第22話No.1とゴンザレス

 どうも、アレスです。

 最近、詐欺をしてない詐欺師です。


 ゴンザレス、なーんて呼ばれたこともあったりなかったり。


 そんな俺だが、今、絶賛イケメンに見つめられ中。


 俺は男色の気は無いの〜、見ないでー。


 目を逸らして逃げたいんだけど、逃がしてくれそうにない。

 このイケメンの名前は世界最強の男! 光のハムウェイ!


 なんで〜?


 俺は傷心を癒すために、コルラン国首都にやって来た。

 都会はいい……。

 文化的な服、葉っぱの男は1人も居ない。

 世界ランクNo.1男は居るが。


 目を合わせてはいけない。気をつけよう。


 ……目を合わしてないんだから、ニコニコ笑顔で近づいてこないで?


 最近、ふと思うわけだが、俺の日々にも潤いが必要だよなぁ、と。


 決して、笑顔で近づく危険なイケメンでも、すぐに切ろうとする危険な女でもない普通な美人が良い。


「何してるんだい? 君、この国で重犯罪人って理解してる?」


「なんのことだ? アンタは誰だ?」

 誰だい、チミは?


 俺はチミみたいなNo.1なんて見たことないぞ?


 突然、笑い出すNo.1。

 ついには腹を抱えてまで笑っている。


 逃げて良い?


「……ははは、あくまで僕は眼中にないということかい?

 ははは……随分、バカにされたもんだなぁああああ!!!!」


 烈風が吹き荒れ、辺りの物が飛ばされる。

 No.1から強大な魔力が放たれたせいだろう。


 何故、俺が飛ばされていないかって?

 ほら、台風の中心って晴れるだろ?アレと一緒。


 俺も一緒に飛ばして〜!?


 勝手に興奮してはぁはぁと荒い息をするNo.1。


「……流石だね、一切動揺を見せないとは」


 固まって動けないだけですが、何か?


「やめておけ、これ以上は死ぬだけだ」

 俺がだ。

 頼むからやめてくれ!


 ガクッとNo.1が膝を付く。


「クッ」


 何だか苦しそうにしてこちらを睨んでるけど、どうでもいいや!

 今のうちにトンズラしよう!


 あっばよー! No.1。


「待て!」

 待てと言われて待つバカが……そうだ。


 俺は足をピタッと止めてNo.1に顔だけ振り向く。

「お前は俺の敵ではない」

「何!? 貴様ぁぁぁあああ!!」

 何故怒る!?


 ダメ押ししておこう。


「俺にお前は殺せない。さらばだ」-


 勝てる訳ないしねー!

 トンズラ、トンズラ!


 最後の言葉を理解してくれたらしく、呆然とNo.1は俺を見送った。


 二度と会わないぞ!!!







 僕、ハムウェイは無茶をし過ぎていた。

 エストリア国との敗戦の後始末の後、その足で急ぎ本国へ戻って来たので、ろくに休んでいない。


 なのに首都に帰ると世界の叡智の塔を見上げるNo.0の姿があった。


 何故、どうして、が繰り返される。


 エストリア国の領主として、戦争を勝利に導いた立役者だ。


 どう考えても、エストリア国の首都で勲章の授与でもされていないとおかしい。


 仮にその勲章を蹴ったとしても、領主として領内に居るはずの男がどんなマジックを使えば、コルラン国の首都に現れるというのだ!


 あえてその不可能を可能にしてまで、ここに何をしに来たのか……。


 簡単だ。


 自分を、世界ランクNo.1を始末しに来たとしか考えられなかった。


 僕の背中に冷たい汗が流れる。


 かつてどのような戦いであろうとも、これほどの戦慄を感じることなどなかった。


 なのにNo.0はあくまで自然体であった。

 コルラン国の重犯罪人であるはずなのに、ここに自分が居ることが当然のことのように自然に立っている。


 その異常さ。


 叫びを上げて逃げてしまいたい。

 生まれて初めてそう思ってしまった。


 それでもNo.1として、コルラン国の英雄としてのプライドが僕を奴に近づけさせる。


 やはりというか当然、奴は僕の存在に気付いていた。



 声を掛けたが、アンタは誰だ、と……。


 このNo.1の僕を!!!!


 怒りに任せて、魔力を全開に放つ。

 巨大な台風の如く。


 なのに、なのに……。


 なのに奴は、平然としていられるのだ!!!




「……流石だね、一切動揺を見せないとは」


 もう魔力は残っていなかった。


「やめておけ、これ以上は死ぬだけだ」


 威圧するでもなく、脅すでもなく、彼はただそれが当然とでもいうように、そう僕に、告げた。


 僕は、気力の全てを失い、ガクッと膝を付く。


 ……死ぬのか、僕は。


 何故、エストリア国ではなくコルラン国で殺すのか、僕には簡単に分かった。


 戦場でなら、何かの間違いで戦死することもあるだろう。


 例え、それがNo.1であろうとも。


 だが、それがコルラン国、自国のそれも首都で白昼堂々と最強であるはずのNo.1が完膚なきまでに敗れ……死亡する。


 ……コルラン国はもう再起不能となるだろう。


 それでも、この国を守りたい。


 No.0を睨みつける。


 だが、彼は何もせず僕に背を向け走り出す。

「待て!」

 僕は彼を何故か、呼び止めてしまった。


 彼は一度だけ僕に振り返り、一言だけ残し走り去った。

 その後ろ姿を僕は愕然と見送るしかなかった。


「殺せない、だって……?」

 どう見ても殺せたはずだ。


 その言葉の前に言われた言葉を、心の中で繰り返す。

『お前は俺の敵ではない』


 最初はバカにされたのだと思った。

 だが、次に放たれた言葉と合わせると、違う意味を持つことはすぐに分かった。


『お前は俺の敵ではない、つまり味方だ。だから殺せない』


「どういう、ことだ……?」


 僕を殺すためではなければ、彼は何をしに……。


 そこで気付かされる。


 彼が僕を味方だというならば、何処かにその敵が居る。


 僕が来るまで彼は何を見ていたか?


 ハッとして僕は世界の叡智の塔を見る。


 まさか!





 この日、世界は震撼する。

 コルラン国の首都にて白昼堂々とNo.1とNo.0が激突し、No.1が膝を屈したと。


 それは世界最強No.0の伝説が真実であることを、世界が知ってしまった瞬間でもある。


 世界最強No.0


 世界ランクを刻む世界の叡智の塔。

 そこには未だNo.0という番号は、ない。


 ……そして、世界の叡智の塔。

 その塔に世界ランクナンバーズ、その頂点No.1の上位にある文字が描かれた。





『魔王』と。



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