第23話 赤目赤翅、再び
高度5500m。戦場を離脱した2機の《
想定外のアピスの増援のため、すでに当初の作戦からは大きく逸脱しているが、そのことを考える余裕はない。
『こちら
緊迫した声でヨシュアからの通信と共に
現在、分隊は本来の作戦目標の群れの掃討を完了。そのまま、第1分隊が街への避難指示および防衛のために戦域から離脱。
残りの分隊は空中でヨシュアたちの
当初の予定では現在、待機している分隊をもって
もし、新しい群れの到着までに
よって、カルディナ機が単機で
『こちら、セレスティーナ。了解した。すまんが、頼む』
『大丈夫。群れだけなら十分に抑えられる。コーディも迷走状態の
「
もし、2人が敗北し
そうなると迷走状態とは言え、二体の
そうなれば、いかに避難を完了しているとは言え街が無事で済むとは考えづらい。
ドミノ倒しのように全てが悪い方へと
それだけに、負けられない戦いになる。
『だが、逆に考えればここを乗り切れば一気に楽になるはずだ。ステージ3で本隊は
「ものは言いようだな」
『こうでも考えないとやってられないよ。大丈夫、
『
セレスティーナの声と共に
黒々としたアピスの群れの中に、一匹だけ赤みのかかった一際大きな個体の姿が見える。
『群れを視認した。迎撃に入る。交信を終了する。大樹の加護のあらんことを』
『了解。そちらこそ幸運を――シズク』
「聞こえてる。セレス、どうする?」
前回の
それでもなお、
『時間差攻撃でしかける。まず私が先行するから、シズクはその次だ。1対1で常に片方が
セレスティーナの立てた作戦は堅実なものだった。
常に片方がバックアップに徹し、もう片方もいきなり勝敗を決するというような戦いは行わない。危険性は少ないが時間はかかる。
「ちょっと消極的じゃないか? セレスは
『無理をしてシズクが
「まあ、それはそうだけど」
シズクとしてはセレスティーナが
しかし、シズクたちと違い死に戻りが出来ない以上はリスクは最小限に抑える必要がある。自分がバックアップに入っているとは言え、セレスティーナにはなるべく前面に出て欲しくはない。
「なら、俺が先行するよ。その後でスイッチだ」
『シズク、まさかとは思うが。いらぬ気遣いなどしていないだろうな?』
「……してないぞ」
思わずギクリとしたシズクの声が軽くこわばる。
『カルディナといい、お前といい。お前たち異世界人は私たちを何だと思っているのだ』
「いや、だからしてないって」
『まあ、いい。そこまで言うのだ。
「了解。別に俺も死に戻りたいってわけじゃないからな」
幼樹の村からこっち、どうにもシズクの死に戻りに拒絶反応を示すセレスティーナに1
群れは
群れの状況が理解出来ていないのか、そもそもそんなことは最初から気にしていないのか。
いずれにせよ撤退の気配は無い。
そして、少し遅れて
これも予想したとおりだ。
それは前回の戦いやその前段階の騎士たちの戦いの記憶からも判明している。
その性質をついて、群れを無視して
自律して思考しているように見えて、実はそのほとんどの行動は事前に女王から与えられたフェロモンチャンネルによって支配されているというのがアリアナの推論だった。
このため、変種アピスは原則としてイレギュラーに弱い。その反面、反応速度は極めて高く不測の事態に対しても個々の戦闘能力で切り抜けられるような進化の仕方をしている。
シズクは滴PGを対
バージョンの上がった新しい滴PGがこれまでの戦闘経験とアリアナやヨシュアの推論から、《
「さて、始めるか!」
シズクの《
パワーダイブからの切り込みはスカイナイツ時代からのシズクの得意技の1つだ。何度も何度も使い込み、トゥーンでは模擬戦や訓練、そして実戦で磨き上げてきた。
おかげで今では
急速に視界の中心に捉えた
が、ここから不意に高機動をもって信じがたい動きをとるのを何度も経験しているだけに油断はしない。
そのまま、狙いを定めてトリガーを引く……直前に
超光速で移動したために、残像が見えていると理解するよりも速く滴PGが移動経路を予測、アラートでシズクに通知する。
音と振動により、攻撃方向を変更。トリガーを引く。
高熱の込められた青白い熱線がトゥーンの大気を
が、その先に
シズクの指がトリガーを引ききる、そのほんの
「相変わらず、当たらないか!」
当たらないことを前提とした攻撃だが、それでは
だが、その矛盾こそが
群れを守るための
それを考える余裕もなく、第2撃を打ち込む。出し惜しみなしのミサイルを全て放出。それぞれのミサイルは滴PGによってランダムな軌道を与えられ、
いわば、ミサイルは投網の網のようなものだ。
それを回避するには必然的にシズクの攻撃範囲内に
そこで始めて、
キチキチキチキチキチキチと顎をかき鳴らす。
もう一体の
「さ……来いよ」
ふっと
マズイと思うよりも先に滴PGの近接支援が斥力の盾を全力で前面に展開。
盾に接触した
『もらったぁぁああ!』
その隙を逃がさないというように融合したセレスティーナの《
二機の《
『さすがに簡単にはいかないわね……』
「だな」
『次は私から攻めるから……シズクはとにかく隙を狙って。OK?』
「OK、だ」
セレスティーナの《
融合したセレスティーナにしか使えない、彼女とその祖による絶技。
白い影の
空間が割れたかと思えるような鋭い音は、少し遅れてやってきた。
映画のコマが飛んだかのように唐突に、
一瞬の
その静止した空間にシズクの《
再びの攻守交代。
その戦いは始まったばかりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます