第19話 放課後デート2
「中井って、自転車通学なんだね」
「え? うん、そう」
自転車を見て皆瀬が言う。うちの学校は駅が近くて電車通学が多いと聞いたことがある。自転車に乗って通学している学生は、少数なのかもしれない。
「後ろに乗せてよ」
「二人乗りは、ダメ」
「えー、いいじゃん。ケチ」
「道路交通法に定められた、違反行為です」
「じゃあ、お店までは歩いていくしかないかぁ」
「荷物はカゴに入れるよ。貸して」
「え!? あ、うん。ありがとう」
皆瀬の持っていたカバンを受け取り、自分の荷物は肩に担いで空いたカゴに皆瀬のカバンを入れる。これで彼女は手ぶらになったから、楽でいいだろう。彼女も素直にお礼を言ってくれた。
「それで、バナナジュースが売ってるお店はどこに有るんだ?」
「えっとね、専門店なんだけど。スマホで地図を出して、っと。ここだ」
バナナジュースの専門店があるのか。皆瀬がスマホで地図を調べて、お店の場所が記された画面を見せてくれる。歩いて20分ぐらいかかりそうだ。
ちょっとだけ距離が遠いかな。女性が歩いて行くと、疲れてしまうかも。
「歩くとなると、ちょっと遠いぞ」
「いいじゃん。歩こうよ」
「そうか、わかった。行こう」
歩きでも大丈夫のようだ。俺は自転車を押しながら、皆瀬は俺の横に並んで歩く。
「ねぇねぇ」
「ん?」
「いつもと、喋り方とか違うよね」
「あー、うん。そうかもな」
「クラスメートと話す時は、もっとフザケてるっていうか、軽いよね」
「周りの雰囲気を乱さないように、気を遣って喋ってるから」
「そうなんだ。大変そうだね」
「うーん、まぁ。大変かな」
彼女の指摘する通り、教室で話すときとは違っているだろう。かなり考えて、気を遣っているから。それに比べると今は、リラックスして話せている。
「ねぇねぇ」
「なんだ?」
「中井は、彼女とかって居るの?」
「急な質問だな」
唐突な質問。まだ会話を始めてから、ちょっとしか経っていないのに。それとも、陽キャはこんな感じで恋人の有無を軽く聞いたり、答えたりするものなのだろうか。そうなんだとしたら、俺の知らない世界だな。
「いいじゃん、教えて。ちなみに私は、彼氏は居ないかな」
「聞いてないが。俺も彼女は居ない。当然だろう?」
俺からは何も聞いていないのに、あっさりと恋人が居ないことを打ち明けた皆瀬。皆瀬に恋人が居ないことは、意外だった。一方的だったが聞いてしまったので、俺も言わないと悪いかと思い答えた。当然、恋人なんて居たことがない。
「もしかしたら、モテるかなって」
「全然、モテたことなんて一度もない」
「ホントにぃ?」
疑いの目を向けられる。そして思い出したことがあった。
「いや、この顔になってから電話番号を渡されたことがある」
「へぇ! やっぱり、モテてんじゃん。相手は? どんな人?」
興味津々という目で彼女は質問してくる。必要最低限の情報だけ、アルバイト先で知り合いになった女性について語った。
「バイト先の同僚。年上の女性」
「へぇー、そうなんだ。その人とは付き合わなかったの?」
「あぁ。付き合ってはいない」
「えぇ。勿体ないな」
やっぱり女子は、恋バナとか好きなんだろう。嬉しそうに、皆瀬は俺の話を聞いていた。俺は苦手だった。恋愛とか、死ぬまで関わらないと思っていたから。
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