8.手掛かりと、銃声。







『へい、そこの元兄弟――少し、話をいいか?』

『ん、お前は……』


 アレンは母国語で、反体制派のリーダー格に話しかけた。

 どうやら2人は顔見知りらしく、リーダー格はニタリと笑みを浮かべたように思われる。そして、どこかアレンを小馬鹿にしたようにこう言うのだった。


『お前はついて行く相手を間違えたな。本当に、昔から情に流されやすい奴だ』

『ずいぶんな言いようじゃないか。まぁ、否定はしないが――』

『どうした、話しかけたということは命乞いか?』

『いいや? 少しだけ、報告したいことがあってな』

『報告したいこと、だと……?』


 だが、彼の言葉に声色を変える。

 どうやら、相手の興味を引くことに成功したようだった。アレンは挑発的な笑みをその綺麗な顔に浮かべ、リーダー格を見つめてこう口にする。




『このままだと、お前たちも死ぬことになる――と言ったら、どうする?』

『なん、だって……?』



◆◇◆



「アレン、上手くやってるかな。いいや――信じよう」


 俺は人気のない廊下を走り、職員室へと向かっていた。

 目的はあの盗撮男が使っていたスマホの確保。おそらくだが、爆弾は1つだけではなかった。複数個所に設置されていると考えるのが適当だろう。

 だから、アレンが隙を作っている間に俺は教室を抜け出したのだ。

 そしてこの作戦を実行するためには――。


「驚くよな、そりゃ……」


 彼に、俺の力を説明する必要があった。

 どうして反体制派が命を懸けて、この作戦に挑んでいると思ったのか。その裏付けとなる証拠として、話さざるを得なかった。

 アレンは一瞬だけ呆けた顔をしていた。

 しかし、少しだけ笑った後にこう言ったのだ。


「信じるぜ、兄弟」――と。


 その上で、彼はある予想を立てた。

 それというのは、あの反体制派が『爆弾の存在を知らない』というもの。

 アレンの話によると、いくら組織に忠誠を誓っているとはいえ、そのような馬鹿げた作戦を決行するのはあり得ないということらしい。

 すなわち、彼らもまた騙されており、捨て駒ということだった。


「結果としてその予想は正しかったわけだ。アレンが話しかけたら、明らかに動揺していたからな。――なに言ってるかは、分からなかったけど」


 俺は手持ちのナイフで縄を切り、反体制派の隙を突いて抜け出したのだ。

 あとはアレンが時間を稼いでくれているかどうかだが、ここからはもう信じる他ないだろう。彼が『裏切り者』である可能性は捨てきれないのが苦しかった。


 それ故に、これは一種の賭け。

 しかし何もしなければどの道、俺たちの寿命は尽きるのだ。

 それならば、乗らないわけにはいかない。他でもない、かけがえのない――。


「ミレイを助けるためには、これしかない……!」


 誰もいない職員室に到着する。

 そしてしらみつぶしに物色して、俺は見つけた。


「よかった、あった……!」


 盗撮男のスマホ。

 俺はそれを起動して画像フォルダを確認した。

 すると分かったのは、画像は全部で8枚だということ。そして、


「ん、どこかに画像を送信している?」


 あの男が、どこかにメールで画像を送っていたことだった。


「宛名は――『Mr.dollar』」


 おそらくは、偽名だろう。

 しかし、俺の中には確信に近いものがあった。それは――。



「こいつが、きっと……」



 『裏切り者』に、違いないという確信が。



◆◇◆



『く、くくくっ――アレン、お前も嘘が下手な奴だ』

『な、に……?』


 ミコトが教室を出て行った後に、リーダー格の男がそう言った。

 アレンは眉をひそめる。そんな彼の様子を見て、男は僅かに覗く目を細めた。


『オレ様はそんなチンケな嘘にかかるほど、馬鹿じゃないぜ? ――このミッションを達成すれば、組織の中でも有数のポストと金を約束されてるんだ』


 そして、おもむろに銃口を――ミレイに向ける。

 気絶する彼女は身動きが取れず、その他のクラスメイトは悲鳴を上げた。


『それじゃ、サヨナラだ――アレン』

『くそったれ……!』





 間髪を入れずに銃声が鳴り響く。

 直後に、教室の中は静寂に包まれた。


 

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