撮影現場異常なし
公開日までほとんど余裕のない映画撮影は、その日も急ピッチで進められた。
「2つくらい聞きたいことがあるんだけどさ。」
「どうしたんですか?」
テントの中で撮影を見守っていた新人のもとに、疲労困憊と書いてあるかのような顔をした先輩がやってくる。
「なんで…なんで私を出そうと思ったわけ?」
「なんでって…記念すべき1作目なのに出ないのはもったいないと思ったんですよ。それにほら、先輩は僕の先輩である以前に元アイドルで、彼女たちの先輩じゃないですか。」
…プロデューサーのはずがディレクターをやらされている事への腹いせというのが本心だが。
「うーん、なるほど。じゃあもうひとつ。」
「はい?」
「なんで主演のジェーンより台詞もシーンも多いんだい?」
「それは…」
今回課されたテーマはロボットSF。また、事務所およびPPPのPRも兼ねた作品ということで、PPPの5人はなるべくまとめて動かしたいと思っていた。
しかし、ストーリーを考えるにつれてどうしてもキーとなる人物が必要になった。5人の中の1人…今回の主演であるジェーンでも良かったのだが、より関係性を分かりやすくするためにも5人以外にその役を置きたかったのだ。
「…ということです。」
「うん、説明してくれてありがとう。説明を聞いて、より腑に落ちなくなったよ。」
「どうしてですか?」
「『どうしてですか?』って…君ねぇ、出演者がほとんど決まってる映画にスカウトされて、行ってみたら主役級の大役でしたって、この世の誰が納得するんだい?」
「まあそれは…でも、それで言ったら彼女たちもそうだったじゃないですか。」
時は遡り、11月29日。今回の企画が決まった翌日、PPPと新人、それから先輩が「助っ人」として紹介してくれたマーゲイが集められ、企画の説明が行われた。
「映画を撮るよ!」
「映画、ですか?」
PPPは全員キョトンとしていた。
「そう!映画!じゃ、新人君!説明!」
「ええ…じゃあ説明させていただきます。」
企画内容、配役についての説明まではスムーズに進んだ。女優に挑戦したがっていたジェーンは、事務所の自主制作だと説明してもすごく喜んでいた。
だが問題はそこからだった。台本はおろか、まだ物語が出来上がっていないこと、いつもの振る舞いとは全く違った役柄になってしまうこともあること、そして…
「公開日は12月14日、そう!『南極の日』!!」
「…え?」
5人の顔が今日一番の困惑に染まる。
「12月14日って…あと2週間しかねーじゃねえか!!」
「そうですよ!台本だってまだ出来てないんですよね!?」
次々上がる声を先輩は手で制する。
「まあ聞いてよ。これには色々と訳があるんだ。」
…それから先輩は、その前日に自分にした話をもう一度、全員の前で話した。
時は戻る。
「あの日、先輩が事務所がピンチだってことを話したおかげかどうかは分かりませんが、PPPの皆さんもいつも以上に真剣に取り組んでくれているんですよ。」
「確かに、彼女たちはいつも真剣だけど…今回は特に『本気』って感じがするね。」
「それに、決して早かったとは言えませんが僕だって出来る限り急いで台本まで完成させました。PPPの皆さんは時間のないなかでもちゃんと台詞も覚えてくれています。」
「…そうだねぇ。」
「おそらく、一番大変なのはマーゲイさんかもしれませんよ。撮影した映像の編集は全てマーゲイさんにお願いしてるんです。こっちが遅れれば、それらは全てマーゲイさんの負担になります。」
「確かに。君の言う通りだ。こんなところで止まっている場合じゃないね。」
「ええ。僕の方は大きな仕事は終わってるので全力でサポートしますから。」
『頑張ろうか!』
「頑張りましょうか!」
スポーツドリンクを先輩に手渡した。
PDP#1 期限まで、あと5日(12月9日現在)。
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