第9話:「……まあ、そういうところが良いんだけどね」
放課後。夕暮れ。校舎裏。
おれはゴクリと
「で、お願いごとって何だ……? なんか怖いんだけど……」
放課後、
なんでこんなところに……?
「怖がらないでよ、傷つくなあ」
「ああ、ごめん……」
謝りながら、「あ、そうだ」と、先に言っておかなきゃいけないことを思い出した
「ちょっとこのあと用事あるから、
「用事って……?」
芽衣とは別々には帰るものの、家の方の駅で待ち合わせして買い物する予定だから、あまり待たせたくない。
「まあ、色々あるんだよ。5分くらいで終わるか? もし長引くんなら明日とかの方がいいかもしれない。その方がじっくり聞けるし」
すると、赤崎が
「はあ……。あのさあ、一応、女の子が男の子を校舎裏に呼び出しているわけだから、もうちょっとその覚悟とか気持ちとか、
「おもんばかる……」
難しい言葉が出てきたな。
「……まあ、そういうところが良いんだけどね」
「はい……?」
もしかして、赤崎って……?
「ねえ、諏訪くんって、芽衣ちゃんと付き合ってないんだよね?」
戸惑うおれに赤崎は問いかけてくる。
「うん、そうだけど……」
「で、告白も……未遂、だっけ? とりあえず失敗しちゃったってことでいいんだよね?」
「うん、まあ……」
一つ一つ確かめながら、赤崎はおれの目をじっと見つめてくる。
「……だよね。それなら、もう、良いよね?」
おいおいおいおい、まじかよまじかよ、全然気づかなかったよなんだよそれ。
「ねえ、
「勘太郎くん……!?」
さっきまで諏訪くんと呼ばれてた気がするけど……!?
「告白失敗しちゃったばっかのところにこんなこと言ったら、ムシがいいっていうか、嫌な感じするかもだけど……」
口元に手を添えてもじもじと口を開く赤崎。
「私と、」
「は、はい……!」
おれはさっきよりも大粒の
「付き合ってるふりをしてもらえないかな?」
「…………はあ?」
「要するに、しつこく赤崎に言い寄ってくる先輩がいて、その人に諦めてもらうために彼氏がいるって赤崎が言っちゃった、と。先輩が登校するのは2学期いっぱいだから、12月末までの約2ヶ月間、恋人のふりをしてほしい。ってこと?」
「しつこく言い寄ってくるって言うと言い方悪いけどね……別に悪い人ではないから。でも、かいつまんで言うならそういうことになるかな」
赤崎が苦笑いする。
「なんかよくある話だな……。ていうか、それなら校外の人ってことにすれば良かったのに」
「その前に何回かお断りしてるから、もうすでに彼氏がいるってこと自体取ってつけた嘘みたいになっちゃってるんだよ。その上、校外の人だなんて言ったらあまりにも嘘っぽすぎて信じてもらえないと思う」
「実際取ってつけた嘘だしなあ」
「だしなあ」
おれの口ぶりを
「真似してる場合じゃないだろ……。で、お付き合いしてるところをその目で見てもらわないと信じてもらえてないってこと?」
「そういうことだねえ」
ふむふむ、と頷く赤崎。
赤崎の言いたいことはなんとなくわかった。が、その上で当然の疑問をぶつける。
「で……なんでおれ?」
「勘太郎くんってさ」
「だからなんで名前……」
おれのツッコミも気にせず、赤崎はぐいっとおれに顔を近づけてくる。
「私のこと、どう思ってる?」
「いや、クラスメイトだと思ってるけど……」
「……でしょ?」
ニコッと笑って離れた。
「この徹底した私への興味のなさが大事なんだよ。協力してくれる人、傷つけたくないもん。……いやまあ、普通女の子にあれだけ接近されたら、好きな相手じゃなくてもドキドキすると思うから、複雑っちゃ複雑なんだけど……」
「はあ、そうですか……」
一応、芽衣が今のをやってきたらどうだろうか……と想像する。
……うん、それはやばいな。耐えられなくてのけぞってしまいそうだ。ていうか引越しの荷ほどきの時にそんな感じになった時やばかったし、やばかったもん。
「まあいいや。理由はわかった。だけど、それっておれにメリットなくない?」
別に人助けに理由が必要とは思わないけど、ただでやるには少しリスクが大きい仕事な気がする。
「いやいや、もちろんこちらからも差し上げるものがありますよ?」
「ほお、それは?」
こほん、と咳払いをして、赤崎は発表する。
「二学期が終わるまで2ヶ月間は水面下で、そのあとはばっちり、芽衣ちゃんとの恋をアシストしてあげるよ!」
「意外と魅力的じゃなかった……」
おれが肩を落とすと、「
「いやいや勘太郎くん、私は
「そういえばそうだったな……」
白山からそこらへんのことはたしかに聞いている。成功率100パーセントは1分の1だからだろうけどそこはまあいいや。
「いや、とはいえ、おれは告白を止められてるからなあ……」
「そうなんだよ、どうしてなんだろうねえ……」
「分かんないのかよ。絶対アシスト出来ないやつじゃん……」
困ったなあ、とおれは頬をかく。
別におれに好きな人がいなければ赤崎の頼みを受けてもいいとは思うんだけど……。
「すまん、赤崎。困ってるところは助けてやりたいんだけど、ちょっとおれには荷が重いかな……」
時計を見るともう10分以上経っている。
「やばい、おれ、行かなきゃ。誰か他にやってくれそうなやついたら教えるようにするよ、それじゃ……」
「勘太郎くん」
歩き出したところを呼び止められる。振り返って見た赤崎はなぜか
「これを見ても同じことが言える?」
「はあ?」
赤崎が
「お前、これ、まさか……!」
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