第4話 盗賊団頭領・ランペイザー

「ひゃっはっははは、いいぞーガウリカ様ぁー!」

「かぁーっくいぃー! そらそらぁ、腰が入ってないぜぇー? 俺が後ろからしっかり掴んでやろうかぁー?」


 非情の猛火に焼かれている、町の屋敷。天を衝くほどに炎上しているその生家を背にして、独り気丈に剣を振るう少女の奮戦を――周囲の男達が、下卑た笑みを浮かべて囃し立てていた。

 例え町に攻め込まれても、たった独りで戦うことになっても、泣き出すことも諦めることもなく、勇ましく戦う

ガウリカ。そんな彼女がいずれ力尽きるまで、彼らは抵抗という名の余興を愉しむつもりなのだ。


「はぁ、はぁっ、はぁっ……! よくも、この町をっ……!」

「んー、やっぱりそういう生意気な眼はソソるねぇ。剣を振るたびに乳はぶるんぶるん、尻はぷりっぷり。チラチラ見えるパンティも堪んねえなぁ。砂漠の町って言ってもイイとこのご息女様ともなれば、食ってるモノから違うのかねぇ」

「なっ……こ、このぉッ!」


 町に伝わる、古代の戦乙女が使っていたとされる戦装束。その家宝に袖を通して戦うガウリカの勇姿も、圧倒的に実力で勝っている盗賊達にとっては、目の保養でしかない。

 怒りに任せた彼女の斬撃を容易くかわしながら、その褐色肌の美しさを堪能する男。彼の厭らしい視線は、恋も知らないまま生きてきた十六歳の乙女には、耐え難いものがあった。


「私は、私達が守り抜いてきたこの町は絶対、お前達なんかに……あうッ!」

「そろそろお遊びにも飽きてきたなぁ。お前らぁ、本番・・といこうぜ?」

「おっしゃあ、やっとかぁ!」


 その恥じらいが隙となり、敢えなく取り押さえられた彼女は、瞬く間に剣も取り上げられてしまう。戦う術を失った彼女に待ち受ける結末は、一つしかない。


「意外にしぶとかったなー、ガウリカ様よぉ。ま、その方が燃えるから俺達としては嬉しいんだけどなぁ!」

「今度は、こっち・・・で楽しませてくれや!」

「い、いやっ……やめ、やめろぉっ! やめてぇぇえっ!」


 次々と男達が彼女の柔肌に群がり、のし掛かり。戦装束を剥ぎ取っていく。そこから始まるを予感し、悲鳴を上げる彼女の悲痛な貌すら、覆い隠していくかのように。


 だが、その宴が始まることはなかった。


「――飛剣風ひけんぷう


 その一言が、この燃える屋敷に響き渡った瞬間。


「ぐぎゃあぁあぁッ!?」

「えっ……!?」


 ガウリカに覆い被さっていた男達が全員、瞬く間に吹き飛ばされてしまったのである。何が起きたのか全く理解できず、驚愕の表情で固まる彼女の前には、銅の剣が突き刺さっていた。


「……一箇所に固まってくれたおかげで、纏めて吹き飛ばせたよ。単純な奴らは始末が楽で良いね」


 赤いマフラーを靡かせ、ガウリカの眼前に降り立った黒髪の少年は、銅の剣を引き抜き彼女に手を差し伸べる。その優しげな笑みに、少女は経験したことのない高鳴り・・・を覚えていた。

 我に帰り、慌てて胸元を隠すその姿は、年頃の少女そのもの。そんな彼女の様子に微笑を浮かべる少年――ダタッツは、か細い彼女の手を取り、ゆっくりと立ち上がらせる。


「い、今のは、あなたが……?」

「ダタッツです。あのお爺さんの頼みで応援に参りました」

「爺やが!?」

「ガウリカ様〜っ! ダタッツ君っ!」

「あっ……爺やっ! 良かった、無事で……!」


 その時、ガウリカの名を呼ぶ爺やが手を振り、2人の前に駆け寄って来た。無事に冒険者ギルドから帰ってきた彼の姿に、ガウリカも笑顔を取り戻す。


「……ッ!」

「えっ!?」


 刹那。遠方からの殺気を感じたダタッツは、咄嗟に爺やの前で剣を振り上げた。

 その切っ先は爺やを狙っていた矢を弾き、紙一重で彼の命を救う。一瞬の出来事に腰を抜かした爺やに、ガウリカも慌てて駆け寄っていた。


「ダ、ダタッツ君……!」

「……ガウリカさん、お爺さんを連れて早く遠くへ。もう町民の避難は終わってるはずだ」

「わ、わかった……済まない、ダタッツ!」


 自分も共に戦いたい。それが本音であったが、すでに自分が付いてこれるような次元ではないことも理解していた。

 初めて会ったばかりの少年の背に、何度も熱い視線を注ぎながら。ガウリカは腰を抜かしてしまった爺やに肩を貸し、この場を離れていく。


 その様子を一瞥した後――ダタッツは、鋭い視線を矢が飛んできた方向に向ける。すでにその先には、盗賊団の主力部隊が現れていた。

 彼らの中心に立ち、漆塗りの甲冑・・・・・・を纏う一人の少年は、獰猛な笑みを浮かべて一振りの剣を肩に乗せている。


「……あなたが、盗賊団の頭領か」

「あぁ。意外に餓鬼っぽくて驚いたか? ランペイザーだ、冥土の土産に覚えておきな」


 ランペイザーと名乗る盗賊団の頭領。その凶悪な眼光と、全身を固める傷だらけの甲冑に――ダタッツは、静かに眼を細めていた。

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