第5話 アンデッド小隊

 一方その頃、ベルファストに向かう『シルエット』所属の輸送艦<レンジャー>は、<エンフィールド>に配属予定の『アンデッド小隊』4名とその搭乗機である4体のオービタルトルーパーの輸送の任に就いていた。

 『アンデッド小隊』は、組織内では命令違反の常習犯で有名であり、<レンジャー>艦長のジル・カポックは彼らを輸送する任務に対して当初乗り気ではなかった。

 そんな素行の悪い連中とは出来るだけ関わり合いになりたくないと思うのは当然である。

 だが実際に彼らと会ってみると、どうも噂というのは適当なものであると考えさせられたのである。

 確かにクセの強さはあるかもしれないが、気の良い集団であったからだ。

 そのため、輸送任務中は互いに色々と会話が弾み予想外に楽しい道中となったのだ。

 『アンデッド小隊』の隊長でコールサインがアンデッドリーダーのマリク・ドーソン大尉は20代半ばの男性である。

 短髪で黄土色に近い金髪で、筋骨隆々の身体をしており、暇を見つけてはトレーニングをしている。

 気の良い性格をしており、カポック艦長ともすぐに打ち解けてしまった。

 そんな彼の隣には、実の妹でコールサインアンデッド2のルカ・ドーソン少尉が佇んでいる。

 隊長としてやや不真面目な兄を監視しているようであった。

 そんな生真面目な性格の彼女は、兄と同じ色の髪を肩の辺りまで伸ばした女性で、個性派揃いの仲間が変な事をしないか気をもんでいた。

 一方、<レンジャー>の格納庫には4機のオービタルトルーパーが横たわる形でハンガーに固定されていた。

 <レンジャー>は少数機体の輸送専用の艦であり格納庫はそれほど大きくはなく、最大搭載数が4機であった。

 そんな、4機のロボットで圧迫感を感じる環境に2人の男性の姿があった。

 1人は白い機体のコックピット内で黙々とシステム調整をしており、もう1人はコックピットの外でその様子を眺めている。


「しっかし、お前もマメだねー。機体の最終調整なら<スプリング>を出る時に済ませてきただろ? 今更やる必要なんてないだろうに」


 コックピットの外にいる長身の男が半ば呆れたような口調で言っている。

 彼はケイン・トータス少尉でコールサインはアンデッド3。やや長めの整えられた茶髪をしている。

 均整の取れた顔をしており、物静かな佇まいからか女性側から声をかけられることも多く、女性との噂が絶えない。


「俺はまだこいつの性能を完全に引き出せていない。地球軍は新型を投入してきているし、これからの戦いはもっと厳しくなる。だから今出来る事はちゃんとやっておきたいんだ」


 そう言いながら、システムチェックを済ませてコックピットから出てきたのは黒い短髪をした青年――ユウ・アルマ少尉であった。

 コールサインアンデッド4、10カ月前に勃発したモルジブ戦役にて、この白いオービタルトルーパー<Gディバイド>を駆り、地球軍の兵士を恐怖のどん底に陥れた張本人である。

 彼の戦闘方針は極めてシンプルで「敵は完全に破壊する」事であり、敵対した機体はほぼ例外なく大破させている。

 つまり、それは搭乗しているパイロットを確実に殺害するということであり、この徹底した戦いぶりから、<Gディバイド>は〝白い死神〟と恐れられ、パイロットである彼自身も〝死神〟と呼ばれるようになっていた。


「ケイン、新しい艦ではあまり面倒事を起こすなよ」


「……俺自身、そう思ってはいるんだが、何せ相手がね……」


「それはお前の来る者は拒まずの対応がまずいだけだろ、俺はもう巻き込まれるのはゴメンだ」


 ユウはそう言うとケインの今までの女性関係のもめ事を思い出していた。ケインはイケメンで背も高く、女性への対応がスマートだ。それ故、女性関係が途切れた事がない。

 『アンデッド小隊』は、今までいくつもの部隊に合流し戦いを行ってきた。ケインは、その先々で彼女を作っているのだ。

 そのような中、ある日修羅場がやってきた。新しい勤務地に彼と恋仲になった女性が複数所属していたのだ。

 当然、彼女達はコンタクトを取って来る。ダブルブッキングする。騒動に発展する。こんな感じである。最も、彼の場合はダブルどころではないのだが――。

 同時に複数の女性と付き合っていたわけではないのだが、異動する際にその都度関係を清算せず、新しい場所で彼女を作ってきた結果がこれである。

 最終的には、何名かの女性が残るという結果になっており、ケイン本人もそういう関係を変えるつもりはないようなので、今では彼の女性関係にはあまり触れないようにしている。

 『アンデッド小隊』が現れる所では騒動が起きるという話の1つがケインの女性関係の修羅場の事であった。

 こうして、『アンデッド小隊』を載せた<レンジャーは>予定通りにベルファストに接近するのであった。

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