閻魔ですが悪い人を助けたら地獄に落ちてしまいました

大木クスノキ

第0話

死後の世界なんてものに興味はない。


 大事なのは生き様と死に方だ。だから恥じない生き方をして、最期は豪快に散ることで名誉に傷がつかないようにしようと思って生きてきた。


 それが守れるんなら極楽に行こうが地獄に落ちようが知ったこっちゃない。


 仏教徒なのに何を言っているんだと何度も言われてきた。


 だが俺はあくまで親父の跡を継ごうとしただけだ。南無阿弥陀仏と唱えるだけで救われるなんて都合の良い教えは、全く信じてはいない。


 だから俺が唱えるのは死者を供養するときだけだ。


 人を殺しまくって南無阿弥陀仏と連呼して、これで極楽に行けるなんて言っている奴はいくら仏でも救いようがないだろうさ。


 こんな馬鹿はまず地獄に落ちるだろう。俺も地獄には落ちるだろうがな。


 たくさんの人間を殺してきたし俺も最期は潔く死んだ。


 現世に後悔はあるが、もし俺が怖気づいたら、今まで俺に殺された奴は浮かばれないだろうからな。

 だから豪快に腹を掻っ切ってやった。


 俺の勇ましさに恐れ慄いている奴らを見れないのは残念だが死んじまったもんはしょうがない。


 さて腹括って閻魔とやらに会いに行くかと三途の川を探しているんだが、どうも見当たらない。


 それでも本能ではどこに行けばいいのか分かっているんだろう。


 俺の魂は脇目も振らず、一直線にある場所に向かって落ちているようだ。


 まるで海を高速で沈んでいるようで、少し気持ち悪さを感じる。


 その場所に着くまでどのくらいの時間があるのかは分からないが、それまでに閻魔とどう対峙するか考えておこう。


  おそらく閻魔は閻魔帳に書いていることを見てどの世界に俺を転生させるかを判断するだろう。まあ間違いなく人間界じゃなくて地獄界に送られるはずだ。




 それでも、俺はまだ人間界でやり残したことがある。

 俺の全てを奪い、死に追いやったやつを殺す。そのためにも絶対に最後まで諦めず、最善の手を尽くして人間界に戻ってやる。

 閻魔がどんなに恐ろしい奴でも絶対に臆さない。




 そう考えていたところで、現世に戻ったかのような感触を感じた。どうやら足があるようだ。


 地面に足がついているだけで、少しだけ安心した。


「人間の方ですよね。私はあなたの担当をする閻魔です。体調に何か問題はありませんか?今の状況などで何か分からないことはありますか?」


 女の子の声がした。何者なのかと前を見る。


 そこには綺麗な水色の袴を着て、赤色に光る首飾りを身に着けた黒く長い髪の14歳ほどの女の人がいた。


 少し子供っぽさが残る愛くるしい笑顔をして、少し右に顔を傾けている。そして、金色の派手な装飾を施した椅子に座っている。


 その神々しさから後光が差しているように見えてしまうほどだ。


 あまりの崇高さに思わず聞いた。


「仏様ですか?」

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