第51話 死神と紫電

 <Gディバイド>のブラスターライフルが連射され、<カラドボルグ>は回避の為にアンデッド小隊から距離を取る。

 その間に滑り込むようにユウは機体を移動させ、ライフルで敵を牽制しながらマリク機に通信を繋げた。


「隊長、遅れてすみませんでした。これよりアンデッド4参戦します」


『リミッターの件は大丈夫なのか?』


「はい、任意にリミッターを外せるようになりました。あとは俺の扱い方次第です。――それよりも、隊長たちは敵本体と交戦中の味方の援護に向かってくれませんか?」


 マリクがレーダーで確認すると敵と交戦中の味方機の数が次々と減っているのが確認できる。

 それに比べて『地球連合軍』の機体数はあまり変化が無く、これ以上味方が被害を受ければ戦線を維持するのが難しい状況であった。


『何を馬鹿な事を言ってんだよお前は。相手は『地球軍』のエースだぞ、一人よりもチームで当たればより確実に勝てるだろ!』


 状況を理解しつつもケインは小隊全員で戦うべきと主張する。ルカもその意見に頷いていた。


「ケインの言う通り全員でかかれば勝率は上がる。でも、それと引き換えに味方が大勢死ぬことになる。だが、こいつは俺が引き受けて皆に救援に回ってもらえば味方の損耗率は大きく低下するんだ。隊長、判断をお願いします」


 マリクはユウとケインの意見を聞き、状況判断を委ねられた。そして数秒程考え、モニター越しにユウを見る。


『……勝算はあるんだな?』


「あります。リミッターを外した<Gディバイド>の性能ならやれるはずです」


 ユウは頷き真っすぐにマリクの目を見た。それを確認したマリクは安心した表情になり味方に命令を出す。


『分かった、ここはお前に任せる。ルカ、ケイン、俺たちは友軍の援護に回る。――行くぞ!』


『でも、隊長!』


『二度も言わせるな。ユウを信じろ。あいつはやれると言ったらやる男だ。今までもそうだったろ』


『……了解。やられるんじゃねぇぞ、ユウ』


「分かっている。そっちこそ油断するなよ。向こうにもかなり強力な機体がいるようだ」


『了解したわ。ケインのお守りは私がしっかりやるから安心して』


「頼んだぞ、ルカ」


 アンデッド小隊の三機は友軍救援の為この場を飛び去って行った。それに対し紫色のオービタルトルーパーは追撃する意志を全く見せず見送るのだった。

 ユウは三機が敵の射程範囲から外れるのを確認すると、機体を縦横無尽に動かしつつブラスターライフルを連射する。

 それに対し<カラドボルグ>は標的を完全に<Gディバイド>に定めて攻撃を開始した。


 互いにライフルを連射しながら距離を詰めていき、近距離で撃たれるビームを二人は回避やシールド防御でいなしていく。

 白と紫の二機は被弾することなく至近距離まで近づき、お互いのライフルの銃身をぶつけ合い銃口を相手の頭部に狙い定めた。


 機体同士がぶつかった事で接触回線が開かれ、それぞれのコックピットモニターに相対している敵パイロットの姿が映った。


『これは驚いたな。噂の白い死神のパイロットがまだこんなに若いとは……』


「その言葉はそのまま返す。まさかライトニングヴァイオレットがこんな優男とは思わなかった」


『ふっ、言ってくれるじゃないか。それでこそ死神だ』


 余裕を見せるロイドに対し、ユウは先程感じた彼の腑に落ちない行動に質問をぶつける。


「一つ訊いておきたい。さっきは何故黙って俺の仲間を行かせたんだ。お前の実力なら妨害する事も十分可能だったはずだ」


『君と一対一の戦いがしたかったから敢えて行かせた……と言ったらどうする?』


「……戦争に私意を挟むのか。それによりお前の仲間は死ぬことになるんだぞ」


『私の部下を甘く見てもらっては困る。この私と共に戦い続けて来た者たちだぞ。――さっきの彼等も良い腕をしていたが……さて、どのような結果になるかな?』


 ユウは目を見開いて操縦桿のトリガーを引いた。それと同時にロイドもまた引き金を引く。

 銃身をぶつけ合った事でビームは双方の機体の頭部を外れ、それぞれTターミナスBビームセイバーを装備しビーム刃をぶつけ合う。

 ビームの刀身が衝突し合うことにより激しい閃光が生じ、モニターがオートで照度調整を行いパイロットの視覚を保護する。


 コックピットにはバチバチとビーム刃がぶつかり合う音が響き渡る。

 本来なら空気の無い宇宙では音は伝わらないのだが、モニターに映る映像からそれに相応しい音声が選定再生されコックピットないしヘルメットに再生される。

 これによりパイロットは視覚、聴覚を刺激され緊張感を持って操縦に努める事ができる。


 ユウとロイドは戦いにおいてその二つの感覚を総動員し神業とも言える技術を披露する。そして彼等はその他にも相手から発せられる殺気を感じ取り戦っていた。


「何だ? こいつからは今まで戦った連中よりも明確な殺気を感じる」

 

『この感覚は……まさか!?』


 <Gディバイド>と<カラドボルグ>は同時にTBセイバーを振り抜き一旦距離を取るとライフルを撃ち合い再び接近し刃を交える。

 それを何度も繰り返した後に激しく鍔迫り合いし、スラスターを全開にしてもつれあいながら上方に向かって飛んでいく。


『そうだったのか、君も〝ネクサス〟だったとはな』


「ネク……サス? 何だそれは、何かの暗号か!?」


『誤魔化したところで意味はないはずだ。こうしてお互いの脳波が感応してそれぞれの存在を強く認知させる。今君は明確に感じているはずだ、この私から放たれている殺気をな!』


「くうっ、この……訳の分からない事をぺらぺらと! 俺はネクサスなんていうものは知らないし、お前の与太話にこれ以上付き合うつもりはない!!」


 ユウは<Gディバイド>を敵機から引き剥がし、ターミナスシールドを展開しながらブラスターライフルによる遠距離戦に切り替える。

 その間ユウは今まで感じたことの無い不快感と戦っていた。頭の中をまさぐられるような感覚に吐き気を覚えながら機体を操り距離を取る。

 しかし、高速戦闘を得意とする<カラドボルグ>を引き離すことは出来ずパイロットのロイドもまたユウに執拗に迫って来る。


『多少脳波の乱れが強いようだが、やはり君はネクサスに間違いなさそうだな。さあ、君の本気を私に見せてみろ!』


 ロイドは<カラドボルグ>のサブスラスターユニットに蓄積していたターミナス粒子を解放し機体を一気に加速させる。

 その稲妻の如き超加速により一瞬で<Gディバイド>に接近しTBセイバーを振り下ろす。

 その電光石火の一撃に対しユウは無意識に反応し自機のTBセイバーで受け止めた。


『なんとっ!』


「受け止められた。どうして俺は今反応出来たんだ!?」


 ユウは自分の中で何が起きているのか分からない現状に戸惑い恐れを感じていた。 

 そしてネクサスという聞きなれない言葉に対しても心のどこかで恐怖を覚えていた。

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