外伝9:シュトレーゼンの演劇と詐欺師、あとエルフ③
次の日、劇団員の1人を度胸づけと称して、広場で演劇練習をさせる。
これは要するに、新たなカモを拾うためである。
俺の劇団員は女も居ないことはないが男がほとんどである。
これは夢を追いかけ、楽して有名になりたいと思う男が多いせいもあるが、女は他の詐欺とどうしても競合してしまうのだ。
春に夢を追いかけ上京した田舎娘が、都会で有名になろうとして風俗店員となる。
今も昔も変わらぬ風物詩である。
そんなわけで女の場合、意外と無一文の裸一貫で勝負を賭けることも多く、こういった先行投資にはあまり金をかけない。
先行投資する女も居るが、そういう人はしっかり下調べしており、詐欺にはかかりにくいので除外である。
よって女に金を払わせるにはその庇護者、つまり親をだまくらかせて、というのが定番となるのでより一層一手間掛かるのだ。
男は何故か、夢のために財布の紐が緩みがちで、先行投資と言えばあっさり金を支払ったりしやすい。
人の夢と書いて、儚い。
実にその通り。
「それを食い物にするのがあんたってわけね。
あんたがまともに詐欺しているの見るの今回が初めてかもしんない」
広場の階段に座り、呆れ顔で耳を帽子で隠したエルフ女が呟く。
昨日まで詐欺の片棒を担がされていないチョロいエルフ女であるが、そのことを指摘しない優しい俺。
今後も手伝ってもらわなければならないからだ。
……邪魔されることの方が多いけど。
(シー! エルフ女、シー!
俺は今、詐欺をしているんじゃない!
人に夢を見させているんだ。
叶う叶わないはそいつ次第、ただそれだけだ)
夢のために投資するのは正しいことだと思わせて、そこに至るキャッシュフローがまったく割に合っていないなどと夢の前にはどうでも良いことなのだ
夢を叶えたあと、それを取り戻すリターンがあるどころか、生活費の足しにもならんのが夢あるあるだとしてもだ!
それが夢ってもんだ!!
俺はそのお手伝いにお金を頂戴している、ただそれだけだ!!
劇団員の男は高らかに歌いながら演技する。
そこそこ声量はあるが、別にそこまで上手い訳ではない。
それでも娯楽の少ない街であろう、通る人が自然と足を止める。
そこに。
「演技としては3流だね」
現れたのは20そこそこの黒髪のなんてことはない男。
「なん、だと……!?」
劇団員の男、略して劇男はその言葉に反応する。
「3流だと言ったんだよ。
演技を、馬鹿にしないでくれないか?」
なおもそう言い放つ男の後ろには黒髪ロングの剣士風の女。
シスター風の格好と杖を持ったピンクロングの良い身体をした女。
緑セミロングでこれまた良い身体をした魔法使い風の黒い格好の女。
いずれもA級に至るかもしれない見た目の良い若い女である。
10代でも後半に入っているかどうか。
まだちょっと青っぽいから、見た目よりさらに子供かもしれない。
「あ、あれは!」
たまたま隣でダンボール敷いて寝転んでいたオッサンが驚きの声を上げる。
「知ってるのか? オッサン!」
そっと銅貨3枚渡す。
情報の対価はしっかりしておくのは、チンケな詐欺師であればあるほど重要。
そこだけは値切らない。
「ああ、このベルゼンの街で最近噂になっている冒険者で、噂では転生者だそうだ。
後ろの3人はその情婦で、ハーレム野郎だ」
なんと!? ハーレム野郎か!
それは全人類の男どもの敵、許すまじ!
俺?
いやぁ、ほら、俺はほら、冒険者とかじゃないから〜、例外というか?
「転生者、って何?」
エルフ女が首を傾げる。
おおっと、そうだった。
転生者という言葉は一般人にはそう馴染みのある言葉ではない。
どちらかと言えば宗教家が輪廻転生で云々カンヌンと金を信者から巻き上げる時に使う。
俺も邪教……今では正教だが、それの教祖をやっていた時に、その言い回し一つで人々から金を吐き出させたものだ。
もっと言えば勇者が伝えた古文書の妄想物語の中に出てくる都合の良い設定だ。
転生したら突然、才能が溢れて美女と何もしなくてもねんごろになれると言う素晴らしい魔法の存在だ。
「何それ?
どう聞いても詐欺っぽいんだけど?」
どうだろう?
詐欺師でも流石にそんなネタは使わないと思うよ?
詐欺師が実は世界を支配した皇帝だと言われるぐらい、有り得なさすぎる。
あっ、でも、世界規模の詐欺を行うなら、いっそそれぐらい規模をデカくすると逆にバレないらしいぞ!
アハハハハ。
「それを聞いて、あたしにどうしろと……?」
いえ、どうもしなくて結構です。
「その転生者様の冒険者がなんで演技に対して文句言ってきてんの?
関係なくない?」
さあ?
確かに冒険者なんだから演劇とは関係がないな。
勇者と同じような考え方をするなら、性格異常者が多いのかもしれないし、それならそれでさっさと逃げよう。
そこで事情通のオッサンが解説してくれる。
「そこの奴は数々のスキルって奴があるらしく、大衆の演劇なんかはこだわりがあって、自称だが才能もあるらしいぞ?
それでヘタな演技を見せられて、我慢出来なくなったということだろうぜ?」
このオッサン、便利だな。
成る程、キョウちゃん、あ、娘じゃなくて勇者として来てたキョウちゃんのことだが。
彼女も出会った当初は同じようによく分からないことに喧嘩売って来てたなぁ〜……。
そうだとするならば、本物の転生者とやらなのかもしれない。
関わり合いになりたくないけど、一応、そこの劇男の関係者だから仕方ない。
俺はパンパッンと手を叩きながら階段を降り、転生野郎に声を掛ける。
「そこの貴方!
どういうつもりでざんすか!?
うちの劇団員の演技の何か気に入らないでザマスか!?」
「……何、その喋り方」
後ろについて来たエルフ女がボソッと突っ込む。
エルフ女さん。
今から詐欺るんだから、とりあえず黙ってて?
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