保健室登校の友利さんとの戯れ
あいすてぃー*
佐藤美希と友利沙羅
***
季節は夏。
世界中が地球温暖化の影響により年々平均気温が上がってきており、今日は最高気温36℃の猛暑日である。
教室にはエアコンがあるが、人口密度が高い。その為、生徒一人一人の体温によってエアコンの設定気温より、少々暑く感じてしまう。
しかし、
彼女の叔父であり、養護教諭である
新しい書き込みを見ながら、本来なら校則違反である授業中の食べ物の摂取も堂々としている。最近は暑いためチョコなどの溶けるものはあまりオススメしない。今日はドイツが原産国であるグミ、ハリボーを手に取っていた。暑さによって少々ブニブニしているが、元々硬いだけあるのかあまり違和感はない。
8月28日
1ー3 佐藤
ピアノ教室の差別が嫌だ。
私のクラスにはスクールカーストが存在します。
私は底辺とかではなく真ん中の不可もなく可もない人なのですが、スクールカーストトップの如月絵美里という人に悪口をよく言われます。如月とはピアノ教室が一緒で先生は如月を贔屓し、私を貶します。
来月には発表会もあるなか、まともに指導してくれない先生のせいで、ひどい結果になってしまうかも知れません。
これを見てくれた方、何か対処法はございますか?
このノートには匿名の人も多いのだが、ここまで堂々と──しかもクラスの女王様的存在のを書くだなんて、バレたら首が吹き飛びそうだなと思う。まあ、その方が特定が楽だからいいのだが……。そして、なんて返信しようかと考える。
「私は何でも出来ると言う認識なのか?」
基本的にこのノートに無茶ぶりを書く生徒が多い。さすがにピアノは弾けるが、未経験であるものだと色々大変である。その点に関しては感謝だな。と思う。
「対処法ねぇ……」
沙羅は返信を考えながら、
***
なんだこれは。
私──
その理由は簡単で、クラスの女王様的存在
至って平凡な私とスクールカーストトップの如月絵美里の接点は普通はないように見える。しかし、接点があるため難癖付けられている。その接点とはピアノ教室が一緒だと言うことと、1ヶ月後にある発表会に出ると言うことだ。
言うまでもなく、絵美里の方がピアノは上手いように見える。しかし、それは授業量の多さというのか、はたまた先生の贔屓なのかはわからない。だが、先生が絵美里のことを気に入っているのは一目瞭然だ。
「貴方、確か私と同じピアノ教室だったわよねぇ」
「絵美里と同じ?嘘〜?このちんちくりんが〜?」
「まあ、絵美里より下手だろうね。だって、先生絵美里のこと大切にしてるんでしょ?」
「まーね。だって、お金持ちの子には誰にもよくしたいでしょ。」
絵美里は自虐的に言っているだろうが、周りから見るとただの嫌味にしか聞こえない。取り巻きA、取り巻きBも私の事をバカにしている。確かに、私より何もかもが上な絵美里は嫌味を言ってくるかもしれない。
だけど、取り巻きを使ってまで私の境遇をからかうのは嫌だ。
「如月、もうそこまでにしろ。」
私は何も言い返せないままでいると、学年で1番と言えるほどの容姿を持った美しい青年が、入ってきた。ここまで目立たせるなと軽く睨むが、彼は特に何も言わない。
「
「颯斗君!あっち行こ!」
そんな彼はもちろんスクールカーストトップであり、絵美里の男バージョンとまでは言わないが、とても影響力のある人だ。絵美里は彼のことが好きで、いつもベッタリとくっついている。彼に告白した人は絵美里に虐められたという噂もあるらしい。
そんな彼が何故私を助けたのか。普通の女子は脈アリかも!と喜ぶところだが、彼は面倒くさそうに話の間に割って入ってきた。彼は偽善者なのか?だったら、もっと言われているはずだ。そうなると、誰かの命令なのかもしれない。彼を命令出来る人なんてそうそう居ないだろうな。と思う。
彼は入学式すら出席しなかった不登校児の机を一瞬見たと思うと、絵美里たちに連れていかれた。人の関係については言及しないタイプなのだが、少し気になってしまったのは内緒にしておこう。
***
時刻は5時。
帰宅部の人は既に下校しており、運動部も下校し始めている。この猛暑の中──例え夕方となっても、熱中症や脱水症状になる確率は高い。一日のほとんどを保健室で過ごす沙羅は、佐藤美希と対談していた。
事の発端は少し遡って4時半辺り。
美希は長崎颯斗が、保健室に行っていたのをたまたま見てしまった。こっそり見たい気持ちも反面、見てはいけないという気持ちもあり、悶々としていた所を沙羅に見られていた。いつの間にか長崎颯斗は帰っていて、目の前には天使がいたという。
友利沙羅の容姿は如月絵美里よりも美しい。恐らく、ミスコンテスト優勝者よりも断然こちらの方が綺麗である。
カスタードベージュの波立つ髪の毛。目の色は髪色より少し薄く、それがまた幻想的である。ぱっちりとしていて、猫を彷彿とさせる大きな目。小さいが、形の整った小鼻。最近紫外線がの強いのにも関わらず、雪のように白い肌。左右対称の整った顔。人とは思えないほどの美貌であった。それがまた恐ろしく見える。
そんな人外とも言える美貌の持ち主、沙羅は美希を見かけたのは偶然だった。
保健室に颯斗が押しかけてきて、適当にあしらった後にたまたま見つけた。沙羅は入学式には出席していないが、入学式の日に学校へと来ていた。クラス全員の名前と顔を覚え、満足して帰っていったという少々……いやかなり変わった人である。
そんな彼女だから、直ぐに名前と顔が一致した。その人こそが、今朝ノートを書いて言った佐藤美希であった。
「1年3組の佐藤美希だよね」
語尾に音符が付きそうなくらい機嫌の良さそうな沙羅。対照的にビクビクと怯えている美希。美希は自分が何をされるか未だに予想できない。
「あの……私のことは誰にも言わないでください!!覗いたのはほんの出来心だったんです!すみません!!」
「あー……。そーゆーのは別にいーから。こっち側が好都合なだけだし。」
「好都合……?」
「そ。あんた、このノートに見覚えない?」
沙羅は美希の前に大学ノートを見せた。
美希はびっくりしていたが、何か納得したらしくこくんと静かに頷いた。
「(冷静が故に標的にされたわけか。なんか不憫だな……。)」
美希は他の人よりも、頭の回転が早い。
恐らく、ピアノを指導してる人もそんな彼女が気に入らなかったのだろう。自分の思い通りにならない彼女に嫌気がさしたということである。
「(金の力がどうのこうの言ってたみたいだが、たかが有名会社の社員がそこまで金持ちとは思えないんだがなぁ……。)」
絵美里は他の人よりも金持ちなのかもしれない。だが、それでも他人よりちょっと上な程度であって、社員だなんて何百人もいるようなもんだ。その上の課長や部長…社長となると一体何なのだろう。
「ピアノがどうのこうの言ってたけどさ、結局どうしたいの?金賞を取りたいの?あいつを見返したいの?」
「そ、それは……」
「……優柔不断なやつには用はない。帰れ。」
「え、絵美里を見返したい!学校では適わなくても、せめてピアノでは絵美里より上でいたい!」
「やっぱそうじゃん。私が直々に指導してあげるよ。見返したいんでしょ?なら、ピアノの先生に頼らない方が良いよね。」
「えええ……?」
***
なんか凄い人だったな……。
私──佐藤美希は保健室にいた少女とのやり取りが幻だったのでは無いかと、まだ疑ってしまう。しかし、スマホの連絡先を交換したため、これが現実だということが目に見える。
「沙羅……ちゃん?あの子、保健室登校をしてるのかな?あの子がいれば、絶対絵美里をギャフンと言わせられるのに……。」
私はいつの間にか家に帰っていた。
時刻は6時。共働きの親はまだ帰ってきていない。沙羅と言う少女は、女でもある私でも見とれてしまうほどの美少女だった。長崎颯斗と知り合いなのかな?もしかしたら付き合ってるとか……!あの2人なら絶対お似合いなんだけどなー……。
なんてことを妄想しているんだ。佐藤美希。
落ち着け落ち着け。私は妄想するほど色々進行していない。何もかもを精算したい。もう寝るしかない。
「寝よう。」
何故かこのような結論に至った私は、このまま寝落ちしてしまい、朝になって焦る事となった。
***
「さーてと、教室はどうなってるかなー?」
「沙羅ちゃん……。さすがに盗聴と盗撮はダメだと思うよ……。」
「1週間だけだし、大丈夫、だいじょーぶ!」
友利沙羅は朝っぱらから、犯罪行為をする問題児である。だから学校側が保健室登校を許可したのだが、ほとんどが叔父のコネである。友利真司の兄であり、この学校の理事長である友利
「
「じゃあ普通に登校しろよ!」
「却下。」
沙羅は基本的に利己主義であり、八方美人でもある。
相手を最大限に利用し、使えなくなったら容赦なく切り捨てる。それが原因で、高校に入る前に叔父が保健室登校を推奨したのである。
沙羅の中学生時代はあまりにも酷くて周辺でも有名な人であった。現在の如月絵美里に似ていたのかもしれない。とつくづく思ってしまう。
「何時でも笑って接したら、人はよく騙されるものだ。佐藤美希はうちのクラスの状況を知るためにある道具であるだけ。そう、それだけの関係。」
「(どうにかして、この性格を直してくれ……。兄さん……。)」
友利真司はそんな沙羅の様子を眺めながら、彼のもう1人の兄──沙羅の父に願ったのであった。
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