生まれ変わった背中で、私達は大罪を背負う
七四六明
英雄の誕生、もしくは大罪の覚醒
誕生か覚醒か
大戦があった。
七つの連合軍と、一つの王国とが繰り広げた、世界規模の大戦が。
もう、十年も前のことだ。
七つもの国が徒党を組んで、世界最大の大国に牙を剥いたものの、結果は一方的だった。
大国には、一七年前まで世界を支配していた魔王を討ち倒した、七人の英雄がいたからだ。
実質、七つの国は、七人の英雄と戦った。
戦って一年、一ヶ月、一週間と掛からず敗走し、滅ぼされた。
七つの国が敗走を決めると後は殲滅で、さながら神に等しき英雄らに逆らった天罰とばかりに、七つの国に所属する村や小さな街から焼かれていった。
当時五歳だった少女も、焼かれた村の生まれだった。
「――走れ! アン! 頑張って走るんだ!」
走れ。
止まるな。
逃げろ。
炎から、剣から、兵士から、人々が逃げ惑う。
父に腕を引かれるまま逃げる五歳の少女の目には、焼かれ、斬られ、必死の命乞いも抵抗も虚しく、昨日まで苦しいながらも生きていた村の人達が殺されていく光景が刻まれていく。
昨日まで共に生きていた人々の死を、母と共に嘆き悲しみながら、父に促されるまま走り続けていた少女の目の前に、それは立ちはだかった。
「お願いします! 子供だけは、この子だけは――!」
目の前で、父の首が飛んだ。
悲鳴と共に駆け寄った母の胸元から血飛沫が弾け、その場で並んで息絶える。
昨日まで――いやつい今の今まで共に生きていた両親。大好きな両親が動かない。起き上がって、言の葉の一文さえ紡いでくれないことに、少女は泣き叫ぶ。
「うるさい」
一閃。
視界が一瞬で真っ暗になった。
炎が見えない。父が見えない。母が見えない。未だ目の前にいるはずのそれの姿もどこにもない。
瞬間、両目が焼けるように痛くて、体中の熱という熱が抜け出てしまうのではないかというくらいの熱を籠もらせた血が両目から溢れ出ていることに気付いたとき、少女はショックでその場に倒れ込んだ。
不幸中の幸いと言うべきなのかそれともただの不運なのか。
斬られた直後に倒れたことで死んだと思ったのか。それは結果的に、少女の命を見逃す事となり――十年。
青年となった少女アンは、十年の眠りから目を覚ました。
「……」
光を失った双眸を触り、最後の記憶より大きくなって、最期の記憶とはまるで違う自分の体の至る部分を、
数秒の硬直と数分の沈黙の後、部屋に入って驚愕したのだろう誰かがトレーを落とす音が聞こえると、ゆっくりと振り返って。
「み、ず……」
十年ぶりになんとか絞り出した声で、喉の渇きを訴えた。
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