私の恋心は彼に響かない

香珠樹

私の恋心は彼には響かない

 男女の友情は成立するのか――




 ――俺は、すると思う。




    ♡


「ああもうっ! また十連爆死したっ!」

「へっ、ざまぁ〜。こういうのは日頃の行いがモノを言うんだよな」

「そんなこと言ったら私のリザルト欄は全部☆5で埋め尽くされるはずじゃ?」

「あれか? 最低ランクが☆5なのか?」

「…………」

「ちょっ、無言で蹴らないで!? 普通に痛いし!」

「私に失礼なこと言った罰じゃい!」

「……これだから日頃の行いが良くないって思われるんだよな」

「ん? 何か?」

「あーうん、なんでもないよ? だから無言で微笑むのやめて怖い殺さないで」

「殺すだなんて〜まさか〜」

「目が笑ってないとはともかくとして、口元くらい笑えよ。真顔コワイ」


 学校帰りの通学路で。

 俺達は激しく言い合いながら下校していた。うん、これがいつも通りです。デフォルトよデフォルト。


 俺――齋田雅之さいだ まさゆきの隣に並びソシャゲのガチャでの爆死を嘆くは、俺の幼馴染であるゴリラ、川岸紗雪かわぎし さゆきである――


「…………(ゲシゲシ)」

「……何故ここで無言で蹴る?」

「不本意な呼び方された気がしたから」

「ひでぇなオイ。俺がお前のことをゴリラだなんて思ってるわけないじゃないか」

「YU☆U☆ZA☆I☆」

「危なっ! 全力回し蹴りは真面目にやめろや! 骨折れるっ!」

「この程度で折れる骨なんて折れちまえ!」

「ゴリラのキック喰らって折れない骨なんてねぇわ!」

「ゴリラ言うなし! 私は蝶よ花よと育てられたいたいけな少女だし! この優しくて天才な天使みたいな私でも流石にぷっつんしちゃうぞ?」

「これでぷっつんしてないとか正気か!? うおっ!」

「避けないでよっ! 当たんないじゃん!」

「当たりたくないから避けてんだよっ!」


 迫り来る途轍もない破壊力を持つ脚を躱しながらも、俺の意識は別のところへ。


 ギリギリ、本当にギリギリ見えてはいないのだが、スカートが……なんというか、危うい状態だ。大事なことなのでもう一度言うが、見えてはいない。

 だから、俺はまだ変態には成り下がっていない。ここ大事ね。最重要箇所よ。テストに絶対出るからみんな覚えておくように。


 ただまあ……最奥は見えずとも、惜しげも無く晒されながらも美しい奇跡をえがきながら迫ってくる、これまた美しい脚はモロに見えているわけであって……うん、エロい――


「うおりゃっ!」

「ぐほっっっ!!」


 そんな不埒なことを考えていたバチが当たったのだろうか。俺の腹に体重の乗った、恐らく渾身の一撃のであろう右ストレートが直撃した。ゴリラさながらの握力を持つ紗雪から放たれる拳は、当然ながら俺の胃をシェイクするに足る威力だった。……やべ、学校で食べた弁当の中身出てきそう。


「ふんっ、脚に気を取られすぎなのよ」


 なるほど。あの脚ですら戦略の一部だったのか……


「……見事、なり……」


 重い一撃だったこともあり、既に俺はギブ寸前。というかガチめに瀕死。


 人通りが少ない道ではあるが、公道ではある。

 人が何を踏んだか分からない足で何度も踏みつけてあるのだ。故意に倒れたいとは思わない。


 だが、これ以上立っていられる気はしない。


 誠に不服ながら……ここは地面と熱く抱擁を交わすことになりそう――


「……よっと。大丈夫〜?」


 地面へと吸い込まれていく俺を、不意に地面とは逆方向の力が襲った。


「さんきゅ、紗雪。助かる……」

「結構力入れちゃったからね。流石にこれくらいはするよ。謝る気は無いけど」

「眼福でした」

「ああ、手に力が入らなくなってくるよぉー」

「ちょ、おま、じょ、冗談だから!」

「……ふん。心優しい私に感謝しなさい」


 紗雪はそう言って俺をしっかりと受け止め直し、直立させた後に俺に肩を貸してくれた。

 なんだかんだ言って優しいんだよな、こいつ。今だって「流石にやりすぎたか……」って後悔しちゃってるんだろうし……。


 そんなことを考えていると、紗雪が「ほら、歩く歩く!」と軽く急かしてくる。口調こそ厳しく思えるが、紗雪の足取りは俺の事を気遣ってかゆっくりだ。


 この事実に、俺はどことなく微笑ましく感じて苦笑する。


「……何笑ってんだし」

「いやぁ、紗雪は優しいなぁって」

「きもっ」

「え、褒めたはずなのになんで俺キモがられてるの?」

「急に変な事言うからでしょ。そんなことよりも足動かしなさいよ、足を。口じゃなくて」

「へいへい」


 先程よりも少しばかり早足になっている紗雪だが、ほんのりと頬が赤くなっていたのを俺は見逃さなかった。


 だからといって、「照れてる〜」だの言ったら今度こそ間違いなく地面とキスさせられることになることくらいは想像出来る。そこまで俺は馬鹿じゃない。


 俺は再び苦笑して、未だ痛む腹部を気遣いながら早足となっている紗雪に付いて行くのだった。




 ――とまあ、これが俺達の日常。


 長年の付き合いということから甘い日々を想像する人がいるかもしれないが、俺たちの場合は違う。


 砂糖なんて一粒も無いような、それこそ逆に塩っ辛いような日々。

 そんな日々が。そんな日々の方が――俺達らしいのではないだろうか。


 互いの距離感を把握し、その範囲内で自由に過ごす。

 長年の付き合いだからこそできること。



 だが、


 そして今のところ、なるつもりもない。



 恋人となってしまえば俺達の距離感は一気に不安定になってしまうことだろう。


 特別な関係となることにより、無意識に相手の大事さがぐんと跳ね上がる。

 そして、「失いたくない」と思うことで相手の顔色をうかがったり、身の振り方を考えたりと、息苦しくなるのではないだろうか。……まあ、俺の推測でしかないのだが。俺彼女いない歴=年齢なんで。


 恋をしたことが無いからわからないが、俺のような考えを持つ者同士の間ならば――



 ――男女の友情は成立すると思う。


    ♥


 男女の友情は成立するのか――




 ――私は、しないと思う。


    ♥


「ねぇねぇ、紗雪ってやっぱり齋田くんと付き合ってたりするの?」


 雅之の腹を殴打した翌日。


 そこそこ仲のいい女子生徒が、私の机の前にやって来て私に質問してきた。


 内容的には、何度も聞かれたことのある質問。

 だからこそ、私は質問内容を咀嚼するまでもなく答えた。


「――私が雅之と? ないない」


 おどけるように、手を横に振る。


 けれど――たったそれだけを言っただけでも、胸の奥がズキリと痛んだ。


 私は、雅之と付き合っていない。もっと言えば、付き合えていないのだ。


 この恋心を認識したのはいつだっただろうか。


 過去の記憶を漁り、振り返ってみても、恋に落ちた瞬間ときは不明瞭だ。


 でも……不明瞭だからといって、この恋が不十分な訳では無い。

 身を焦がすほど熱く、彼のことを考えるだけで今にも胸がはち切れそうになるこの恋心が、不十分なはずがない。


 だけど、この恋は一向に叶う気がしない。増してや、恋をしていると気がついてから全く進歩していないのだ。


 理由は……まあ私が臆病というのもあるけれど、一番は雅之が恋愛に対して消極的なこと。


 恋に落ちて、告白をしてしまって。

 友人関係を越えようとすることで越えようとしていた友人関係を壊してしまう。


 そこから新たに恋人という関係になるならまだしも、なれなかったのならば、二人の間にあった友情に亀裂が入ることは想像に固くない。もしかすると亀裂が入るというのは違うかもしれないが、少なくとも今までと同じようには行かないだろう。気まずかったりと、疎遠になってしまう可能性だってある。


 ならば、恋人になるという失敗する可能性がある行為よりは、友人関係を深めていくほうが賢明だと考えた。

 つまり、恋をする気が無いという事だ。


 これはもうどうしようもない。

 それぞれの考え方の問題であり、私が雅之に恋心を植え付けようとしたところで彼は「友情」の延長線上と捉える。


 ……いわゆる、「叶わぬ恋」というやつなんだろうな。


 惨めに一人片思いして。

 どれだけ思ったとしても、叶うどころか気持ちすら伝わらない。



 ……本っ当に罪な男だなぁ、雅之は。



 だから私は、彼女の質問にああやって答えるしか無かった。


 じゃないと、「叶わない」という現実に押し潰されそうで。


 この感情を押し殺して……表面には「友情」だけ残るようにした。


「へぇ……意外だなぁ。結構お似合いだと思ったのに」

「そりゃどーも。でも、私とあいつの間にそーゆーの無いし、これからも付き合うことは無いだろうね」

「ふーん……じゃあ」


 目の前の少女はそこで一度言葉を区切り、ギラリとした肉食獣のような目をした。



「――私が狙ってもいいんだね?」



「――っ」



 ゾクッとした感覚。


 私が狙われている訳では無いが、それでも一瞬恐怖とも戦慄とも言えないような感情が、私の体を走った。


「い、いいんじゃない? あいつなんかでいいなら、全然狙っても」


 本音を言えば、勿論狙って欲しい訳がない。


 でも、ここで「狙わないで」だなんて言おうものなら、先程までとの矛盾が発生する。


 またもやチクリと痛む胸を無視しながら、なるべく平然と返答する。


「……なら安心だね。正直、最も恐れるライバルになり得る人物紗雪だし」


 心底ほっとしたように答える少女。冗談ではなさそうだ。


 もしかしたら冗談で言っているのかも、という疑惑は、冗談でない事が発覚し打ち砕かれた。


「でもさ……なんで紗雪はあんな優良物件狙わないの? 顔も良いし、性格も良い。あんだけ近くにいて狙わない理由なんてないじゃん。少なくとも、私だったら絶対に狙うし」

「…………」


 彼女の言葉に、言い淀む私。


 狙わない理由も何も、そもそもの前提が違っている。

 あれだけ近くに居て、良いところも悪いところも全部知っていて、狙わないワケが無いだろうに。


 だからこそ、私が嘘の情報を教えた彼女は本当に狙っていないと思っているわけで……ああもう! 嘘をつくのって難しい! バレた時は芋づる式に嘘ついたことバレるから慎重になんなきゃだし……。


 ……狙わない理由、ね……。


 私は捻り出すようにして答える。


「……多分、あいつとは友達だからああして一緒にいられるんだと思う。下心があって一緒に居るわけじゃないからどんな自分でもさらけ出せるし、無理に気を使う必要だってない。だから、恋愛感情とか異性だとかの前に、『一番の理解者』って気持ちの方が強い。けど、恋人ってなると……どうなるのか私にも検討もつかないや。上手くいくのか、いかないのか」


 気が付けば、すらすらと口から言葉が流れ出ていた。


 と、いうことは、これも本心なのだろう。


 理解者としての彼。

 異性としての彼。


 その二種類の彼が、私の認識の中にいるのだろうか。背反するような、二人の彼が。


「うーん……よくわかんないけど、要するに齋田くんとは『いい友達』ってことなんだね」

「まあ、間違ってはないね」

「そっか……よし。じゃあ、積極的に齋田くんのこと、狙っていくとしますかね」


 そう言って笑うと、目の前の少女は「時間取ってごめんね〜」と言いながら手を振り去っていった。


 彼女の後ろ姿を見ながら、私は心の中で「ありがとう」と感謝した。


 この少しの時間で、私自身の彼に対しての感情を見つめ直すことが出来た。


 一方的だがライバルという関係になったと認識しているので、感謝と同時に「負けないぞ」という気持ちもふつふつと湧き上がってくる。


 というか、「負けないぞ」って私思ってるんだよね……





 ――ああ、やっぱり、男女の友情ってのは、成立し得ないよなぁ……


 ――成立したら、こんなつらい思いをしないで済んだのに。



    ♡



「――ねえ齋田君。一瞬いい?」



 紗雪ゴリラに殴られてから二日が経過した日の朝。


 ちょっとした理由から一人で登校することになってしまった俺は、学校にたどりついてちょっとした後、ある女子生徒に声をかけられた。ぼっち登校なんて、さ、寂しくなんてなかったもんねっ!


 勿論(?)、本来ならば紗雪と一緒に登校しているはずなのだが……今朝待ち合わせ場所で紗雪を待っている時に彼女から寝坊したという旨のメールと、焦っている様子を表現したであろうスタンプが大量に届いた。だから、「そんなことする暇あるんなら早く仕度しろ」と返しておいた。意外と余裕だったりすんのか? 知らんけど。


 登校途中、いつも紗雪と登校してるせいで違和感というか、ちょっとした物足りなさを感じていた。

 いつも見ているはずの光景が何となく新鮮に感じたりだとか、紗雪がいないことで普段なら気に留めないことも気にしてしまったりとか。

 悪いことばかりではないが、いつもの賑やかさが無いのは……ま、まあ、ちょっとは寂しかったな。うん。(男のツンデレとか誰得だよいやマジで)


 というか、それはまあいいとして。

 俺は今、一人の女子生徒に話しかけられたのである。当然ながら、紗雪は絶賛遅刻を免れるために学校までダッシュ中のはずなので違う。


 それに……どことは詳しくは言えないが、大きさがちょっと違いすぎる。

 紗雪のソレは、ドラミングをして潰されているのかそこまでのボリュームが無く……っと、よくわからないけどさっきが来たのでこれには触れてはいけなさそうだ。勘の良い人は察してくれ。俺はまだ死にとうないよ。


 っと、脱線したな。


 何はともあれ、俺は女子生徒に呼び出されたみたいだ。


「ああ。もちろんいいぞ」


 勿論断る理由なんてないし、俺は快諾する。彼女も「一瞬」と言ったことだし、時間はかからないだろう。


「ありがとう。……で、その、なんというか、お話……があって……」


 もじもじと言いにくそうにする彼女を見て、俺は不安になる。


 言いにくいお話と言うことか。なんだろう……。

 咄嗟に思い浮かんだのは俺に対して不利益なことの伝達。それならば、言いにくくもなるはずだ。

 と、なると……


「……もしかして、説教?」

「あ、いやいやいや! 違うのっ! 説教とかじゃなくて、えっと……」


 わたわたとしながら俺の誤解を解こうとするのか、言葉を探している様子の女子生徒。

 取り敢えず、説教ではないことが判明したので安心だ。もしかしたら説教ではないけれど嫌なことだったりする可能性は無きにしも非ずだがな。厄介事っぽかったら断ろう。


「……ま、まあ、とにかく話したいことがあるのっ! だから、昼休みに屋上に来てほしいのっ! それだけっ!」


 そして女子生徒は、「それと、絶対に一人で来てねっ! 絶対だよっ!」と言い残し、逃げるように走り去っていった。……別に逃げる必要なく無い? もしかして俺のこと嫌いだったりするのかな? こんなやつとは一秒でも早くおさらばしたい! みたいな。何それ俺傷つくわ。泣いていい?


 朝っぱらから幾分かテンションを下げることになりながら、俺は一人とぼとぼと教室に向かうのだった。




 ……つか、さっきの子結局誰なん? 名前すら知らないんだが。


    ♥


 起床から約五分で支度を終えて全力疾走をしたおかげか、遅刻することなく学校にたどり着いた。


 とはいえ、ギリギリもギリギリ。チャイムが鳴る中校門を駆け抜けた時に味わったあのスリルは、しばらく忘れられなさそうだ。


 一時間目の始まりまではまだ少しだけだが時間がある。

 朝雅之に会えなかった為に、私の中の雅之成分が補充できていない……いやなんかこれ、客観的に見たらただの変態だな。今のセリフ無しカットで。


 だがまあ、会いたいっていう気持ちは嘘ではない。

 クラスが違うので会うためには彼のいるクラスまで行かなければいけないのだが……まあ、一時間目に遅れなければセーフか。


 そう思い、学校に来るまでに走って疲れた足を「彼に会うため」と言い聞かせて無理矢理に動かす。


 ……と、そこで、ある少女に声をかけられた。


「あ、紗雪!」


 その少女の方に目をやれば、昨日のあの少女――雅之のことを狙うと宣言した、あの少女だった。


「……どうかした?」

「――私、齋田君に告白することに決めたの!」

「………………は?」


 え?

 告白する?


 私の頭の中は一瞬で混乱状態に陥ってしまった。


「やっぱり、好きになってもらうには興味を乗ってもらうのが先決でしょ? でも私、齋田君と全く関わりないし、どうしよっかなって考えてたら、じゃあ告白すればいいじゃん、って。ほぼ初対面の相手にそんなことされれば嫌でも印象に残るでしょ? 思い立ったが吉日。だから、今日告白することに決めたの。……紗雪には一応伝えとこうかなーって思ってさ。ほら、昨日質問したりしたし」

「そ、そう……」

「それにしても、緊張したなぁ……あ、朝にね、声かけたの。齋田君に。『昼休み屋上着て』ってね。初めての告白だから、もう胸のどきどきが収まらないよぉ」


 少しずつ、理解が追い付いてきた。

 この少女は、本気で狙っている――と。


 わかっていたことだ。


 昨日話を聞いた際のあの獲物を狙うような目だったりと、本気で狙っているとはわかっていた。


 だが、今まで把握している範囲では雅之のことが狙われるという経験が無く、心の奥のどこかで「雅之は自分のモノ」という意識があったのだろう。狙われる、ということの恐ろしさを理解していなかったのだ。


 奪われるかもしれないという不安。


 彼がそう簡単に靡くとは思えないが、彼は別に私と付き合っているわけではない。

「奪われない」という保証はどこにもないのだ。


 その時、幸か不幸かチャイムが鳴った。

 一時間目が始まる。


「じゃ、一時間目始まるから戻るねー」


 バイバイー、と手を振りながら去っていくその少女にぎこちない笑顔を浮かべながらも、別れの挨拶を返す。


 怖い。

 雅之が取られるんじゃないか。自分のもとから離れていくんじゃないか。


 どうしようもないことなのに、不安は募るばかりで。


 私は悶々としながら午前中の授業を受け続けるのだった。



    ♡



 昼休み。


 よくわからないが屋上に呼び出されたので、取り敢えず行くだけ行くことにした。まあ、流石に放り出すのも申し訳ないからな。


 屋上は一応生徒にも開放されているが、あまり使用する生徒はいない。


 青春のシーンの一幕で、屋上で生徒が昼ご飯を食べに集まっているみたいなことがあるが、うちの学校でそんなことをする人は少ない。何故なら、もっとお洒落なカフェと言うか食堂と言うか、そんな感じの場所があるからだ。


 ……それに、景観が良いわけでもない。そもそもの屋上の高さが低いため、これと言った見えるものは無い。

 なので、使用する理由としては、「一人になりたい」といった時がほとんど。それゆえ人が少ないのだ。


 そんな場所に呼び出して、何がしたいのだろう。

 疑問を抱えながら、屋上に向かう階段を上る。


 しばらくすれば屋上に入るためのドアが見えてきた。

 そのドアノブに手をかけて、ぐるっと回せば、重い音を立てながらも扉は開いた。


「……待たせたみたいだな」

「いやいや、私だって今来たばっかだよ。……それに、呼び出したのこっちだから、気にしないで」

「そうか」


 屋上には既に今朝の少女が居た。


 どこか緊張したおもむきで、これから何か起こるのか、と不安になってくる。……まあ、向こうも一人だけのようだし、厄介事の可能性は低そうだ。


 だが、それならばなぜに緊張しているのか。……あれか、男子と二人っきりって状況が不安なのか。何されるかわかんないし、そりゃあ緊張もしちゃうか。


 勝手に納得したところで、本題を切り出してもらう。


「……で、何で俺のことを呼び出したんだ? 屋上ってことはあんまり人目に付きたくないってことなんだろうし」

「そ、それは……その……」


 朝の時と同じようにもじもじしながらも、少女は自分の両頬を両掌でパチンっと叩き、俺の顔を見据えてきた。



「――齋田君。私は、あなたのことが好きです」



「……それは、どうしてだ?」


 真っ先に出たのはそんな言葉。

 まさかそんなことを言われるとは思っていなかったので、最早条件反射のような返答だった。


 けれども、気になっていることは事実。


 俺からしてみれば向こうなんて関わりのない人であり、好きになられる要素なんてもんは無いはず。

 たとえ関わりがあったとしても、好きになられる要素が俺にそもそも存在しているのか。実際俺といつも一緒に居て俺の誰よりの理解者と言っても過言ではない紗雪でさえ、そんな素振りを見せていないのだから。


「……だって、齋田君カッコいいし、優しいし。だから、気が付いたら好きになってたの」

「気が付いたら、ね……」


 少女の言葉を聞きながら、俺は思う。



 ああ――



「……なら君は、カッコよくて優しければ誰でも好きになるのか?」

「……え?」

「君が俺のことを好きになった理由を、他の人が俺と同じように揃えていたのなら、君はその人のことを好きになったのか?」

「……そんなの、わかんないじゃん。実際にそんな人はいないわけだし」

「でも、探せば見つけることだってきっとできるだろ? ……俺が知りたいのは一つだけ。君は、何をもって『俺のことが好き』だと思ったんだ? 『俺じゃないとダメ』って思えるような、そんな理由があったのか?」


 少々意地悪な質問をしているのは自覚している。


 だが、同時に「俺のことが好き」と言うのならば、これくらいには答えれてほしいと思った。


「俺は、君の『好き』という気持ちを否定したいわけじゃない。きっとその気持ちは本物で、好きになることに理由なんて必要ないのかもしれない。恋をするのは生き物の習性であり、コントロールなんてできないだろうからな。だけど……俺にはその『恋』と言う気持ちが理解できないんだ。君は、俺と同じように顔が良くて、性格の良い人が現れたとしても、好きにならないかもしれない。好きになるには何かしらの因果関係があって、好きになるための『条件』が揃わなかったら好きになんてならないんだろう。要するに、恋って感情は偶然の産物だ。だったら……何をもって『好き』と言う感情はあるんだろうな。単純に種を残すのならば恋なんて邪魔なだけだし、非効率的だ」

「…………」

「それに、恋なんてしなくたって、友達としてお互い楽しい日々を送れれば十分じゃないのか? 恋人だなんて、感情の浮き沈みによって変化してしまう不安定な関係よりも、俺はずっと友達でいた方がよっぽどいいと思うんだけど」


 少女はもう、完全に黙り切ってしまっている。


 恐らく、心の中で俺に対して「面倒くさいやつ」という評価が生まれているだろうな。

 でも、本当にそう思ってくれているのならば狙い通りだ。いわゆる付随効果ってやつだけど、それはオフレコでよろしく。


 ここまで長く話したところでお互いに利益なんて生んでない、生産性のない話なわけで、それなのに長ったらしくしゃべる俺に対して俺に対して負のイメージが生じたのならば、「フラれた」というイメージも薄くなるはずだ……知らないけどさ。正直狙ったってのも嘘でそれこそ偶然なんだけど。


「まあ、つまり……俺は君が好きではないってことだ。もちろん、嫌いだとかそういう意味ではなくて、単純に『恋をしていない』ってだけ。……他に言いたいことはある?」

「…………」

「……無言は肯定という意味で捉えさせてもらうよ」


 そう言い残し、俺は屋上を去った。

 ……言いすぎちゃったな。あんま仲いいわけでもないのに。というかほぼ初対面なのに。


 多少の後悔を残しながらも、自分の教室へと俺は戻るのだった。



    ♥



 昼休みの間も、私は気が気ではなかった。


 彼女が告白すると言っていたのが、この昼休み。

 何もすることができない私は、ただただ不安になるだけで。もちろん、食欲なんて湧くわけがない。

 だから私は、時が来て、事の顛末を知ることができるのを、今か今かと待ち構えた。


 そうして、昼休みが始まってから十数分が経過したころ――


 ガラッという教室の引き戸が明けられる音と同時に、待ち望んでいた少女が現れた。

 クラス内で昼食を取っていた生徒の視線を一瞬集めたが、それだけ。

 少女が特に変だったわけでもなく、普段と何ら変わりのない姿なために生徒は何事もなかったかのように談笑を再開したりなどし始める。


 そんな中私は、彼女のもとに向かって歩き始めていた。


 いつもよりも気持ち早足で、一刻も早く結果を知りたい一心で彼女に向かう。

 すると彼女もこちらに気が付いたようで、向こうから口を開き始めてくれた。


「あはは……私、フラれたよ」

「……っ! ……そう。それは、残念だったね」


 どこか乾いた笑みを浮かべる彼女に、私は心の底からホッとしてしまう。

 不謹慎とはわかっていながらも、これは正直な気持ちだ。雅之が奪われなかった、そのことに今朝から積み重なっていた精神的な疲労が全て安堵に塗り替わった。


 ただ、一人の友人として彼女の恋が叶わなかったということを励ましたいという気持ちだって、勿論ある。

 何を言うべきか。

 フラれてしまった彼女の気に障ることを間違っても言わないように、慎重に言葉を選んでいれば、またもや彼女の方から話し始めてくれた。


「私ね、齋田君からの質問――何をもって俺のことを好きだと思ったのか、俺じゃなきゃダメって理由はあるのか――っていう質問に、答えられなかったの。好きである理由はわかっても、前提として『好き』という感情は何をもって『好き』と断定できるのか。齋田君じゃないとダメって言いきれないってことは、もしかしたら、私の抱いている感情は『好き』じゃないかもしれない――そう、自分の感情を見失っちゃったの。本当ならそんなもの、誰だってわからないだろうに、私は迷っちゃったの」

「…………」


 彼女の話す様はフラれたにもかかわらずはっきりとしていて、ひどく落ち込んだりといったことは見られない。


 まるで――自分はどうするべきなのか。その道筋が、はっきり見えているようだ。


「だから――私はもう、迷いたくない。今はまだ言葉一つで簡単に揺らいじゃうような恋だけど、いつか絶対に、どんなことを言われようとも『好き』を突き通せるような恋を目指したい。この人じゃないとダメって恋を見つけたい。そう思ったの」


 彼女の言葉を聞きながら、私は自分の中にちょっとした劣等感なる感情が芽生え始めているのに気が付いた。


 目の前のほんの数分前に失恋したであろう少女は、落ち込むでもなくしっかりとした決意を胸にしていた。



 だが……



 長い間一緒に居ることに胡坐あぐらをかき、自分から何も行動せずに、元から自分のモノでもないくせに「奪われる」だなんて思って……


 もちろん資格だとか、そんなものは恋愛には必要ない。

 けれど、告白する側の心の在り様としては、中途半端なのは相手にも、もっと言えばその相手を好きでいる自分に対しても失礼だ。


 私は目を覚ますように、思いっきり自分の頬を自分の手で張った。


 パチン


 その音に少し注目を集めてしまったようだが、関係ない。


「……決めた」

「ん? 何を?」




「――私、雅之に告白する」




「うんうん、いいんじゃない……ぃいぃっ!?」


 驚きのあまりか、語尾が変な風になってしまった様子の少女。目も見開いてる。……まあ、そうだよね。


「嘘ついててごめんね。実を言うと、私も雅之のことが好き。この感情は、貴方にだって負けるつもりはないし、絶対に彼を、私のモノにしてみせる。だから……告白させてもらうことにした。……黙ってて、本当にごめん」


 嘘をついたのだから、怒鳴られても仕方がないとは思った。


 なんなら、私が少女が雅之にフラれることを面白がっていたんじゃないかって思われるかもしれない。それも、仕方がないと思う。向こうがどう捉えるかは知らないが、捉えようによってはフラれることが分かっていながらも応援したり後押しをして、フラれる姿を見ることを望んでいると解釈される可能性だってあったわけだから。


 でも彼女は、そんなことをせず。


「……あちゃー。紗雪も齋田君のこと好きだったのか……こりゃ参ったね」

「……おこら、ないの……?」

「え、何で怒る必要があるの? 齋田君も言ってたよ。恋愛感情はコントロールできるものじゃないって。確かに騙されていた気持ちにはなるけどさ、それを恨んだところで告白したことが無くなるわけでもないし。というか、告白したことを後悔してないし、むしろこれから私が「恋」をする上で、大事なことに気が付けたし。むしろ、私が感謝するべきなのでは……?」


 そんな感じで、一向に私のことを責めようとしない少女にまたもや劣等感を感じる。今度は、器の広さか。


 けれども、その程度でへこたれてちゃいけない。


 彼女には彼女の良さがあり、私には私の良さがある。そう信じているから。


「ま、恋敵ライバルだから、心情的にはフクザツではあるんだけど……それでも、応援はしてるよ。競争相手である前に、一人の友達だし」

「ありがとう。……ここからは、正々堂々とした勝負。どっちが選ばれようと、恨みっこ無し。……いいよね?」

「望むところだよ!」


 気が付けば、私達は固い握手を交わしていた。


 この動作に、何となく心地よさを感じる。同じ目的を持つもの同士、繋がるものがあったからだろうか。


 なんにせよ……私は「友達」というぬるま湯の中に、熱湯を注ぐかのごとき行いをこれからするのだ。


 最悪、雅之との友情に亀裂が生まれるかもしれない。


 でも、それでも……私はこの思いを伝えるって決めた。


 これくらいで壊れるような友情なら、いっそ壊れてしまえ。

 そんなぶっ飛んだ思考をしながら、私は体の奥底から湧き上がってくる熱により、興奮に似た状態へと陥っていった。



    ♥



「……なあ紗雪。そういえばなんだが、今日はどうしたんだ? 朝寝坊なんて珍しい」

「…………」

「おーい、紗雪さんやーい」

「…………」


 告白を決意した日の放課後。いつも通りの帰宅中。


 私は不意に足を止めて、目を閉じ……深呼吸。

 ……ああ、やっぱり、こういうのは思い立ったが吉日だ。でなければ、緊張に押し負けて、折角熱された心が冷めてしまいかねない。


「……紗雪?」


 突然足を止めた私を不審に思ったのか、雅之が私の顔を覗く。

 もう一度だけ、深呼吸をする。よし、行くぞ。




 ――私の思いの全てを、ぶつけてやる。




「雅之」

「どうかしたか?」






「――私、雅之が好き」






「は?」


「誰かを思いやれる、優しい雅之が。私が失敗して泣いちゃったときも、傍で慰めてくれた雅之が。喧嘩しちゃって、しばらくした後おどおどしながら謝る雅之が。嬉しいことがあった時に、笑顔で報告に来る雅之が。くだらない会話でも笑いながら楽しそうな表情を見せる雅之が。……雅之の全部が、私は好き。雅之無しじゃ生きていけないってくらい好き。一緒に居る時間は、私にとって何よりも幸せで大切で。だからこそ、もっと大切にしたかった。恋人っていう形をもって、嫌でも忘れられないような思い出にして」


「…………」


「……やっぱ、困っちゃうよね。雅之からしてみたら私は仲の良い友達ってだけで、それ以上でも以下でもないでしょ? だから……返事は最悪、なくてもいい。たとえ今この会話で私達の関係が終わりを迎えても、後悔はしない。どんな結果になろうとも、これだけは覚えておいて」







「――――私は世界で一番、貴方を愛してるよ」






「……それだけっ!」


 最後に、今までの人生でも最高レベルな笑顔を浮かべ、私は走り去る。


 ……ああ……言っちゃったなぁ……。


 後悔に似ていて、でも、後悔はしていなくて。

 不思議な感情が体の中を支配する。


 思いは伝えた。

 



 この先どうなるかは――雅之次第だ。



    ♡



「……それだけっ!」


 そう言い残して去っていく紗雪を、俺はただただ呆然と見ていた。


 頭の処理が追い付かない。


 今俺は、紗雪に告白されたんだよな?


 何で? いや、それよりも……やっぱり何で?


 今まで紗雪は俺のことが好きということを感じさせなかった。

 それゆえ、驚きが半端ではない。


 何で、と問うても返ってこない。

 どうして、という言葉も虚空に消えていく。


 ならば、今そんなことを考えても無駄だ。今は、もっと大事なことがある。



 ――俺は、紗雪のことをどう思っているんだ?



 好意的な気持ちであることは確か。

 一緒に居れば楽しいし、好きではある。

 ……ただし、それは友人としての「好き」だ。異性としての「好き」ではないだろう。


 それに俺は、異性としての「好き」がどんなものなのかすら知らない。判断するだなんて、出来るはずもないんだ。


 考えれば考えるほど、頭の中はこんがらがって。


 彼女に対しての思いや、これから自分はどうしたいのか。この事実を受けて、俺達の関係性はどうなってしまうのか。


 わからないことばかりだ。


 ……でも、一つだけ確かなことはある。


 これは、最初からわかっていたもの。

 毒にも薬にもならず、何の解決策にもならないが、それでもこの気持ちが大事なのは流石にわかる。


 それは――



    ♥



 告白をした翌日。


 私は、いつもの場所に立っていた。いつも学校に登校するときに、雅之と待ち合わせる場所だ。


 もしかしたら向こうは会いたくないかもしれない。

 けれど、きっと彼はここに現れる。


 会いたくなくても、誠意を見せてくれる。彼ならばきっと、自分の口で伝えるためにここに来るはずだ。……最悪、会いたくなければ別ルートを行く手だってあるはずだし、私が向こうのこと気にしても無駄か。


 ……まあ、だからこの場所で待つことにした。

 どんな結果であろうと、目を逸らしてはいけないから。告白したのならば、最後まで――返事を受け取るまでが一セット。


 そんなことを考えながら、彼がやってくるのを待つ。……が。


 ……なかなか来ない。

 いつもならもう学校に向けて歩き始めていてもおかしくない時間だ。


 もしかして、別ルートで行ったのか?

 その可能性だって否定できないし……ちょっぴり不安になる。


 だが、そんな不安とは裏腹に――彼は来た。


 遠くから走ってくる姿。

 それを見るだけで、安心感や、嬉しさやらが溢れてくる。


「はぁっ、はぁっ……すまん、遅くなった」

「……どうかしたの?」

「……寝坊した」

「あらら」


 見れば、彼の眼の下にはくっきりとしたクマが浮かんでいた。


「そのクマ……」

「ああ、これ。これは……その、昨日は全く寝れなくて……」

「…………」


 要するに彼のクマは、私のせいなのだろう。身勝手にも告白をした、私のせい。

 それでも夜の睡眠の時間を削ってまで考えてきてくれたということを知り、やはり嬉しくなる。


 だが、同時に返事を聞くことに対しての緊張も生まれてきた。


 お互いに何も言わなくても、察する。


 話題を切り出すのは、今だ――と。


「……まずは、簡潔に言わせてほしい」

「……うん」




「――俺は、紗雪とは付き合えない」




「…………そっか――」


「――でもっ! ……紗雪とはずっと一緒に居たい」


「…………」


「これが『恋』なのかは俺にも分らない。紗雪のことを異性として好きなのかだって、俺にはわからなかった。だけど……この『ずっと一緒に居たい』っていう気持ちは本当だ! 恋人になるのは、関係が壊れるんじゃないかって怖くてできないけど……そんなヘタレで臆病な俺でもいいんなら、俺をずっと紗雪の傍に居させてほしい。……お願いだ」



 雅之の言葉を全部聞き終わった私は……



「はぁぁぁぁぁぁぁ……」


 重いため息が口から漏れ出る。


「……まあ、雅之のことだし、そんなところだろうと思っていた。このヘタレっ! 意気地なしっ!」

「ご、ごめん……」




「――でも……しょうがないから、ずっと、ずぅっと私の傍に居させてあげるっ!」

「……ははっ、なんだよそれ」



 友達以上、恋人未満。



 私達は、まさにそれだろう。


 友達のように気軽で、恋人のような甘さは無い。


 物足りなくはあっても、それがとっても心地よくて。


 ――これが、男女の友情は成立するのか、という問いで背反しあった二人の、妥協点なんだろうな。



    ♥



「ちっ、また十連爆死か」

「ざまぁみろ~! こういうのはね、日頃の行いがモノを言うんだよね」

「……どっかできいたセリフだなぁ……」

「雅之が言ったんでしょ!」

「……俺は知らないな。そもそも、俺は日頃の行い良いはずだし? そんな適当な嘘で人を馬鹿にしようったって、そう簡単にはいかないぞ」

「……でもぉ、どっかの誰かさんは、人が真剣に告白したのに、ものすごぉく中途半端な答え返してきたりしてたし?」

「…………」

「……黙ってないでなんか言ったら? 雅之クン」

「……過去のことを引きずる女は嫌われるぞ」

「雅之はそんなことじゃ私を嫌わないって知ってるからね。雅之だけの、ト・ク・ベ・ツ☆だよ?」

「…………」

「ねえ何その眼。私のこと、ゴミ箱に入れようとして投げたけど外れてしまったゴミを見るような眼で見ないでよ」

「なんだよその眼。妙に具体的だなぁおい」


 これが、私達の新たな日常。


 とはいえ、何かが大幅に変わったわけではない。

 強いて言えば……私達が手を繋いでいることくらい。

 「付き合わせてくれないんだから、これくらいはいいでしょ」と、私がゴリ押した結果だ。


 右手に伝わってくる温もりは、確かな温かさを孕んでいて。

 最初こそ恥ずかしさもあったが、慣れれば単なる幸せでしかなく。







 ――これからもずっと、ずっと、この人と一緒に居られますように。






        fin

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私の恋心は彼に響かない 香珠樹 @Kazuki453

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