第13話 ハッカーとアメリナ。
「くそ。ハッキングされている。変なウイルスいれやがってっ!」
『大丈夫。手伝おうか?』
「手伝ってくれ」
『分かった。頑張る(`・ω・´)』
シャキーンという顔文字で表現する春海。
「しかし、このデータは……」
このデータはWNOのデータだ。裏組織WNO――Worldwide Network Organizationの略称だ。
この組織、暗い噂が流れているが、断定するにはほど遠い情報源だ。国連の情報源となっているらしく、恐らくは誰かが流したデマだろう。
でも、これだけのハッカーが裏にひかえているとなると、派手にハッキングできないな。
『終わった』
「サンキュー」
短い会話を終えると、
スマホを操作し、電話をかける。
「もしもし、大久保さん」
『なんだ。突然』
「急遽、新たなパソコンを使いたい。どこか別の場所で使いたい」
『……分かった。用意する。迎えはよんである』
ピンポーンと鳴り響くチャイム。
玄関に出ると、そこには美柑がいた。
「こんにちは。迎えにきたよ」
「もともと来る予定だったから早いのか」
「うん。そうなの」
美柑に連れられ、都内の大きなホテルにたどり着く。
その間にもスマホでメールを開く。
『急いで』と春海からメールが届いている。
何事か? と思い慌ててスマホを操作する。接続するのはアメリナのネットワーク。その軍事機密の情報だ。
「無人偵察機に続いて無人戦闘機の開発に成功……?」
しかもドローンに搭載可能な小型レーザー兵器を作ったとある。
アメリナのほぼ全土にレーザー兵器を配置、しかも他国に対しては無人戦闘機を派遣する……と。
核のような広範囲を戦略する兵器ではなく、ピンポイントで狙う戦術兵器だ。これは大変なことになる。戦争をAIに任せた遠くからの、遠隔操作による人殺しになる。ボタン一つですむ戦争になるのだ。そこに礼節も、罪悪感もない。ただゲームをやるように、終わってしまう戦争。
物量と質に任せた戦術。アメリナでなければ不可能な話だ。その先にあるのは悲しい結末しかない。
そう思いながら新たに用意されたホテルにはいる。その一室に案内され、パソコンと必要最低限の物が用意される。
「わたしも、ここで待っているの」
「お前は帰って大丈夫だぞ」
パソコンを立ち上げてすぐに、笹原総理のパソコンをハッキングする。
『まずい状態だ。アメリナの大量破壊兵器をなんとかしなくてはならない』
(そうだな。まずは攪乱させるため、データを盗みみる)
「よう。おれも呼ばれたが、何をすればいい?」
横から入ってきたのは大久保大輔捜査官。
「大久保さんは笹原総理とのホットラインを」
「了解」
うっとうしいそうに呟く大輔。渋々やっている感じがするのだ。
ノートパソコンを隣に置き、開く。起動させてすぐさまに笹原総理とのホットラインを確保する。
今ではジオパンクに認められたホワイトハッカーになっているが、これでもこないだまではブラックだったのだ。
国を背負っている以上、こっちの動向を探らせるわけにはいかない。
(ルプス。今回はこっちのパソコンにも注意しろ)
『分かった。でも大丈夫なの?』
(ああ。俺も援護に回る)
それに、ハッキングの捜査官が同行しているのだ。今回ばかりは失敗できない。
まずは国連からの人権放棄問題。その次にアメリナの武装兵器だ。
『こっちにもダミープログラムが侵入しているみたい』
「何!?」
「どうした? 鳴瀬」
「どうしたもこうもない。春海ねえが危ない」
大輔の返答に俺はすぐさま応え、春海の使っているパソコンにアクセスする。
(パスワードは?)
『この間の料金』
この間の? もしかしてショッピングモールでの買い物か。猟銃を使っていた時の。
確か、5784円。
入力するといとも簡単にパソコンに侵入できた。
『何をしている? ハウンド』
「へ? いや、俺は……ちゃんと侵入して……。あっ」
しまった。敵の策にのせられた。ハッキングされていたのはこちらの方だ。ミスった。ウルフは俺のパソコンに侵入し、ルプスを装いチャットをしていたのだ。チャットのやりとりからパスワードを解析、盗んだのだ。
チャットだけでそこまでたどり着いたのだ。
やられた。ミスった。
もうこちらに打つ手はないのかもしれない。最大の味方ルプスを失った状態で人権の放棄問題を解決できるわけがない。それにこのままではアメリナの独壇場になってしまう。
逆らうものは容赦なく武装兵器で殺す。そんな世界になってしまう。
弱者は強者のために生き、強者がむさぼり暮らす世界に。
またしてもピンチな状況だ。せっかく安定してきた矢先の事件だ。正直、精神が折れそうだ。でもここで踏ん張らなきゃ、世界の命運がかかっているのだ。
(ごめんな。ルプス)
『え?』
ルプスのパソコンに再び独自開発したウイルスを送り込む。
ダウンロード開始。
パスワードの放棄。ウルフのパソコンにも感染確認。これでウルフのパソコンも終わった。
死ねばもろともだ。
ルプスには悪いが、リカバリーディスクからの復旧をしてもらう必要があるが。
こちらの手でデータを改竄する。人権放棄問題を議事録から消す。
だが、笹原総理には伝える。
「どうするつもりですか?」
『こちらではどうすることもできないよ。こっちよりもアメリナはどうする?』
「今から全ての兵器を確認する」
『すべて!?』
「おいおい。無理のしすぎだろ……。ハウンド」
笹原総理の後をつぐように、大輔が会話に入ってくる。
「そうだ。大久保さんの知り合いにアメリナ出身者がいないか?」
片手間にそう訊ねると、思案顔になる。
「一ヶ月前にアメリナで捜査を行ってはいたが……。あっ。ヒューズ捜査官がいるな」
ハッと思い出したように応える大久保大輔。
「それなら今すぐに連絡はとれないか?」
「なるほどな。内部から切り崩すつもりか」
「ああ」
内部に知り合いがいるのは強みになる。それもTTTの情報を引き渡せば、有力な力になる。
パソコンを動かし、アメリナ大陸に散らばる核弾頭とドローン、それに戦闘機を掌握するのに時間がかかっている。
と、そこで一般回線に電話がはいる。
『よっ! 颯真、元気か?』
「元気だな。なんとかやっていけているよ」
『しかし高校をやめるなんてもったいないな~』
どこかふわふわした様子を見せる斗真。
『姉さんから聞いたよ。お前、国のために働いているんだって?』
「ああ。そんなところだ」
今はアメリナの増長を防ごうと頑張っている。今この時代において、その手に世界を欲しているのだろう。
確かに世界統一をせねば、温暖化や環境破壊、食糧問題を解決できないだろう。だがそれはもっと緩やかな時間が必要なのだ。でなければ足並みのそろわない者は容赦なく切り捨てられる。
そんなのは俺の望むところではない。
俺が望むのはみんなが足並みをそろえて未来へと歩き続けることだ。
だが、現実はそう甘くない。
現実は残酷で不自由で。
諦めなければならないものがたくさんある。しかし、その思いをつないでいかなければ、未来は絶対に訪れない。
そうして歴史が刻まれていく。だから今はちょっとずつの変化でいい。みんなが幸せになれば、もう二度と争いのない、暖かくて優しい世界になっていくだろう。
だから兵器は嫌いだ。だが武装勢力に対して防衛力は必要になってくる。一部の頭の悪い奴らが反旗を翻し襲ってきたら、対応せねばならないのは軍力だ。
それは分かっている。分かっているのだが……。
堂々巡りの思案に、終わりなどなく、時は少しずつ流れていく。
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