくさいわねぇ。飛ぶわよぉ」
アドリアナが指を鳴らすと、子どもたちの身体が浮き上がった。
アドリアナはそのまま熱線で壁をぶち破り、外に出る。
鬱蒼とした森の一角へ、アドリアナは迷わず突き進んだ。
「クロウサちゃんはいるかしらぁ?」
アドリアナが不自然なほどの猫撫で声で言う。
「ぴょーい」
瞬間、ガサゴソと茂みが揺れた。
姿は見えず、声だけが聞こえる。でも、とてつもない力を秘めた存在がそこにいると、本能が感じ取る。
「よろしく頼むわぁ。お代は、足りてるわよねぇ。もしアレなら、ヘルメスをシバいてこの場で金を作らせるけどぉ」
「ぴょいぴょい」
再び、不可視の声がする。それが『大丈夫だ』といったような意味だということは何となく雰囲気でわかった。
「じゃあ、跳ぶわよぉ。みんないるわねぇ? 点呼ぉ」
「1」
「2」
「3」
「4――逃げ遅れ等、なし」
「OKぇ。それじゃあ、ジャンプぅ」
瞬間、ヘルメスの視界は暗転。身体が浮遊感に包まれた。
==================あとがき===============
皆様、お疲れ様です。
いよいよ、明日、2月19日に本作の書籍版が発売されます!
それに伴い、下記のように、ラストを飾るPVを作って頂きました。
キャラは今回も大活躍のアイちゃん。
CVは自明の理として田村ゆかり 様です!
https://youtu.be/CE0C9yll_II
アイちゃんのご機嫌な謎歌をご堪能頂きまして、いい感じで洗脳されて頂き、書店に足を運んで頂いたり、無意識にネットショップでポチったりして頂けると大変ありがたいです。↓
https://twitter.com/fantasia_bunko/status/1494629502663618560?s=20&t=tkB7vZsYX3xL8tKkITzAXw
それでは引き続き、拙作を何卒よろしくお願い致します。
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