近くて遠い部屋
ネコイル (猫頭鷹と海豚🦉&🐬)
わたしから見たあなた
『設計者に迫る、独自性でどこよりも話題の部屋に込めた意図とは?』
わたしはある程度書き連ねたところでいよいよ、一番の難関とも言えるタイトルを迎えて深いため息をついた。
聞かなきゃ、駄目よね・・・
わたしがこんな仕事をもらえているのも、誰もが羨むような待遇を受けれているのも、ぜんぶわたしの幼馴染であり、『気鋭の設計』として話題に上がったこの部屋をデザインした
彼の作り上げたこの部屋にどういうわけか招待されたわたしは、それをどこかから耳に入れた出版社の人間に高い原稿料の代わりに仕事を抱え込まされてこの部屋の中で原稿を仕上げている。
わたしは小説家の端くれとして、雑誌になんとか小説を掲載させてもらいつつ、他の出版社から雑誌の記事のお仕事をもらって生活している。だから今回のお話も断るわけにはいかなかった。
でも、要に部屋を紹介されたときは正直、どう記事にまとめたものか頭を悩ませた。部屋のなかはシンプルかつ平坦な印象を受ける。おそらく人の腰よりも高い家具がほとんどないからだろう。その代わり、至る所にビーズを詰め込んんだクッションが、それこそ怪我防止のためみたいに部屋を囲んでいた。要いわく端によるとバランスを崩して体勢を崩しやすいらしい。じゃあなんでこんな部屋をつくったの?という疑問は胸の内に留めておいた。
「それじゃあ、僕は一旦出るね」
と言って要はわたしと一緒に入ったドアに手をかける。
「ここのドアは開けるときにタイミングがあるから、ちょっと不便だけど我慢してね」
要の言葉に続いてガチャリと、扉が開く音がした。
なるほどね、そんな不便さをわたしの手で女の子が夢焦がれるようなシチュエーションに変えろって言う訳?これは相当難しい仕事になりそうね。
わたしが頭を悩ませていると、後方から再びガチャリと扉が開く音がする。でもそれはわたしの部屋の扉ではなく、隣に見える要の過ごす部屋の扉だ。なんとも不思議で落ち着かない。自分の部屋にいるというのにお互いをガラスごしに見つめているみたいな気分になる。わたしがそう感じるだけで、もっと若い子、特に恋にすべてを奪われている男女からすればこれもドキドキするシチュエーションなのだろうか。もう長らく恋に触れていないわたしにはよく分からなかった。
「どうかな?最初は落ち着かないだろうけど、段々慣れると思うよ」
要はそういってわたしの目に映る反応を伺う。
わたしはこれから数時間、または数日間をこの部屋で過ごさなければならない不安と。この違和感の塊である部屋を原稿にまとめなければという焦燥感で、「そうだね・・・」と軽く返事を返すのみだった。
その時のわたしは気がつかなかったが、要のどんな反応を見せるのかというわたしへの期待には応えれなかったみたいだった。
彼のいう通り数時間もこの部屋のレイアウトや住み心地について考えていると、特殊な状況にも慣れていったし、わたしもその特殊性を利用することを考えるようになった。
いつもの癖で行き詰ったわたしは意味もなくティッシュを丸めて固めるとそれを部屋の端に置かれたゴミ箱に向かって放った。丸められたティッシュはそれこそ野球のボールのように回転しながら飛んで行った。しかし、途中で髪がほどけるように広がってしまい、空気抵抗の増したボールはその場で一気に減速、ゴミ箱まであと一歩というところで床に落ちてしまった。わたしの背後からそれを目ざとく指摘した要に対してわたしは大人気もなく「代わりに捨ててよ」と駄々をこねた。
半分は八つ当たりだけど、実際問題、要のほうがわたしより近いじゃんと指摘すると要は渋々といった様子でゴミ箱まで歩いて行き、そのゴミが捨てられるところを私は見ていた。
わたしのいるこっちの空間には入らないでとくぎを刺していたが、ほんの少しだし今回は目をつむってあげた。
そんなこんなでわたしは出版社に提出するための原稿を書き上げていった。でも、最後のテーマばかりは要に聞かなきゃいけない。
わたしは緊張を抑えつつ、要のいるほうへ頭を向けた。
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