真実 ③’
僕らは十分ほど歩いて、黄地家に到着した。ガラリと戸を開け、
「おじゃましますー……」
「おじゃましまーす」
二人で声を合わせて挨拶する。するとすぐに、リビングからタロウたちの両親、カズさんとユメさんが出てきた。
「ああ……こんにちは、ヒカルくん、クウちゃん」
「待ってたわ。……色々と迷惑をかけているみたいね」
「ああ、いえ。そんなことはないんですけど……」
むしろ色々と詮索してきたのはこちら側なのだ。僕の方が、迷惑をかけているかもしれないと思っているのだが。
「まあ、とにかく子ども部屋に。そこで、タロウたちとコウさんが待っている」
「分かりました。ありがとうございます」
「それじゃ、失礼します」
軽く頭を下げて、僕らは家に上がり込む。
子供部屋の扉を開けると、灰色のカーペットが敷かれた部屋に、タロウとジロウくん、そしてコウさんの三人が座っていた。皆、待ってましたとばかりに、
「おう」
「おっ、二人とも来た来たー!」
「ああ、ヒカル、クウちゃん、待ってたよ」
と、各々歓迎の言葉をくれた。
「こんにちは」
「どもども」
空いている場所を見つけて僕らが座り込むと、さて、とコウさんは咳払いをして、
「昨日は中途半端なところで切り上げて、すまなかったね。今日はちゃんと全部聞いてもらうよ。明日のために、そうしないといけないからね」
「中々寝付けませんでしたよ、昨日は」
「私はそうでもないけど……」
「まあ、クウは」
「やっぱり私も寝れなかったです」
「……はは」
馬鹿にされたくないとばかりに、あっさり手のひらを反すクウに、コウさんは苦笑した。
「さて、名残惜しいが、俺たちはそろそろ出発しよう」
「はーい。ちょっとの間、お別れだね」
タロウとジロウくんはそう言うと、ゆっくりと立ち上がる。そしてタロウは、勉強机に置かれていた大きな鍵を手に取り、ポケットへしまった。
「お別れ? どこ行くの?」
クウが聞くのに、コウさんが答える。
「昨日、三人で話し合ったんだけどね。地の檻で見つけたあの男性を、島の外の病院に診せにいかないと、という結論に至ったんだ」
「俺は、黄地家の人間だから、村が島であることは結構前から知っていたし、交易にもときどき連れて行ってもらっていた。つまり……ボートに乗ったこともあるというわけだ」
「操縦したことあるんだよ、お兄ちゃん!」
「……マジ? ハイレベルすぎるでしょ」
クウが驚きに、ポカンと口を開ける。僕もクウほどはいかずとも、同じように驚いた。
「だから、黄地家のボートで外の大病院まで運ぶ役目を任されたわけさ。ついでに、ジロウを危険から離しておいてやりたいしな」
「冒険は好きだけどねー」
命を狙われていたことなど理解していないジロウくんは、終始ハイテンションだ。だが、それがこの場を和ませてくれる。
「この村から本州まではボートで二時間ほどだし、ボートも八人乗りくらいの小さなものだ。一時離脱するのは悪いが、あの人を何とか助けたいんでな」
「いや、そんなことは全然いいんだけど。……ほんと、タロウってすごいな」
素直な思いを口にしたのだが、タロウはいやいや、と首を振り、
「お前の方がすごいよ。……まあ、それじゃ行ってくる」
「行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい、タロウ、ジロウくん」
「またねーっ」
タロウは僕らに一礼し、ジロウくんはぶんぶんと力強く手を振ると、部屋から出て行った。
そして、後には僕とクウ、そしてコウさんだけになる。
「……そういえば、ですけど。どうしてカズさんたちが行かないんです? ボートを操縦できる人なら、タロウたちの父親であるカズさんの方が、適任のような」
「……あの人たちにも、船を運転してもらわないといけなくなる予定なんだ。だから、今はいてもらわないとね」
「……はあ」
コウさんの仄めかすことはまだ理解できなかったが、これから順を追って聞いていけば分かるのだろう。
「それじゃあ説明するとしようか。君たちにとっては、謎解きみたいなものかな」
そう、コウさんの言う通り、これは謎解きだ。平穏に思われた世界に突如降りかかった、幾つもの不和を解き明かすための、道筋。
「この鴇島が誰の意思によって、何のために出来上がり。そしてここで何が起ころうとしてるのかを、君たちに見せよう」
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