第14話 セレスティーナの二つの顔 -後編-

「その、申し訳無い。自分でも思う以上にストレスが溜まったまつていたようです……シズク。そういうことだ。お前が悪いのだからな」


「やはり、従騎士長は今の方が落ち着くな。こういうのは不敬とは解っわかつてはいるのだが、その、どうにも落ち着かん」



 やれやれと副長が気を抜いたように力を抜いて、扉にもたれかかる。


 あの性格のセレスティーナは副長にとって天敵らしい。



概ねおおむね、理解していただけましたか? 戦士シズク。このように、エイゴン主任やヘス卿が求める騎技ドラガグラスタを披露する時には従騎士長はあのようになるわけですが……そういう変化があるということは、なるべく広げたくはないのです。継承がこのような変化をもたらす、ということを知っているのは騎士であってもそれほど多くはおりません」


「小隊長にも知っているものはおそらくいないだろう。私にしてもたまたま機会に恵まれたので知る機会があったようなものなのだ」


「その、俺は知っちゃっても良かったんですか?」



 さっきの余韻が残っているのか、シズクの言葉を聞いたセレスティーナがまた拗ねたすねたような感じでギロンとシズクを睨めつけたねめつけた



「だから、縁だと言っただろうが。たまたま私が祖魂の継承者となり、たまたま私がこの騎士団に配属され、たまたまお前が私の副官になり、たまたまこういう機会が巡ってきた……奇縁というほかないが、お前が私の副官である以上、縁があるなら知る資格はあるのだ」


「そういうことだ。本来ならば私か団長殿かが、従騎士長の相手役をするべきなのだろうがな……団長殿はヘス卿のお相手をせねばならんし、私は私で他の異世界人どもが万が一にも妙な真似まねをしないか監視しなくてはならん。となると相手役はお前しか残らんというわけだ」



 つまり、消去法的にシズクしか残らなかったというわけだ。


 確かにこの2人を除外し、さらにおいそれと他の小隊長にも漏らせないとなるとシズクぐらいしか残らない。


 しかも、シズクのS・A・Sスキル・アシスト・システムをはじめとした様々な異世界における能力は完全にこの3人に掌握されているわけで、シズクが秘密を漏らすと判断すれば言語系のS・A・Sスキル・アシスト・システムの権限を剥奪はくだつして幽閉するだけで秘密は守られる。


 理由はなんとでもつく。直属の上官と最上級の責任者が揃っそろつて断言すれば逆らえる者は、少なくともこの基地には存在しない。



 なるほど。良い人選ではある。



「むろん、ここ半月ばかりの訓練と先の作戦でのお前の貢献を見ての判断だ――ところで従騎士長。ここまで話したということは、決心したとみていいな?」


「はい。ヘス卿とヘイケン主任のご提案を受けようかと思います。騎士団の戦力の増強が必要であるというのは私も同意見ですし、何よりもシズクと私だけでは他の小隊との訓練にも参加するわけにもいきませんから」



 そこも頭が痛いところなのだ、と副長はセレスティーナの意見にうなずいた。



「本来は戦士を増員して、小隊に格上げするべきなのだがな……肝心の戦士の増員の予定は早くても一年先という話だ。まさか、普通の騎士を使うわけにもいかん。なにせ、損耗が前提の作戦になる。戦士で無ければ採用できん」


「では、ヘス卿に提案を受けるとお伝えしても構いませんね? この話を受けるのであれば、今後はヘイケン主任と共に、新しい《アジュールダイバー》や《竜骸ドラガクロム》の開発計画に従事してもらわなければなりません」



 勢いよく起立したセレスティーナがカッとかかとを鳴らす。



「謹んでお受けする所存です――莫迦ばか者。何をぼけっと座ってるんだ、お前は」


「あ、ああ。スマ、いや、申し訳ありません!」



 慌ててセレスティーナの真似まねをしながらの略式敬礼。



「よろしい。それでは、2人には特命に従事していただきます。今後の騎士団の行方を左右することになるかもしれません。また、彼ら異世界人の指導者層が何を考えているのか、ということを知る良い機会でもあります。確固たる成果を期待します」


「では、解散!」



 再び敬礼。シズクとセレスティーナの呼吸がぴったりと合い、ビシリと決まる。


 2人が退出するまで、その姿勢を維持。


 セレスティーナが肩の力を抜いたのは、団長と副長の足音が聞こえなくなってからだった。



「それにしても、新型機の開発計画とはな。団長殿の態度から何かあるとは思っていたが」



 さすがに予想外だったとセレスティーナはぼやくように呟いつぶやいた。



「よもや、異世界人たちと祖の騎技ドラガグラスタを参考にして、新しい騎技ドラガグラスタを作り上げることになるとはな。夢にも思わなかった。こうなると、私も覚悟を決めねばならん」


「覚悟って?」


「祖の再臨と融合をこれから何度も行う覚悟を、だ。当然ながらシズク。お前にも付き合ってもらうことになるからな」


「え? 1回だけ見せれば終わりじゃないのか?」



 虚を突かれたような表情のシズクにセレスティーナが呆れたあきれたような声で理由を続けた。



「それですむわけが無いだろう。どういう形で見せるのか、あの騎技ドラガグラスタを使う際に他にどの騎技ドラガグラスタが連動するのか。何度も確かめて見極めてかねばならん。団長殿や副長殿とのすり合わせも必要だ。見せたら見せたで、新しく生まれる騎技ドラガグラスタが正しい方向に向かっているのかを確認する作業も必要だ。言っておくが、新しい騎技ドラガグラスタが基本的に戦士たちのための技である以上、それをすべて確認するのはお前の仕事だぞ、シズク」


「……マジかよ」


「真面目な話だ。必然的にあの私にも、今後は頻繁に付き合ってもらうことになる。まだ忸怩たるじくじたるものが無いかと言えばうそになるが、これも任務だ」


「あ、ああ」



 それ以外にどう返事をしろというのだと思いながら、とりあえずシズクはコクコクとうなずくのだった。


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