鬱ゲー転生。 知り尽くしたギャルゲに転生したので、鬱フラグ破壊して自由に生きます【旧題】泣きゲーの世界に転生した俺は、ヒロインを攻略したくないのにモテまくるから困る――鬱展開を金と権力でねじ伏せろ――
第93話 黒歴史作品も愛してこそ本物のファン(4)
第93話 黒歴史作品も愛してこそ本物のファン(4)
「――でね。祐樹くん。今はこんなに生意気だけど、昔は私の方がずっとお菓子を作るのが上手くて、そもそも大輔がパティシエを目指したのも、私の作ったプリンがおいしすぎて感動しちゃったからなのよ」
「……歴史を捏造するな。あれは99%おじさんが作ったものだろ。お前は冷蔵庫に入れただけだ」
「ははっ、お二人はとっても仲がいいんですね。結婚式には呼んでください」
俺は顔に乾いた笑顔を張り付けて言う。
「えっ!? も、もう、祐樹くん。なにを言ってるのよ! 私とこいつはそんな関係じゃ……」
「……ああ、ただの腐れ縁だよ」
お互いに視線を交わして頬を染める二人。
ブロロロロロロロロ。キキーッ。
俺が大輔くんとささらちゃんの甘ったるいラブコメ会話にいい加減胸やけしてきた頃、店の前に黒塗りのリムジンが停止した。
「おーっほほほほ! ごきげんよう! 皆さん」
中から、さらに胃もたれを起こしそうな金髪のお嬢様が登場した。
逃走中に出てきそうな黒サングラスの従者が後に続く。
(あー、大手菓子チェーン店のお嬢様きた。お嬢様)
名前は――もういいか。このお嬢様は大輔くんの腕を見込んで自分とこの専属パティシエとして引き抜きたい、という設定である。それ以上言うことねえ。
うちのシエルちゃんもかなりコテコテな味付けだが、彼女は一応、貴族らしい淑女っぷりとか憂いが魅力になっている。でも、こっちは本当にただの能天気な金髪ドリル。悩みも、せいぜい『両親が仕事で忙しくて寂しい』くらいのもの。
「げっ。糖乗院飛鳥! 一体うちに何の用よ!」
ささらちゃんがお嬢様――飛鳥を睨みつける。
「おほほほっ、ご挨拶ですわね! それはもちろん、大輔さんをうちの商品開発部にスカウトしに来たに決まってますわ!」
「その件なら、前に断ったはずだが……」
大輔くんが困ったように言う。
「あら、本当によろしんですの? もしうちに来てくだされば、こちらのお店に経済的支援を考えてもよろしいと思っていましたのに」
「ふんだっ! 残念でした! 融資ならこの子がしてくれますー」
ささらちゃんがべーっと舌を出して、俺の肩に手を置いた。
「何ですって!? そういえば、どこかで観たような顔ですわね。ぐぬぬぬ、少年! まさか、あなたも大輔を引き抜こうと言うんですの!? ワタクシが先に目をつけていましたのに」
「いえ、大輔さんは素晴らしいパティシエだとは思いますが、俺はむしろ、このお店自体のファンなんですよ」
俺は軽くそう受け流して、静かに紅茶に口をつける。
「そういうこと! アイリスにはこういう根強いファンがいっぱいいるの! 心のこもってない大量生産のお菓子ばっかり作ってるあんたにはわかんないでしょうけどね!」
ささらちゃんが胸を張って言う。
「あら。それは偏見ですわ。ワタクシども糖乗院グループも安価な値段で庶民の皆さんがおいしいスイーツを楽しめるよう、日夜心血を注いでますのに」
飛鳥ちゃんが肩をすくめる。
まーた、あるある会話が始まった。
俺はどっちかっていうと、飛鳥ちゃんサイドに味方したいかなあ。個人経営の洋菓子店が成立するような商圏って、全体でみればごく一部なんだよ。田舎民にとってはコンビニスイーツくらいしか身近な甘味ってないし、日本の市販品のレベルの高さには感謝したいよね。
まあ、ストーリー上は、個人経営の店が正義にされるんだけど。
「そんなこと言って、色んなお店を乗っ取ってるくせに!」
「経営の厳しい個人の洋菓子店をフランチャイズ化して救って差し上げているだけなのですけれど……。善意の行いをそのようにとられるのは悲しいですわ」
「本当に善意なら、この祐樹くんみたいに無利子無担保の融資でも始めたら? あんたより若いのに、この子の方がよっぽど世の中のためになってるわ!」
「無利子無担保? あなた、それでよくビジネスが成り立ちますわね」
飛鳥ちゃんがうさんくさそうな顔で俺を見る。
「先ほども申し上げた通り、俺はこのお店のファンなので……。それに、完全に無利子という訳でもないですよ。――大輔さん、例の物、できてますか?」
「ああ……。ちょっと待ってろ」
大輔くんが店の奥に引っ込む。
やがて、大きめの白い箱を持って、大輔くんが帰ってきた。
「うわあ。開けてもいいですか?」
「ああ……。もう、お前の物だ」
大輔くんの許可を得て、俺は箱の蓋を開ける。中から、桜の花びらをあしらったマカロンや、新茶を使った抹茶ケーキなど、色とりどりのスイーツが顔を出した。
「それがあなたの利子、ですの?」
「ええ。このお店のスペシャルスイーツを食べる権利です。素敵でしょう」
俺は子どもっぽい無邪気な笑みを浮かべて言った。
これが俺の利子代わり。融資の見返りだ。
正確には、向こうが『いくら何でも融資に何の見返りがないのは申し訳ない』と言ってきたので、『じゃあ、季節ごとに俺のために特別なスイーツを作ってくれませんか。それを利子代わりにしましょう』と切り出した訳である。
もちろん、俺は大輔くんとBLフラグを立てたい訳ではない。
重要なのは、この大輔くんが、『俺という特定の人物に対して思いを込めた』スイーツを入手することだ。
「食べ終わったら感想聞かせてくれ」
「はい。メールしますね」
俺はぶっきらぼうに言う大輔くんに微笑んで、蓋を閉じる。
「……一人で食べるには少々量が多すぎでなくて?」
「祐樹くんは身寄りのない子どものための施設もやってるのよ」
「そうですの。このような立派な子どもがいるなら、日本の未来も明るいですわね」
「いえいえ。みんなが出来ることを精一杯やるのが大切だと思います。俺はここのお店のスイーツも大好きですけど、故郷の田舎の商店でも気軽に買うことができる、糖乗院さんのメーカーのお菓子も好きですよ。日常的なおやつと、ちょっと特別な日に食べる個人のお菓子屋さんのスイーツは共存できるのでは?」
俺は優等生っぽく言った。
「確かにな」
大輔くんが頷く。
「ふう、祐樹くんに免じて、今日はこれくらいにしておいてあげるわ」
「ええ、子どもの前ではしたない真似はできませんもの」
ささらちゃんと飛鳥ちゃんが、一時休戦し、舌鋒を収める。
「では、俺もそろそろお会計をお願いします。大輔さんのスイーツをみんなが待ってますから」
俺はきっちりケーキを完食してから言う。
「はい! ちょっと待っててね」
ささらちゃんがレジに向かう。
「騒がしくして悪かったな。これにこりずまた来てくれ。今度はささらの奴ももうちょっと静かにするように言っておくから」
大輔くんが主人公っぽい優しさを帯びた声で言う。
「ええ。言われなくても来ますよ」
俺も爽やかに答えた。
大輔くんが再び奥へと引っ込んでいく。
俺はささらちゃんに代金を支払うと、お土産のスイーツを持って店を出た。
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