第26話:「あれ? ご飯食べてかないの?」
一つ一つ、芽衣が小さくでもうつっている写真がないか、確かめていく。
「うひゃー、本当に箱推しなんだね……」
「え?」
「だって、ななみんとかメイちゃんがうつってない写真も一枚一枚じっくり見てるもん。わたしもそんなにちゃんと見てないよ……」
「ああ、そうね……」
吉野はちょっと引いた顔をしている。まあ、たしかに、女子がほとんどの吹奏楽部の写真をこんなにまじまじと見ていたら気持ち悪いよな。年齢が年齢なら犯罪者だ。
でもまあ、そんなことも言っていられない。
人生を左右する、と言ったら言い過ぎだろうだけど、もしかしたら誰かの人生を少しだけ上向きに変えるかも知れないことなのだから。
「何か、探してる写真があるの?」
「いや、そういうわけでは……」
「ふーん……?」
それにしても、本当に、芽衣が写っている写真は、もれなく芽衣は泣いている。おれはそんな表情も素敵だとは思うが、多分本人的には『顔が崩れている』と言いたくなるだろう写真ばかりなのだろう。
こんな、ある意味人生の
「……なんか、
横からそんなことを言われ、おれはさすがに悪趣味かもしれないと思い、苦笑いで
「……いや、嬉しいってわけじゃない。あー……写真ありがとう。全部見た」
「うん、どういたしまして!」
吉野は笑顔を返してくれる。なんだか悪いことをしている気分だ。
「……それじゃ、おれはそろそろ帰るわ」
「あれ? ご飯食べてかないの?」
首を傾げる吉野。え?
「いや、家で食べるけど……」
「え、うそ」
ギクリという顔をしてから、吉野が急いで部屋を出る。
「おかーさーん、諏訪君ご飯食べないってー!」「えー!?」
こんな、初対面とは言わないけど
本来であればご
ていうか娘さんと
「ごめんね、わたし早とちりして……」
吉野がふう、と息をつきながら部屋に戻ってくる。
「いや、むしろごめん。……もう作ってたって?」
「ううん、ギリギリまだ作り始めてなかったって」
「そっか、良かった。じゃあ、行くわ」
おれは
「あ、よければケーキ持って帰ってよ!」
「ん? ケーキ」
おれは首をかしげる。
「うん! うちのおかあさん、ケーキ作りが趣味なんだー。今日はレモンケーキかな。趣味っていうか、おかあさんの実家がケーキ屋さんなの。今は
「そうなんだ……」
「それじゃ、もしいただけるなら、せっかくだから」
「うん! 何切れいる? 諏訪君って何人家族だっけ?」
「あー……」
おれはどう伝えるべきか一瞬
「今は4人家族、かな」
と答える。
4切れ欲しかったというよりは、なんというか、その、
「分かったー!」
吉野も『兄弟いるの?』などと聞いてくるわけでもなく、台所に引っ込んでいって戻ってきた。
「はい、どうぞ!」
「うわ、本当のケーキ屋の入れ物じゃん」
「そうなんだよ。うちにはずっとあるからあんまりなんとも思わないけど」
そう言いながら、吉野はおれに持ち手のついた白い箱に入ったケーキを渡してくれる。
「ありがとう」
「駅まで送るよ。おかーさーん、諏訪君駅まで送ってくるー!」
吉野のお母さんも玄関まできてくれて、最後までこの馬の骨は誰なのだろうとちょっと
ケーキの箱を
「いやー、今日はほんとに助かったよ」
「まだまだ初級編だけどな」
「何か困ったことあったらまた教えてくれる?」
「ああ、まあ……」
別に教えること自体はいいのだが、学校で
それはあまり繰り返すべきことではないように思えて、つい答えが
「あはは、そうだよね。なるべく一人で出来るように頑張るね! 本当に今日はありがとう!」
「いえいえ」
やけに物わかりのいい吉野の笑顔に、少し申し訳ないなと思う。
一夏町駅の階段を上りきり、改札の前に立ったあたり。
「「「あ」」」
「吉野さんと……諏訪?」
「……
改札からちょうど、眼鏡をかけた優しい顔をした男子が出てきた。
「なんか久しぶりだな、西山」
「そうだね。あれ、でも、諏訪がどうして
別に責める様子もなく、純粋に疑問だというように、おれに質問してきている。
「ああ、それは……」「西山くん、あの、これは……」
おれの答えようとするのを
なるほど……そういうことか……!
おおかたの状況は
要するに、吉野の好きな男子というのはこの西山青葉のことなのだろう。すなわち、おれみたいな他の男子と二人でいるということを一番知られたくない相手だということだ。
ましてや、家に招いていたなんて、隠したいに決まっている。
おれだって、別に吉野と付き合っていると誤解されて気持ちがいいポジションでもないので、なんとか
……だけど、どう切り抜ければいい?
おれは頭を急激に回転させる。……が、そんなに
かと言って、「なんでもないよ」などと言ってここを去ったら吉野にさらなる負担を
どうする? 早く答えを出さなければ……! いや、だけど……!
と、その時。
「
救いの声が響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます