一文リレー小説

楠木 終

第1話

 ここは大阪市立北谷高校。

 大阪の中でも結構有名な高校だ。

 そして俺は今、卒業生としてこの校舎を見つめている。


 あの、なんでもない学園生活に思いをはせながら。

 「あの」と、表現したものの、別におかしな団に入っておかしな事をしたわけでもなく、変な部に入って本物を求めた訳でもない。


 ただ、学園内でボッチだっただけである。

 これは"ただ"ボッチだっただけの俺の"ただ"の学園生活の記録だ。



~一日目~


 俺の名前は朝倉 海翔。


 俺は今、今日から自分が通うことになる学校へと向かう電車に乗っている。

 別に入学式にこれと言った思い入れなどないがやはり『新しい何か』というものには心躍るものがあった。


 そう年甲斐なくワクワクしていたとき、電車が大きく揺れた。

 後ろの人に軽く触れた。

 すると、隣からドサドサと鞄から物が落ちる音がする。


「す、すいません!」


 見ると、書類などの紙が床に散乱し、若い女性がそれを拾い集めていた。

 女性は「キレイ」というより「可愛い」という表現が似合う小柄な茶髪の女性。

 まぁ、こんな身なり(制服)だが、俺も一応は紳士だ。

 すぐに俺もしゃがんでたくさんの書類を集め始める。


「ありがとうございます!」


「いえ、これぐらい当然ですよ」


 改めて顔を見ると、やはりとても可愛い人だ。

 全て拾い終わり女性に渡すと同時に俺の降りるべき駅に到着する。

 どうやら女性もこの駅で降りるらしく、いそいそと定期を取り出している。


 でも、俺とその女性は荷物を拾ってあげただけの関係だから、いちいち話しかけけたりはしない。

 お互い何も話すことなく電車を降り、俺は学校へと向かった。


 学校に入って、クラスを確認して、さっさと教室へと向かう。


 教室に着くとまだ過半数は来てないようで俺と数名の入学式ボッチ(入学式から話しかけに行かないボッチのこと)しかいなかった。

 なぜ入学式ボッチが先に学校にいるのかは分からないが、きっと先に席に着いている人には話しかけにくいという効果を狙ってものだろう。


 俺は誰かと話す気力すら残ってないし、何より相手も話しかけられたくないそうなので、話さずに自分の席に着いて机に突っ伏してた。


 机に突っ伏しながら続々と教室に入ってくるクラスメイトの声を聞くこと十五分、そろそろ全員が揃ったと思われたその時、ガラリと教室の戸が開く音がした。


 入ってきたのは電車で出会った女性。

 少し嫌な予感がしたが、いや、まさかそんなことはないだろう。


 うん、俺の方を見ても気付かないみたいだし何よりさっきと全然雰囲気が違う。

 俺の首筋を冷や汗が伝っているが、そんなことは気にしない。

 とにかく俺は何も見てなかったことにして、今日をやり過ごした。

 そして俺は、友達をたくさん作り、彼女も出来て幸せな高校生活を送りましたとさ。


 って、そんなわけないよねコンチクショウ!!


 という訳で時を戻そう。

 何度、同じ時を繰り返しても結局何も変わりませんでしたとさ、おしまい。

 などと頭の中が混乱していると、その女が口を開いた。


「えっと、朝倉君。一人で悶えてジッタバッタしない」


 む、なぜ俺はこの人に注意されなければならんのだ。

 いや、先生だからなんだろうけども。


「朝倉君、やっと気付いたわね」


「?そりゃあ名前を呼ばれれば反応しますよ」


「違うわ。私が言っているのは、私がこのクラスの担任である遠山里香で、あなたをクラス委員長にするつもりである。ということにあなたが気付いたって意味よ」


「そんなこと全く気付いてませんでしたよ!

 とにかく、俺がクラス委員長に任命されたとそういうことですね。

 ありがたく遠慮させていただきます」


「あれ、私、あなたに拒否権があるなんて言ったかしら?」


「いや、言ってないですけど、俺に意見を反映させる権利はあると思いますが」


「口答えしている暇があるなら、前に出てあいさつしなさい、委員長」


「パワハラですわ、パワハラですわ。わたくし泣いてしまいそうですの……」


「じゃあ次は副委員長決めるわね」


「スルーはやめてくださいよ?!」


「そうね確かに委員長が司会じゃなきゃおかしいものね。朝倉君、司会をお願い」


「全く会話が通じてませんね!もう良いです。委員長ぐらいやってやりますよ!」


 ここで示し合わせたかのようにチャイムがなった。


「副委員長とか本当はそんな役職無かったからちょうど良かったわ。委員長、あいさつを」


「副委員長いないのかよ!じゃあ、さっきの会話は何?!」


「一人で悶えて話を聞いてなかったあなたが悪いのよ。良いから早くあいさつしなさい」


「人の話も聞かずに勝手なことをしたのは誰なんだよ……。

 もういいや、これでHRを終わります、礼」


「じゃあ十分後に体育館で入学式が始まるから準備しておくように」


「「はーい」」


 やっとあの先生出て行ったか……。

 あんな横暴な人見たことないし、朝とキャラ違いすぎだろ……。

 考えられる可能性としては双子か、二重人格者だな。

 もしくは五つ子のうち二人で、あと三人も個性的な姉妹がいるとか。


 まぁ、そんなことはともかく、今は周りの視線が痛い。

 どうやら、俺はかなりこのクラスの反感を買ってしまったようだ。

 今までボッチだった俺はそんなことぐらいじゃ痛くもかゆくもない。

 べ、別に友達なんて欲しくないんだからね!勘違いしないでよね!!


「また一人で悶えてるの?早く外に並びなさい」


 うん、足音消せるからってサラッと背後にいるのやめてね?

 ついでに足音消せるのは俺たち陰キャもしくはボッチの職業スキルだから取らないでくださる?


「注文が多いわね。料理にされてしまいそうで心配だわ」


「ねぇ、今サラッと心読んだよね!?しかも山の奥で料理店なんてやらねぇよ!」


「あら、意外と読書家なのね。一ポイント上げるわ」


「注文の多い料理店ぐらい誰でも知ってますよ……。あと一ポイントって何ですか?」


「先生!入学式入場から三分も過ぎてるんですが!!」


「え?!今すぐ体育館に向かうわよ!」


「この人ホントに教師なのか……?」


 そうつぶやいて時計を確認するとまだ五分前だった。

 このクラスやべぇ。時計読めないやつがいる。


 まぁ、入学式にはちゃんと間に合い、つつがなく入学式は終わった。

 その後も何事もなく、終わった。


 よし、愛する我が家に帰ろう。




 家に帰ると、片目を押さえた妹が玄関にいた。

 妹を無視してリビングでくつろぐか、妹を無視して自分の部屋で漫画とかラノベを読むか迷ったので、とりあえず妹を無視する。

 しっかり手洗いうがいをした後、自室で制服から私服に着替えて、リビングのソファに寝転ぶ。

 さて、寝ますかね。


「って、どうして無視するのだ我が剣!」


「それは君に構ってしまうと非常に面倒くさいからだよ」


 あと、最近は無視しているが、意味の分からないルビ振りするっていうのも一つの原因だ。


「ってことで邪魔しないでくれ。俺が今、至福のひとときを過ごそうとしている事ぐらい分かるだろ?」


「分かってない、分かってなさすぎるぞ我が剣!他人の至福をぶっ壊す時こそが私にとっての至福なのだ!」


「お前、理由が最低だな!!あと前から言ってるが俺はお前の剣じゃねぇ!」


「しかしこの契約書で、お兄ちゃんは我が剣である。って書かれてあるし、拇印も押してあるぞ?」


「おぉ、ホントだ。ってこれお前の宿題のプリントじゃねぇか!提出物の裏に何書いてんだよ!」


「それは誠か!不可思議なこともあるものだ……」


「あのなぁ……」


「なんだ我が剣?」


「なんでも無いよ……。というか今のでどっと疲れたよ……」


「ふっ、一時の休息に貴様の身を預けることを許可しよう」


「ハイハイ、ありがとう。お前も宿題しろよ」


「私の力を前にして、全てのものは無意味!刹那のうちに葬り去ってやろう!」


「ついでにその病も治しとけよ」


「これは私にとっての呪い。決して解くことは許されないのだ……。

 ではな、我が剣!また会おう!!」


 やっとどっか行ったか……。

 あいつもアレさえ治ればめちゃくちゃ優良物件なんだろうなぁ、きっと。

 身内贔屓なくても顔は良いし。


 言い忘れてたが、あいつは俺の妹朝倉 日奈だ。

 年は俺より二歳下の中学二年生。

 顔は良いし、勉強もそこそこ出来る。

 欠点といえば、例の病と胸部くらいだ。

 そんなことを考えながら料理をしていた。


「我が剣。さっき私のことをバカにしなかったか?」


「いや、お前の胸が少し貧しいなぁと……。痛い痛い!つねるのやめろって!痛いから!」


「私はまだ中二だから成長段階だよ!……ッは!私の聖なる人格が表に出ていたか。危うい、呪いが解けそうになっていた……」


「素がでちゃってるじゃねぇか」


「素などではない!私の聖なる人格だ!」


「ハイハイ、飯食うか」


「わ、私はそれごときでは釣られないぞ」


「皿と箸並べながら言う言葉かよ……」


「ヒュー、ヒュヒュー♪」


「吹けてねぇだろ……」


 俺の作った晩ご飯を二人で仲良く(?)食べて食器を洗って片付けてから風呂に入ろうとする。


「おい日奈!一緒に風呂入ろうぜ!」


「うむ、共に入ろう!!なぞ言うと思ったか?」


「もう少し恥じらってくれても良いと思うんだが」


「私に恥は無い。理性蒸発の騎士と呼ばれたくらいだぞ?」


「お前、それ絶対バカにされてるぞ」


「な、英雄アストルフォをバカにしているのか?!普通に知らないのなら勉強不足も甚だしいぞ……」


「勉強が足りないのは俺じゃなくて作者なんだよ……。許してやってくれ」


「む、そうなのか。なら仕方ない。早く風呂に入って汚れを祓え」


「りょ」


「ぞ、俗な言い方に慣れたものだな我が剣……」 


 そんなやりとりをしつつ、お互い風呂に入りさっぱりした時には九時半を過ぎていた。

 明日も学校があるのだが、寝るにはいささか早すぎる時間だ。


「日奈、何かしたいことあるか?」


「私がしたいことか……。魔術の深淵を覗きたい」


「深淵を覗くとき、深淵もこちらを覗いているものだよ、我が妹」


「別に私が深淵を覗かずとも彼らは常に私達を見ているぞ?」


「彼らって誰だよ。ちょっとしたホラーじゃねぇか」


「深淵には魔が潜んでいるものである。by 日奈」


「お前の世界観が俺には一ミリも分からん」


「まぁ、我が剣は純な人間だからな。分からなくとも仕方がない」


「お前がおかしすぎるだけだと思うよ?」


「我が剣は見えてなさすぎる。まぁ、いずれ見えるようになるはずだ。

 さて、そろそろ私は闇に身を預るか」


「お前のオリジナル発言とパロディの区別つきにくいんだけど……。

 あと続きが長いアニメは一気見するのキツいから、結局新しいやつしか見ないんだよな……」


「それは、まぁ、時間を作れないものの言い訳だな。というより、眠い、寝たい寝かせろ」


「いやまぁ、時間が無いといえば嘘になるんだけどな。アニメ以外にもやりたいこといっぱいあるからさ」


「いや、それは普通に時間が無いってことだろう。まぁ、とにかく寝る。お休み」



 日奈はそう言ってすぐに自分の部屋に入っていった。

 やはり、無理矢理話を続けて寝かせない作戦は失敗か。


 まぁ、今日は俺も色々あって疲れたし早めに寝るか。

 俺も部屋に戻ってベッドに入り目を閉じる。

 今日はいろいろな事があったなぁ……。

 俺の意識はそこで落ちた。

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一文リレー小説 楠木 終 @kusunoki-owari

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