第3話 お母さんは魔法使い
お母さんは魔法使い
私は幼い頃、お母さんの事を魔法使いだと思っていた。
お風呂に入る時、体を洗うのに我が家は固形石鹸を使っていた。それ以外にも、外から帰って来た時にも手を洗う時に使っていた。
手洗い場の石鹸はいつも蜜柑を入れていたオレンジ色のあの網目のネットだ。
「お母さん、どうして石鹸を網の中に入れるの?」
幼い頃、私はこう母に質問した。
「この中に入れた石鹸を手で擦ると石鹸が網目に擦れて泡立つからよ。ほら、やってごらん」母の言われた通りに手を擦ると本当に泡立って、面白かった。ついやりすぎて、小さくなるまで擦っていたら大目玉を食らったのを今でも覚えている。
小さくなった石鹸を母は牛乳パックを半分くらいに切った箱の中に入れて貯めていた。
私はそれも不思議だった。何故、そんなものを取っておくのか分からなかったけれど、きっとこれもお母さんの魔法で変わるんだと思っていた。
ある日、洗面所に置いてあった牛乳パックの箱が新しい物に変わっていた。あれ? 捨ててしまったのかな? と思っていたら、その夜お風呂で渡された石鹸に驚いた。牛乳パックと同じように真四角だったのだ。驚く私に母は「あの箱に入っていた沢山の石鹸の欠片を温めてもう一度大きな石鹸に戻しただけよ」と目をまん丸にして驚く私に説明した。
「お母さん! 凄い! 凄い!」
興奮し過ぎて、私はお風呂場でジャンプした。
あっ! と慌てて手を伸ばした母の行動虚しく、私は見事に滑って頭を打ち、
その時の事を今の母に聞くと「あの時は本気で焦ったのよ。全く、あんたって子は」と呆れられた。
一応、病院に連れて行ってくれたらしいんだけど、先生からは「石頭」と診断されたらしい。
その診断通り、私の頭はタンコブすら出来なかった。母は小さい頃、私に沢山のおまじないをかけてくれた。
体調が悪くなりそうになると林檎が出されて何時もこう言われた。
「林檎にはね、病気になりにくい魔法が掛かってるのよ」
そう言われて、林檎を食べると本当に病気に成らずに済んだ。
転んで膝を擦りむいたら「痛いの痛いの〜飛んでけ〜!」と母が手を振ると本当に痛みが引いた気がした。
今はその魔法を母から受け継いで、自分の子供に掛けている。まだまだ、母の様な偉大な魔法使いになる為には程遠いと染み染み思っている。
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