天地 ③
墓地から分岐路のところまで戻ると、タロウは下り坂の道を進み始めた。こっちの道は行き止まりで、小さな洞穴があるだけだったはずだが。
どうするのかと思っていると、タロウは何の躊躇いもなく洞穴の中へと入っていった。そこまでの奥行きがあるとは思っていなかったので驚きながらも、俺はタロウの後に続く。
タロウは懐中電灯を持っていたようで、真っ暗闇の洞穴内をその光で照らして進んでいく。こんなところに一体何があるというのだろう。何かがあるようには思えないのだが。
洞穴の道は、だんだんと下っていくようだった。あるところでふと気付いたが、この洞穴は途中から、人間の手で掘られているようだった。つまりは、何かを目的として、深く掘り進んだということだ。やはり、この奥には何かがあるのか。それは、どんなものなのか。決して良いものではないだろうというのは、感じている。
やがて、下り道は終わった。そこには、古びた一枚の扉が。
タロウはそのノブを握り、そして扉を開いた。
その先には――
「……こ、これは」
幾つもの、格子。木で組み立てられたそれは、内と外とを隔てるもの。直進路の両側に、空間が作られ、その間に格子が取り付けられているのだった。
これは、まさに。
「
タロウは、その言葉を否定しなかった。
「……ここは、地の檻と呼ばれているようだ」
「地の、檻……」
そのまんまだ。
地下に作られた、監獄。
監獄であるからには恐らく、村でいざこざを起こした者を閉じ込めるための……。
「恐らくお前が思っている通り、ここは村で問題を起こした者を閉じ込めておくための、この村の刑務所のようなものだ。刑務所という言い方は甘すぎるか。ここへ閉じ込められた者は、一切外に出ることも許されず、最低限の食事だけを渡され、やがては死んでいくしかなかったそうだからな」
「……とんでもない、場所だ……」
「ああ。そして……この場所を管理しているのが、他でもない。真白家だ」
「……!」
そういうことなのか。
だから、赤井家が天で、真白家が地なのか。
その任された役割から、二つの家はそう呼ばれるようになっていったのだ。
「犯罪者たちは、鳥になることができない。この村では、鳥葬というのはむしろ自然な葬儀だったわけだから、それをしてもらえないというのはつまり、天国ではなく、地獄に逝くというのも同じなんだ。分かりやすいだろう。天の家に送られれば天国へ、地の家に送られれば地獄へ逝く。そういう仕組みなのさ、この村は」
「……なる、ほど……」
鳥葬に関して生理的な嫌悪感を抱いていた俺も、それを聞くと、こちらで迎える最期の方が酷いなと思えるようになってくる。もちろん、それはあくまで二つを比べたときのことだが。
「今もこの牢獄の真下に、かつての犯罪者たちの遺体は埋められているらしい。永遠に日の目を見ることができない、というのもまた、残酷な最期だな」
「……ああ……」
懐中電灯の光がなければ、ここは光の射さない真っ暗な世界だ。古びたランタンが掛けられているものの、それがいつも灯されていたわけではないだろう。漆黒の闇の中、気が狂った者たちも、きっといたことだろう……。
「……俺は、ジロウの病気をきっかけにして、この村のこうした実情を調べ、知ることになった。それを、お前にも知ってほしかったんだ。やがてはお前が一つの役割を継ぐ。お前だけでなく、ヒカルも、ツバサも、クウもそれぞれの役割を継がせられるときがくるだろう。そんなとき、押し付けられる役割にノーと言える、続けられてきた悪習を打破できる、そんな選択をしてほしいと、俺は願っているんだ」
「……タロウ……」
「それで……ジロウのような犠牲者が、もう……出ることはなくなると、信じているから」
タロウの涙。それは、様々な思いがない交ぜになったもの。
一人で抱えるにはあまりに重過ぎるものだ。
だから。
「……ああ……俺も、そう思う」
薄暗闇の中。俺はタロウの肩に手を当てた。
「そうだな……次の世代の俺たちこそ、……それを止めるべきだよな」
「……ありがとう……ありがとう、ワタル……」
タロウは、涙声になりながら、何度も俺に感謝した。
今ようやく、願い続けてきたことが叶ったというような、そんな声で。
俺は、泣き崩れそうになるタロウを支えながら。
確かに村は変わっていかなければならないと、そう強く思っていた。
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