第13話 セレスティーナへの依頼 -後編-

「《竜骸ドラガクロム》のメインフレームの斥力場ジェネレーターの出力を上げる目処めどはようやくたった。残る問題は制御システムだ。とくに一昨日の作戦結果から考えても、一刻も早く改修したい。いくらなんでも損失率がデカすぎる。帰還率の向上は急務だ」


「パイロットの損耗はさほど問題視する要素ではないと思うがね」



 何が問題なのかね? といった風情のヘスにコレだから事務屋は……という視線を一瞬だけ投げかけたエイゴンは理由を説明した。



「あいにく、《アジュールダイバー》も《竜骸ドラガクロム》も生えてきませんからな。戻ってくれば修理も出来ますが、撃墜されてはお手上げです。むろん、ある程度の損失は折り込み済みですがね。毎回全滅ではさすがに追っつきません」



 エイゴンの話はたしかに、ごもっともとしか言い様のないものだった。


 何しろ50名が全滅するということは《アジュールダイバー》×50と《竜骸ドラガクロム》×50の代わりが必要になる。


 それが毎回ではいくら何でもたまったものではないだろう。



「あのような無茶むちやを毎回するわけではないし、それはすでに騎士団の方針として通達したとおりだ。が、他の騎士団のように余裕のある作戦というわけにもいかん。戦力が増強されるなら、それに越したことは無い。というわけでこの提案は考慮する価値があると私も団長殿も判断したわけだが……」


「ただ、改修にあたって協力が欲しい」


「協力、ですか?」



 首をかしげるセレスティーナにうなずくとエイゴンは《アジュールダイバー》の映像に現在の問題点をアニメーションで表示させた。



「で、本題はここからだ。これを見てくれ」



 そう言ってエイゴンが再生させたのは、半月前に行われたシズクと副長の模擬戦の記録映像だった。


 今さらだが、こうして客観的に見るとかなり恥ずかしい。


 誰だ、あのバカはという感じだった。


 それは副長も同じなったらしく、なんとなく居心地の悪そうな顔つきで映像を眺めている。


 ほどなく、激突しては弾かれたように離れてを繰り返していた、二つの光が絡まりなから猛烈な速度で地上へと落下し始める。


 この時のことは失神していたので、実は記憶に無い。


 セレスティーナの《竜骸ドラガクロム》が何の前触れも無く、自身を包み込むように円錐形えんすいけいの斥力場を幾重にも展開させた。


 今まで見たことも無い展開方法だった。


 そして、斥力場が白色に輝いたかと思うと、とてつもない大加速で一瞬にしてシズクの《竜骸ドラガクロム》の元に移動を終えていた。



「このスキルは現状のS・A・Sスキル・アシスト・システムの制御能力を遙かにはるかに超えている。これだけの出力を制御出来れば《アジュールダイバー》でもトレードオフの問題は解決する」


「つまり、私の騎技ドラガグラスタを提供しろ、ということですか?」



 硬い声でセレスティーナは強くエイゴンとヘスを睨みつけたにらみつけた。隣に座っているだけで、セレスティーナの強い怒りが伝わってくる。


 まあ、落ち着け。という副長の声でセレスティーナは怒りを飲み込むように大きく息を整えた。



「そこまで言うつもりはねえ。聞いた話だと、まあ秘伝とかそういう類のもんらしいしな。ただ……見せてくれると助かる」


「見せる?」


「ああ。要するにデモンストレーションだな。何をやってるかの見当がつけば、あとは何とか再現してみせる」



 力強く請け合うエイゴンにセレスティーナは暫くしばらく考えさせて欲しいと告げた。



     †

 


「なあ。見せるだけでもマズいのか?」


「あまり、見せたくはないというのが本音ではある。いや、騎技ドラガグラスタそのものを見せるのは吝かでやぶさかでは無いのだが、その、騎技ドラガグラスタを使うときに問題がな」



 エイゴンとヘスが退出したあと、難しい顔で唸っうなつているセレスティーアにシズクは小声で尋ねた。


 イリエナとマリアも同様に渋い表情を崩さないところを見ると、かなり秘匿度の高いスキルらしい。



「野蛮人。秘密は守れるな」


「はい。もちろん」



 厳しい顔つきの副長にシズクは静かにうなずいた。



「我々の魂が魂結晶こんけつしように宿る――というのは知っているな?」


「サクヤ先生の授業で習いました。だから魂結晶こんけつしようが無事なら身体は俺たちみたいに再生出来るし、逆に魂結晶こんけつしようが破壊されると身体が無事でも死ぬって聞いてます」


「まあ、少し違うのだが。だいたいはそんなところだ。付け加えるならば、魂結晶こんけつしようにも寿命があり、やがて石化して死を迎えるわけだが……ごく稀にまれに核を残す場合があるのだ」


「核?」


「そうだ。この核には魂や《樹寵クラングラール》が残されている。核を残すのは多くの場合は英雄や偉人と呼ばれるに値する人物だ。この核を継承することで、継承者はかつての偉人や英雄の《樹寵クラングラール》も引き継ぐ。あの時に従騎士長が使ったのは、そういう騎技ドラガグラスタだ」



 ようやくシズクはセレスティーナは当然のこととして、イリエナもマリアも難しい顔をしている理由を理解した。


 たしかにそれだけの重みがあるものを、ホイホイと公開するなど論外だろう。



「当然ながら、その氏族の秘技だ。貴様たち異世界人にはもちろん、一族以外の者に伝えることも禁忌タブーとされている。だが、使っているのを見るいうぐらいはさすがに禁忌タブーとは言えん。軽々に使えるものではないのだが、使用そのものは禁忌タブーではないし、それを誰かが見るというのも当然起こりうることだからな」


「それに加えて、継承した《樹寵クラングラール》を使うにあたっては、もう一つ問題があるのです。実際に従騎士長の騎技ドラガグラスタを披露するとなると、その技を受ける相手が必要になりますが、この相手役は絶対の信頼がおける相手でなくてはなりません――ここから先は実際に見て貰っもらつた方が良いのですが。いかがですか? セレスティーナ・トラファ」



 イリエナの言葉にそっとセレスティーナは胸に手を当てた。鼓動を確かめるようにゆっくりと瞳を閉じて、静かに答える。



「構いません……むしろ、祖は再臨を望んでおられるようです」

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