第13話 セレスティーナへの依頼 -前編-

 初めての実戦の翌朝、さっそく中隊長より今後の方針が発表された。


 本部棟にある作戦室に集められたのは、それぞれの隊の小隊長および副隊長という顔ぶれで平の隊員は隊舎で待機している。



「皆さん。一昨日はご苦労様でした」


「皆の奮戦により、我が騎士団は半個の定数の実験騎士団としては破格の戦果をあげることが出来た。改めて礼を言う」



 イリエナ団長の挨拶をマリア副長が引き継ぎ、さらに今後の方針を説明する。



「小隊長以上をミードの採取部隊。戦士達を強襲部隊として運用するという方針に変更は無い。ただし、今後は今回のような全力かつ強襲部隊が全滅するまで採取を維持するという方針は変更する予定だ」



 副長の言葉に副隊長達がホッと安堵あんどの表情を浮かべた。


 いくら死に戻り出来る偽死とは言っても痛いし苦しいことには変わりは無い。


 何よりも、何が起こるかわからないという変容のリスクはとても無視出来ない。



「すでに喪失した《アジュールダイバー》および《竜骸ドラガクロム》の補充は完了している。強襲部隊を実際に指揮することになる各副隊長が中心となって訓練を行うことを希望する。小隊長はよく副隊長を監督し導くように」



 ビシッと一糸乱れぬ小隊長の敬礼に続き、わたわたと見よう見真似みまねの副隊長の形だけの敬礼が続いた。


 もちろん、シズクもその中の一人。

 慣れない所作に戸惑いながら敬礼する。



「こうした所作振る舞いを指導するのも小隊長の仕事だ。このままではとても、外に出せんからな。さて、今後の方針に続いてだが、戦士諸君は個人の技量はともかく集団での戦い方に難があるというのが改めて浮き彫りになった。しばらくは小隊レベルのでの連携訓練で戦力の底上げを狙う」



 と言った調子で、副長から今後の作戦と訓練の方針が通達されて解散となった。


 実質的な隊長格となった副隊長たちには戦士長という役職が与えられ、今後は騎士団の中核となることを求められることになる。



 嬉しいうれしいような面倒くさいようなという表情で席を立つ副隊長達に続いて腰を上げたところで、思い出したように副長から声をかけられた。



「それから、セレスティーナ従騎士長と戦士シズクはこの場に残るように」


「はっ」



 思いがけない副長の言葉に浮かしかけた腰がぴたりと止まる。


 一瞬、また何かやらかしたか……と考えてみるものの心当たりは全く思い浮かばない。


 そんなシズクの肩をお気の毒とばかりに、トールがポンと肩を叩いたたいて部屋を出て行く。


 後ろ姿を見送るうちに波が引くように、部屋にはイリエナとマリア。そしてセレスティーナとシズクの4人だけが残された。



 改めて、2人並んで腰を下ろしたシズクとセレスティーナを待っていたかのように軽いノック音。


 姿を見せたのは基地司令のヘスと整備班主任のエイゴン・ヘイケンだった。


 整備班という名称ではあるが、実験騎士団であるこの基地での役割はその範疇はんちゆうには留まらとどまらない。


 開発から改修までを一手に引き受ける《アジュールダイバー》と《竜骸ドラガクロム》のスペシャリストが整備班の実態だ。


 その責任者というだけあって、技術畑一直線といった言動から、スカイナイツ組からは密かにひそかに親父おやじさん】というあだ名を奉られている。



「まあ、楽にしろ。残ってもらったのは、ヘス卿と整備主任から提案を受けたからだ。ただ、話の内容が内容でな。これは直接、エイゴン主任から従騎士長に話をしてもらう必要があると判断した」


「あの。俺もその話を聞いちゃっていいんですか?」



 話の雰囲気から察するに、どうやらセレスティーナが深く関わる話のようだった。しかもかなり微妙というか個人的な内容らしい。


 しかし、遠慮を申し出たシズクにセレスティーナはゆっくりと首を振った。



「いや。シズクもここにいてくれ。2人だけとは言え、同じ分隊の仲間なのだ。隠し事は良くない」


「道理だな。他に隊員がいないとは言え、実質的には従騎士長の副官だ。平隊員ならともかく、副官であれば知る権利はあろう。従騎士長が許すなら問題は無い」



 直属の上官と騎士団の副長にそう言われてしまっては是非も無い。


 再び浮かしかけた腰を下ろして、大人しく話を聞くことにする。



「では、ヘイケン主任。よろしく頼む」



 おうと鷹揚おうようにうなずくと、エイゴンはスレートデバイスを取り出して作戦室に備えられたディスプレイに《アジュールダイバー》を表示させた。


 ヘイケンのような一般職員でもS・A・Sスキル・アシスト・システムインタフェイスによる視覚共有は可能なのだが、仮想現実になれない世代はこういった外部表示を好む傾向があった。



「今、整備班では《アジュールダイバー》の改修計画を考えている。《アジュールダイバー》が推進力と防御に使っている斥力場は《竜骸ドラガクロム》のメインフレームに組み込まれたジェネレーターから供給されている」



 ディスプレイに表示された《アジュールダイバー》の内部に組み込まれた《竜骸ドラガクロム《ドラガクロム》》とを接続させるエネルギーラインが表示される。



「で、このジェネレーターを制御しているのが実質的に操縦者のS・A・Sスキル・アシスト・システムなわけだ。このS・A・Sスキル・アシスト・システムはこっちで言う、あれだ――」


「《樹寵クラングラール》」



 言葉に詰まったエイゴンに副長が助け船を出す。



「そう。《樹寵クラングラール》をベースに開発された。こいつは当然ながら《竜骸ドラガクロム》を制御するには不足は無いが《アジュールダイバー》にマッチしているとは言いがたい。なんせ、大きさも重さも全く違うからな。必然的にS・A・Sスキル・アシスト・システムもこの問題はそのまま引き継がれている。それが機動性と防御性の選択問題として顕在化しているわけだ」



 《アジュールダイバー》モードでの機動性と防御のトレードオフ。


 それはゲームのスカイナイツでは、プレイスタイルを左右する一大テーマだった。


 簡単に言ってしまうと、機動性に出力を振ると斥力場シールドの出力が落ちて防御力が低下し、逆にシールドに出力を振ると機動性が落ちるというものだ。


 てっきりゲーム性を上げるのが目的だと思っていたが、まさかこんな切実な問題がそのまま再現されていたとは思わなかった。


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