第21話 オープン・コンバット
高度3500。午前11時15分。
ヨシュアからの観測データを基にアピスの群れを待ち構えていた、3・3の6分隊による攻撃が開始された。
アピスの群れは3波に分かれており、それぞれの数は70から100前後。通常のアピスの群れから考えると桁が1つ少ないが、戦闘力は格段に高く油断は出来ない。
6個分隊18機の《アジュールダイバー》はそれぞれ2個分隊ごとに群れの迎撃を開始。
まずはミサイルの群れでもって群れを削りにかかる。
地球の技術を持ち込んでトゥーンで生産されたミサイルはアピスの発する熱源が弱く金属反応ももたないために
しかし、管制指揮を行えるヨシュアとアリアナのHQ機を要する3・3では限定的ではあるが誘導システムを独自に開発・運用を行っていた。
『ん、第1小隊第1波発射。こちらから誘導する』
アリアナからの指揮に従い、
ミサイルの群れは雲を引きながら、遠くから見る分にはゆったりとしたカーブを描きながら群れに接近。
第1小隊からのデータをベースにアリアナが遠隔で誘導したミサイルは群れを包み込むように真っ正面から接近。そのまま投網を絞り込むように爆散し、その破片とさらに小さな散弾をアピスの群れにたたき込んだ。
『……ちゃんと誘導するだけで、戦果が段違いだな』
騎士団のミード回収作戦においても同じようにミサイルでもって、迎撃にあがってくる群れを削るという作戦は実行されていたが、それよりも少ない機数でもって効率良く削られていく群れを眺めていたセレスティーナが感心したように
「管制機があるとないとで段違いだよな」
『ああ。うちの強みだな。ジョッシュとアリーのおかげで他の部隊にも
戦闘ではとかく発生することの避けられないロスが極限まで減らされているために、実際に必要な戦力も少なくてすむ。
基本的に戦果報酬から補給物資を自ら賄わなくてはならない懲罰部隊では、2人の特殊な技能は想像よりも
『引き続き、第2小隊第1波発射』
『了解。第2小隊攻撃を開始する――発射完了』
『第1小隊リーダーより、アリー。第2波攻撃は?』
『……まだ。第3小隊の攻撃が終わるまで待って。こちらの予測では数の減った群れが合流する可能性を考慮に入れている。その後で攻撃した方が効率が良い』
冷静、というよりもどこか感情の欠落した声でアリアナが第1小隊のリーダーに待機を命令。
年齢差で言うと10以上も離れているであろう子供からの指示にも、イヤな声1つ立てずに自然な感じで了解の返答が戻ってくる。
『おまけに統制もとれている。つくづく……もったいないな』
『ま、アタシの仕込みだからな』
『というか、みんなコーディを見てるからね。アリーの指示に従わないでつっぱしると真っ先に
『うっせーぞ。そういうとこも含めて、アタシの仕込みだっつーんだよ』
先走って攻撃に
彼らが犯罪者の集団だということがなければ、今頃はトゥーンの騎士団に部隊ごと引き抜かれていたかもしれない。
もっとも、その本性の部分ではやはり制御の困難な集団であり、そういう意味では万能のワイルドカードというよりもやはりジョーカーに近い。
『ん、予想通りアピスの群れが合流し始めた。合流後、3個小隊で一斉攻撃。撃ったミサイルはこちらで誘導するので、後は個々の判断で戦闘開始よろしく』
『了解だ。ミサイル発射後、近接戦闘に移行する』
淡々と進む攻撃の過程にシズクは今さらながらにゲーマー部隊である古巣の騎士団との練度の差に舌を巻いていた。
個々の技量で言えば、確実にトールやハルクそれに夫婦漫才コンビの方が圧倒的に高い。少なくともゲーマー部隊はもっとも技量の劣るであろうトールの小隊のメンバーであっても3・3の分隊リーダーよりも圧倒的に優れている。
しかし、実際の戦果や戦闘の経緯で見るならば結果は明らかだ。
いかに通常のアピスよりも数が少ないとはいえ、すでに敵の数は戦端を開く前の半数ほどまでに削られている。だというのにこちらは被害どころかまともに攻撃さえ受けていないのだ。
おそらく、3・3とゲーマー部隊が模擬戦を行えば圧倒的な大差でゲーマー部隊が敗北するだろう。
『おい、ジョッシュ。暇だぞー。赤いのはまだかよ』
『赤いのは君だろ、コーディ。心配しなくても、すぐに会敵するよ。群れが減ったのに気がついたのか、少し遅れてた
「あー、そのお約束は……」
『君しか理解者がいなくて、寂しいよボクは。それより、あとちょっとでそっちのレンジに入る。こいつはこっちで管制できる相手じゃ無い。任せるから好きにやってくれ。そっちが
『了解した。どれぐらい戦力が低下するのか、期待している――シズク、コーディ。おそらく、群れを攻撃している小隊を真っ先に狙ってくるはずだ。コーディーは第1小隊、シズクは第2小隊の直掩を。私は第3小隊を守る。私たちが
それぞれの小隊から了解を意味するグリーンコールがシズクたちの機体に送られてくる。
シズクは確認後、第二波攻撃を完了し散開攻撃の準備を整えている第2小隊に接近。
『副隊長さんよ、こっちに食いついてきたら迎撃は頼むぜ。なんせ、今回は総出撃だからよ、落っこちると基地で待ってるシェンが怖えんだ』
「了解です。大丈夫、一機も
『頼もしいねえ。ケモの街だろ? 心配すんな。あいつらの飯、美味えからな。作戦完了後のパーティのためにも毛1本触れさせねーよ。しかし、これが最後だと思うとちと寂しいねえ』
「俺もですよ。この前はありがとうございました」
この前、というのはもちろん上申会議のことだ。前面で音頭を取っていたのはヨシュアだが、彼の指揮に従い3・3全員のほとんどが協力してくれたことはもちろんシズクもしっている。
『ああ、あれか。気にすんな。ま、貸しだと思ってくれや。いずれ取り立てにいくからよ』
「お手柔らかにお願いします」
苦笑しながら答えるうちにも
『ちっ、言ってるはしからこれだぜ! 全機、散開だ! 小物にボスたちの戦闘の邪魔をさせんなよ。さっさと蹴散らすぜ! シズク、後は頼んだ!』
「了解!」
こちらに
もちろん、あっさりと両方とも回避はされるだろうが進路は大きく変わるはずだ。
行動可能範囲を削り込み、その手数を減らす。
攻撃順序を頭で組み上げ、久しぶりの滴PGを起動。前回の戦いでの学習データも読み込ませる。
「……アップデートしてる?」
シズクは起動したプログラムのバージョンが上がっていることに気がついた。
シズクがトゥーンに来てから、気がつけば半年以上。地球では3日か4日が経過していることになる。
それだけのわずかな時間でも滴にとってはこれぐらいの芸当は当たり前だろうから、そちらに特に驚きは無い。
それよりも、計算してみてまだ地球ではたったのそれだけしか過ぎていないことに驚いた。
シズクにとって、もう地球での出来事は遠い過去のようなことだというのに……地球ではたったの数十時間しか経過していない。
この落差に思わず
警報音が響く。
シズクは自分の感傷を断ち切って、大きく息を吐く。ミサイル発射。
それぞれのミサイルが白い雲を引いて
予測通り、全てのミサイルが紙一重で回避されていく。
しかし、新しい滴PGはその回避行動さえも貪欲に吸収し、次の瞬間の行動予測に反映。光学兵装での当たらないだろうが、
三度の斉射。
光速の光学兵装を見てから回避することは、いかな
「相変わらず、どうやって避けてんだか」
滴PGからの回答は無い。解析不能の文字。
「ま、いいさ」
どの道、格闘戦抜きで決着をつけられるとは思っていない。
《アジュールダイバー》から《
幼樹の村で失った《
このため、機動性を損なうこと無く防御力も最高速度も格段に向上している。
「今度はこの前みたいにはいかないからな!」
誰に聞かせるでもなく、
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