第31話 パラライズ・アタック①

 ――ブリーフィングから16時間後、<エンフィールド>はエリア3ドライ宙域、資源衛星リザードへの攻撃ポイントで待機していた。

 ブリッジのメインモニターには作戦宙域の範囲を示すマップが表示されている。数々のリザード攻略戦での戦闘データにより判明した妨害電波の範囲が赤色で示されている。

 カタパルトデッキには、既に『アンデッド小隊』の4機が待機しており、すぐに出撃できるように準備が出来ていた。

 4人はコックピット内で作戦の前半部である<エンフィールド>の砲撃の成功を祈っていた。

 コックピットの通信回線はブリッジと繋げられており、ブリッジでの状況が分かるようになっている。

 そのブリッジでは作戦を前にクルー達が緊張した面持ちで、作戦開始までのカウントダウンを行っていた。


「5……4……3……2……1……作戦開始時間になりました、艦長」


 カウントが0になり、作戦が開始された事をメイが伝える。それに伴いアリアは、指示を出し始める――—―作戦が決行された。


「<エンフィールド>発進! 推力最大、トライターミナスリアクター最大稼働!」


「了解、発進します」


 アリアの指示により操舵手のルドルフが、<エンフィールド>の推力を最大にして資源衛星リザード方面に舵を取る。モニターのマップに表示された<エンフィールド>の位置がリザードに近づいていくのが確認できる。

 

「ヴェルブラスト発射準備、チャージ開始!」


「了解、艦首ヴェルブラスト発射口稼働。ターミナスエナジー、ヴェルチャンバー内への流入開始します。……現在チャージ30%!」


 リザードに近づきながら<エンフィールド>の前方にせり出した艦首部分が上下に分割され、内部から巨大な砲口が姿を現す。砲口の周辺には、ターミナス粒子による力場が形成され赤色化した光があふれていた。


「ヴェルチャンバー内圧力上昇、チャージ70%!」


 CICオペレーター担当のルーシーがヴェルブラスト発射へのカウントダウンを継続する。<エンフィールド>の現在位置は、モニター内のレッドゾーンへと接近しているが、敵基地に未だ動きは見られない。




 その頃、『地球連合軍』資源衛星リザードの指令室では、接近する1隻の戦艦を確認していた。

 司令官達は、高速で接近するその反応に対し特別注意を払っている様子は見受けられない。この基地の誇る妨害電波による輝かしい戦績の数々が、敵に対する警戒心を鈍麻どんまさせてしまったのだ。

 敵がどのような行動を取ったとしても、いつものように基地の防御層によって攻撃が無力化されるか、下手に近づきシステムが麻痺して宇宙に漂流するかのどちらかだ。

 格納庫においても彼らの警戒心の低下は著しく表れており、緊急事態に備えてオービタルトルーパーの出撃準備を行う者は1人もいなかった。

 彼らは戦場に身を置きながらも戦闘を長らく経験していなかったせいか、戦争の非情さを忘れてしまっていたのだ。




「チャージ80%に到達、ヴェルチャンバー内にてターミナス粒子のヴェル現象発生! 性質変化開始しました!」


 砲口周囲の赤い力場が徐々に白色化し、数秒後には力場は白い光を暗い宇宙に放っていた。白い戦艦は白色の光を纏い、その姿はまるで夜空を飛翔する白い鳥のようである。

 <エンフィールド>は白い光を放ちながら、妨害電波のレッドラインへさらに接近する。ブリッジでは、徐々に上昇するヴェルチャンバーの状況を聞きながら緊張感が最高潮に達していた。


「ヴェルチャンバー内、チャージ率100%に到達! 発射口、力場安定問題なし! 撃てます!」


「了解! ヴェルブラスト…………撃てえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 アリアの命令に従い解放された、限界まで増幅された圧縮粒子は、まばゆい白い閃光となり砲口から解き放たれる。

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