第50話:「むしろ勘太郎とがいいです、はい……!」
「4名様でお待ちの
秋の夜の
「はいはーい」
母親と父親は、
ただ、周りは気にしていないにも関わらず「あぅ……」とか芽衣が小さく声を発するものだから、なんとなくそっちを見るとなんとなく目が合ってしまい、なんとなくそのアイコンタクトが妙に意味ありげな感じになってしまう。
「……なに、勘太郎」
「何も言ってないだろ……」
照れてるのかなんなのか、少し唇をとがらせてふいっと
おれは多分まったく悪くないのに冷たくされるというその自分勝手な
「……行こ」
芽衣のあとについて入り口の自動ドアのあたりまでいくと、女性の店員さんに申し訳なさそうにお
「すみません、ただいまテーブルのお席が満席なんですけど、つい先ほどお席につかれたお客様ばかりなので、
なるほど、この混雑だもんな……そういうこともあるだろう。
「全然それでもいいですよ。ね、芽衣ちゃん、勘太郎」
母親が
すると、芽衣が少し不意を突かれたように、
「へ、あたしと勘太郎が二人でってことですか?」
「まあ、そうなるかなあ。あれ、勘太郎とは嫌かな?」
あんたなんかしたの? とでも言いたげに母さんがおれを見る視線を
「い、いえ、そんなこと!」
「本当に大丈夫?」
「もちろんです!」
それくらいで話を切り上げればいいものを、芽衣はよほどおれを
「むしろ勘太郎とがいいです、はい……!」
と、そう続けたのだった。
「め、芽衣……!?」
おれの動揺してる姿を見て、「あっ……!」とやってしまった
「あ、いえ、もちろんおじさんとかおばさんとが嫌だってことじゃないんです!」
いや、そっちじゃなくて……!
「その、言葉のあやっていうか、その、勘太郎とは気心知れてるので、二人でも気まずくないっていうか、二人で話すのもとても楽しいですし、一緒にいるととても楽しいというか幸せを感じるというか……!」
諏訪家を全方位的にカバーをしようとした結果、事態は悪化していく一方だった。
「芽衣、分かったから、大丈夫だから……! ありがとうな……!」
「あ、あれ、勘太郎、顔が赤い? 熱とかある?」
「ねえよ……」
芽衣さん、完全に寝不足がたたっちゃってるよ……。さすがの芽衣も、ここまで寝不足でなければここまでポンコツになることはあまりないはずだ。
「んーと、とりあえず二人でいいってことね? 勘太郎、そんなに言ってもらえてよかったね」
「うるせえし……!」
ニマニマするわけでもなく、あくまで子供同士が仲良いことを喜ぶように言われてかえって恥ずかしくなってしまい、中学生みたいな反応を返す。
「じゃあ、二人ずつでお願いします」
「可愛いご協力をありがとうございます。それではお席ご案内しますね!」
穏やかな顔で見守ってくれていた父親が、こちらもまた穏やかな顔で見守ってくれていた店員さんに伝えると、店員さんが紙に書いたおれの名前を二重線で消しながら席の確認をする。
それにしても、昼のつけ麺屋といい、今日は店員さんがいい人ばかりで助かっている。こんなに混んでるのにすみません……。可愛いご協力の意味はさっぱり分からんが……。
おれが心の中で店員さんに頭を下げていると、母親が「あ、そうだ」と、手を叩いた。
「ねえ芽衣ちゃん。芽衣ちゃんだけで2500円は食べてね。足りない分は芽衣ちゃんのお小遣いから払ってもらうから!」
「2500円ですか……?」
不意に具体的な金額を提示されて芽衣が
「そう! いくら遠慮しないで食べてって言っても芽衣ちゃん遠慮しちゃうだろうから、ノルマ制にします! だいたい食費は芽衣ちゃんのパパとママからもらってるから私にそんなことを言う資格はないんだけどね」
「はあ、分かりました……!」
ここまで言われたら引き下がるわけにもいかないのだろう。芽衣も頷く。
「あ、ちなみに勘太郎は2500円までね」
「なんでだよ」
などと一応反抗してみるものの、自分で会計をしたことがないから、回転寿司で2500円っていうのが高いのか安いのかはよく分からない。ここがもしマックなら、2500円分は相当な量になり食べきれなさそうということは分かるんだけど。
「はい、それでは先にお父様とお母様、こちらです」
「「はーい」」
父親と母親がまずは席の方へと消えていった。
「ねえ勘太郎、2500円って税込かな、税抜かな……?」
「いや、そこはどっちでもいいだろ……」
「よくないでしょ……」
気遣い屋の芽衣はノルマを設けられたら設けられたで
「相変わらず真面目だなあ、芽衣は」
「おじさんとおばさんに、お金にだらしないって思われたくないもん」
「別にいいのに……リラックスしろよ、自分ちなんだし」
「そういう意味でだらしないって思われたくないってわけじゃなくて……。勘太郎がだらしない分あたしがって言うか……」
「どういう意味……?」
そんな会話をしていると、先ほどの店員さんがニマニマしながら戻ってきた。……ニマニマしながら?
「それでは、息子さんと彼女さんはこちらへどうぞ」
「彼女さんって……」
先ほどの会話や、なんなら名前を書くやりとりをみられていたのかも知れない。普通はそんなこと言わないだろうが、この店員さんはかなり
「か、かのじょさん……」
ちなみに、芽衣はまた言語能力が退化している。
「どうぞ?」
「はいはい……」
おれは赤崎に昼間言ったことを自分でも守るべく、顔が熱くなるのを感じながらも特に恋人関係を否定はしなかった。悪い気はしないしな、うん……。
とはいえ、おれも周りを見るほどの余裕はなかったらしい。
「あれ? 彼女さんついてきてないですよ?」
「え?」
言われて振り返ると、自分の両手でほっぺを挟んで顔を真っ赤にしながら立ち尽くしている芽衣がそこにいた。
「か、かのじょさん……うわぁ……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます