第6話 迫る影

 『アンデッド小隊』が<エンフィールド>に合流しようとする中、彼らとは別にコロニー〝ベルファスト〟に接近する艦影が4つあった。

 それは、『地球連合軍』のダガー級巡洋艦3隻とサリッサ級1隻の艦隊であった。

 ダガー級は『地球軍』の戦艦の中で最も量産されている主力艦で、生産性に優れ性能もそこそこという艦である。

 一方のサリッサ級は、ダガー級の上位種とも呼べる戦艦であり今回のように少数による艦隊の旗艦を務める事が多い。

 サリッサ級艦長のポール・アグリは、ブリッジにて随伴艦であるダガー級巡洋艦の艦長達と作戦の最終確認を行っていた。


「〝ベルファスト〟に『シルエット』の工場があるのは明白だ。こちらが入手した情報では、奴らの新造戦艦が間もなくロールアウトする。我々は、その艦の奪取もしくは破壊を行う」


 モニターに移された資料映像には、断片的ではあるものの、白い戦艦の外観を映した映像が数種類流れていた。

 全員がその映像を見ながら真剣な面持ちをしていた。

 彼らは木星圏に侵攻してきた当初、木星側にまともな戦争をする戦力があるとは考えてはいなかった。

 だが、実際には『シルエット』なる軍事組織が存在しており、彼らの作戦を妨害してきた。

 そして、決定打になったのが10ヶ月前に発生した〝モルジブ戦役〟である。

 エリア4フィーアコロニー群の1つ〝モルジブ〟では、海洋研究が行われていた。地球で絶滅した海洋生物の復活の研究を行っており、一定の成果が修められていた。

 それにより、木星圏では海産物の流通が始まり、他のコロニー間でも人気があり、木星圏の〝食〟を支える重要拠点の1つとなっている。

 さらには、水資源が豊富なコロニーという事で、人類の母なる惑星である地球を連想させる存在として、木星圏の人々にとって精神面を支える重要な場所であった。

 ここを抑えられれば、食糧問題だけでなくメンタル的な部分でも大打撃を受けると考えた『シルエット』上層部は、いくつもの部隊を〝モルジブ〟防衛のために派遣し、数ヶ月にも及ぶ激戦の末に守り抜く事に成功した。

 そして、その裏側では、ある噂が聞かれるようになっていた。

 『シルエット』には、〝白い死神〟がいる――と。

 アグリ艦長はこのサリッサ級の戦艦を率いて〝モルジブ戦役〟に参加していた。

 前線ではなく、後方支援ではあったが、そのおかげで命拾いしたのである。

 当時、戦いも後半になると戦力の均衡が崩れ『シルエット』側が優位に立っており、『地球軍』側は、総崩れになる形で撤退を始めた。

 その時に、撤退する『地球軍』の部隊を執拗に追い詰める存在がいた。それは1機の白いオービタルトルーパーであった。

 その機体は異常だった。『地球軍』の量産型オービタルトルーパーである<カトラス>を凌駕する機動性と火力を持ち、次々と破壊活動を行っていった。

 パイロットではないアグリ艦長の目から見ても、その機動性は特に驚異的だった。対G装置によってパイロットにかかる負荷はある程度は軽減されるだろう。

 だが、それを差し引いても相当な負荷がかかっていたはずだ。


(あんな動きをしていたにもかかわらず、なぜあの白い奴のパイロットは無事なんだ? とても生身の人間に耐えられるものではないはずだ。……そうであるなら、やはり我々は本物の化け物モンスターを相手にしていたという事になるな……)


 あの時モニターに映った、友軍機を破壊し尽くす白い化け物の姿は、〝モルジブ戦役〟が終結し数ヶ月が経った今でもよく覚えている。

 あんな化け物とは二度と会いたくないと思うアグリ艦長であった。そして、そのかつて心に刻まれた恐怖を払拭するかのように、命令を下すのであった。


「よし、これより『シルエット』新造戦艦の奪取もしくは破壊作戦を開始する」


『了解!』


 ブリッジのモニターに映っていた、各戦艦の艦長を映し出していたウィンドウが一斉に閉じられ、<エンフィールド>に対する攻撃が始まるのであった。

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