短編
夢夜 雨汰湖
第1話灰色の神様
秋の澄んだ青空の元、あぜ道を竹笊を持って歩く少女が一人。竹笊の中には山で採れた茸や山菜が入っていた。笊を持つ手も質素なワンピースからのぞく両足も透き通る様な白さであった。彼女の周りに小さな羽虫が飛んで来て、手の甲に止まった。それに気付いた彼女は立ち止まって、その羽虫を見下ろす。しかし、それは彼女の手だと気づいていない様子だった。途端に少女の瞳からは涙が零れ落ちた。その雨粒が羽虫の上に落ちる寸前、それは音も立てずに飛び去って行った。
「どうしたんだ?」
後ろから杖をついた老人が竹籠を背負って山から下りて来た。竹籠の中には薪用の枝、腰には野兎が二匹と
あぜ道は暫く続く。辺り一面には
この一面の
前方に
「おお、婆さんやーい」
老人が軒先で佇む人影に気付いてそう叫ぶと「爺さんやーい」と前方から返事が来る。ほっかむりをして、褪せた着物を身に纏った老婆が手を振っていた。二人が辿り着くと老婆は少女の肩にそっと手を置いた。
「お帰り。疲れたろう? さあ、中へお入り」
少女は小さく頷いて家屋の中へと入って行く。その背中を心配そうに見つめながら、老夫婦も後に続いた。
帰宅した老人は竹籠を土間に降ろして、腰に下げた野兎と大
「何か悲しい事でもあったかい?」
不意に尋ねられて、手が止まった。兎の血に濡れる手は無機質な模型だった。温度も何も感じない。あの羽虫が気づかないのも当然だった。老婆は綿で出来た真っ白な前掛けで彼女の目元を拭い、それ以上は何も聞かなかった。
帰宅した老人は竹籠を土間に降ろして、腰に下げた野兎と大
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