第26話 繋いだ手

「こんな所に珍しいですね、艦長。やっぱりオービタルトルーパーが気になりますか?」


「え? ええ、そうですね。先程の戦闘でも助けてもらいましたし、実物を見ておきたいと思って…………あっ」


 アリアの視線の先に、コックピットから降りてきたユウの姿があった。アリアは緊張したように表情が強張っている様子だ。


「……アルマ少尉お疲れ様です。先の戦闘ではありがとうございました」


「いいえ、むしろ合流が遅れてしまい申し訳ありませんでした。……ところで艦長、少しお尋ねしたい事があるんですが、よろしいでしょうか?」


「? ええ、構いませんが。場所を移しましょうか?」


「いいえ、ここで結構です」


 ユウの表情は真剣であり、場を和ませようとした整備班の何名かが「スリーサイズを聞け」と小声でユウに伝えるが、彼は手で軽くあしらう。


「艦長はどうして<エンフィールド>をコロニーの外に出したんですか? 外に出れば敵の集中攻撃を受けるのは分かりきっていたはずです」


 ユウの質問を受けて、アリアは彼の質問の意図を理解したようであった。一呼吸おいてまっすぐに彼の目を見ながら返答する。


「あのままベルファストにとどまれば、コロニーも味方も危険と判断したからです。それに、コロニーの外にいた方があなた達『アンデッド小隊』も合流しやすいと考えての行動でした」


 それを聞いて、ユウは少し驚いていた。真剣な表情が一転してキョトンとしたものになっている。


「あの時、自分達が合流する確証はなかったのに? 普通なら彼我ひがの戦力差を考えて逃げ戻る可能性の方が高かったはずです」


「普通なら……でしょう? でも、あなた達は来てくれた。必ず来てくれると私は信じていましたから」


「どうしてそこまで俺達を信用してくれるんですか? 自分で言うのもなんですが『アンデッド小隊』は命令無視、上官侮辱その他もろもろの理由で敬遠されているのに」


 ユウが言ったように『アンデッド小隊』は組織内で腫物はれもののように扱われており、<スプリング>に所属する前は様々な場所にたらい回しにされていた。

 ユウの訴えを聞いているマリク達も彼に同調するように頷いている姿がアリアの視界に入る。


「……そうですか。でもそれはたぶん、面目を潰された人の勝手な嫉妬心でしょ? 命令無視と言ってはいましたが、以前あなた達は『地球軍』の勢力宙域に取り残された味方部隊を助け出した事がありましたね。確かその時あなた達の上官は救援要請を無視したとか……だから、命令に背きながらも救出を成功させたあなた達を面白く思わなかったのでしょうね。……ただ、不幸なのは同じような事が何度も起きた事ですね」


「それは……」


「ちゃんと調べれば分かる事です。おかげであなた達『アンデッド小隊』がとても信頼に足る部隊である事を知る事ができました。要は、上があなた達を上手に使いこなせるかが重要。つまり私次第……という事ですね」


 ユウはそれ以上何も言う事ができなかった。恐らくそれはマリクを始めとする他の『アンデッド小隊』のメンバーも同様だ。

 彼らはチーム結成時、ある一つの信念を掲げている。それは〝仲間の命を最後まで諦めない〟という事だ。自分達の命はもちろん、共に戦場で戦う味方を含めて助けられる可能性が少しでもあるのなら、死力を尽くす。

 常に命のやり取りが行き交う戦場で青臭いと言われるような志を彼らは貫いてきた。その過程で、味方を見捨てる上官の命令に従わず、行く手を阻む敵を殲滅してきた。

 その積み重ねによって『アンデッド小隊』の今日の形が築かれたのだ。噂では命令無視の戦闘狂扱いだが、彼らと共に戦場に立った者の評価は全くの別物だ。

 彼らは言う。『アンデッド小隊』にならば安心して背中を預けられる――と。『シルエット』という人材が不足している組織において、彼らを理解する人物は多くはない。

 だが、今ユウ達の目の前にいる新しい上官は、最初から彼らに理解を示してくれていた。それは今まで無かった事だ。

 <スプリング>艦長のアラドも最初はユウ達を厄介者扱いしていた――今では彼らを理解し共にモルジブ戦役を戦い抜いた信頼できる上官だが。

 気持ちの整理が間に合わず、戸惑うユウに手が差し伸べられる。


「よろしくお願いします、ユウ・アルマ少尉。そして『アンデッド小隊』の皆さん。私達<エンフィールド>は、あなた方を歓迎します」


「! ……はい……こちらこそよろしくお願いします」


 ユウは戸惑いつつも、自らも手を差し伸べ彼女と握手を交わす。その手は温かく、どこか懐かしい感じがした。

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