予兆 ②’

 朝から気持ちが沈んでしまい、正直に言えば学校を休んでしまいたかったが、クウが待っているからと思いなおし、僕は重い足を動かして家を出た。殆ど無意識のまま、クウの家へ向かって歩き続ける。傍から見れば、夢遊病者のような足取りに見えたかもしれない。

 扉をたたくと、すぐにクウが出てきた。僕は暗い顔を見せたくなくて、ドアの音とともに表情を引き締める。しかし、どうしたことか、僕よりもクウの方がずっと暗い顔をして、僕の前に現れたのだった。


「おはよう、ヒカル」

「う、うん。おはよう。どうしたんだ、クウ?」


 顔を覗き込むようにして、僕が訊ねると、


「……ジロウくんがね。……相当、危険な状態みたい」

「え? で、でも、この前まで一緒に遊んでたんだよ? いくら病気になったからって、そんな……」

「なるんだよ。発作っていうか、突然症状が現れて……。どうもさ、あっちの両親も前々から病気の兆候があることは分かってたらしいんだけど、大丈夫だろうって高を括っていたみたい。でも、それが思いもよらない重病だったってことでね……」

「助かる、の?」

「……何とも言えない。うちのお父さんが、タロウくんの家の車で村の外に出て、どこか大きい病院に連れて行くみたいだけど……そこから先は、分からないわ」


 普段はポジティブシンキングなクウが、これほどまでに事態を否定的に見ているということは、ジロウくんの容態は本当に深刻なものなのだろう。助かるかどうかすら分からないなんて。あの無邪気な幼い少年を、もう二度と見ることが出来なくなってしまうかもしれないなんて。

 それが現実のことだとは思えなかった。


「……診れるわけないんだよ、やっぱり……」

「うん?」

「いや、なんでもない」


 拾ってほしくない独り言のようだったので、僕はそれ以上追及するのはやめた。

 あまり重い病気を診るような技術を、クウの両親は持ち合わせていないのかもしれない。

 閉鎖された村だ。それも無理なきことだろう。

 それを娘が悔いても仕方がない。

 それから僕らは、言葉のないまま歩き続け、学校へと辿り着いた。

 

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