第2話ゴンザレスとメリッサ

 おっす、オラ、ゴンザレスじゃなかったアレス。


 しがない詐欺師だ。


 今、絶賛、帝都にある酒場の看板娘メメちゃんに土下座されてる。


 この看板娘メメちゃんの居る酒場は以前も訪れて、その時はソーニャ・タイロンに絡まれて……おっとと、その話はいずれ。


 とにかく、その時も残念ながら客と店員との関係でしかなく、こんな風に土下座される理由は全くない。


 ちなみに注文を間違えたとか、お盆のお酒を俺にぶっかけたとかでもない。


 そんなことなら、代わりに一晩とかお願いするところだ。

 それを土下座で拒否されても嫌だが。


 大体、今日はメメちゃんは出勤していなかった筈だ。


 なんで俺に土下座してんの?

 俺はキョロキョロ辺りを見回す。


 昼間の酒場では、くたびれたオッサンが1人突っ伏して寝ているだけで、その行為を止める者は居ない。


「お願いします! カレン姫様をお助け下さい! 何卒、この通りです!」


 この娘何言ってんの!?


 改めて、土下座している看板娘を見る。

 首元までの茶色のサラサラの髪で全体的に小柄で可愛らしい。


 今は土下座をしているので見えないが、クリっとした黒い目が宝石のようで、朗らかで温かい雰囲気の看板娘で、街娘らしい素朴さも魅力だ。


 しかしながら、前見た時よりも肌艶も綺麗に見えるのは気のせいか?


 それはそれとして。


「世界ランクNo.2を助けるとは、どう言う意味だ?」

 言っていることがまるで分からん。


 メメちゃんは顔を上げ懇願するように俺を見つめ、カレン姫が森で行方不明になっている、と告げた。


 そんなことより俺はメメちゃんのある変化に気付かずにいられなかった。


 やっぱり可愛くなっているな。

 この娘、何処ぞのお姫様並に美人になってないかい?

 いつもの街娘風な感じがない。


 まるで前見た時が、街娘に変装していたとでもいうかの如くだ。

 それとも……。


「恋か」


 ビクッとメメちゃんは反応し、今度は怯えるように俺を見る。


 俺は内心大笑いしながら微笑む。

 儚い恋を俺の手で手折るのも悪くない。


 頼みの内容次第でこのメメちゃんを美味しく頂けるのならば、このアレス、勝負に出てみたいと思います!


 名付けてメメちゃんのお身体だけ頂戴して、頼み事はごめ〜ん、ちょっと無理〜作戦だ!


「もっと詳しく話を聞こう」

 俺は来るべくして来たチャンスに内心、小躍りしながら話を促す。


 メメちゃんから話を聞いた。

 そして、思った。

 無理じゃね?


 1ヶ月ほど前、世界の叡智の塔の世界ランクに異変が起きた。


 世界ランク最高峰のNo.1の上にある文字が表示された。


『魔王』


 言葉通りに取るならば、伝説上の魔王だろう。

 それと同時期に、大要塞サルビアに詰めていたNo.5、6が、大要塞サルビアごと魔獣の大群により殺された。


 その時の魔獣の数は何十万という噂だ。

 魔獣は蜘蛛の子を散らすように何処かへ消え、他の地方が壊滅することは免れたが、魔獣被害は世界で格段に増加した。


 一気に弱体化したエストリア国。

 だが、事はもちろんそれだけに留まらなかった。


 時をずらしながら、No.7、No.4、そしてなんとNo.3までも、突如発生した魔獣の大群により殺された。


 世界の叡智の塔は、新たな人物を選ぶ事なくその文字は灰色に変わった。

 まるで、世界の叡智の塔が世界中の人々を嘲笑っているかのように。







「そして、次はNo.2カレン姫の番が来た、と。」


 だんだんと灰色が増えていく世界の叡智の塔。俺が何よりも思ったのが、No.8早く消えてくんないかなぁ、だった。

 後、No.1も。


 そんでもって改めて思った。

 何言ってんの? この娘。


 なんでただの詐欺師の俺に、皇帝の娘で世界ランクNo.2の超化け物のカレン姫を助けられると思うわけ?


 No.8の女といい、いきなり街中で魔力を暴走させるNo.1といい、ナンバーズは何処からどう考えても化け物だ。


 あ、ソーニャちゃんはその中でもマトモだよ? 是非、ベッドで一戦願いたい。


 またまた改めてメメちゃんを見る。

 スタイルも良いし、柔らかそうだし、唇もピンクだし、明らかにこの間より可愛く見える。


 是非頂きたい。

 よって俺はもう少し踏み込むことにした。


「どういう状況なんだ?」


 メメちゃんは、床で正座した状態でキラキラした目で俺を見上げた。


 こういう状態の人は簡単に詐欺れそう。


「はい! カレン姫様はここからほど近い森で任務中、万を超える魔獣が発生するも、これを撃退!


 しかしながら、グレーターデーモンという大きな角の魔獣により、森の奥地に追い込まれ現在行方不明になっております。


 我々、帝国第3諜報部隊も現在、必死に捜索するも援軍として来た帝国の主力第一、第二部隊ごと数十万の魔獣に阻まれ、行方を探ることは困難を極めているとのこと」


「無理だ」


 メメちゃんは途端に絶望的な顔をする。


 無理に決まってんじゃん?

 何度も言うけど、何言ってんの、この娘。

 しかも我々第3諜報部隊って言っちゃったよ!


 密偵である事って秘密じゃないの!?


「帝国、か。」

 じゃあ詐欺にかけたら、帝国全土からのお尋ね者にされるじゃないか。


 俺はちょっと寂しげな顔をしてしまう。

 あ〜あ、メメちゃん手〜出したかったなぁ。


「さ、さすれば!」


 ん? メメちゃんが、何やら覚悟を秘めた目で見上げて来たぞ?


「さすれば! お助け頂けるならば、帝国第3諜報部隊を抜け、貴方様のしもべとなりましょう! この身、この身体全て御主人様の物となりましょう!」


 思わず椅子を蹴って立ち上がる。


「本気か?」


 メメちゃんは頷く。


 俺は天を仰ぐ。

 ああ、素晴らしい……。


「今、この時この瞬間から帝国を抜け我が物となる、良いか?」


 メメちゃんは迷いなく頷く。


 ああ……なんかよく分からないけれど、頂きます。

 俺は頭の中がなんだか砂糖菓子になったように、思考を停止した。


 いつの間にか顔を上げていたオッサンにジェスチャーで、この娘今から俺のだからね?と確認。


 頷いたので酒場のおっちゃんに2階の宿の部屋を手配。


 まずは休憩から。

 そう言うと、おっちゃんは親指をグッと立てたので俺も立て返しておいた。


 では、いっただきまーす!


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