山田花織の日常。
雪猫なえ
「パプリカ」
「お前『檸檬』0点だな」
「いや俺『パプリカ』で30点とるから!」
後ろの席の男子達が漫才を始めたかと思った。
何の話かというと、絶賛明日開始の第二回定期テストの話。どうやら後者の彼がテスト範囲の授業プリントを失くしてしまったらしい。「檸檬」というのは教科書に載っている小説で、聞くところによると校内準年長の世界史教師が高校生の頃にも掲載されていたとか。
「檸檬」の内容は噛み砕くのが難しい(少なくとも僕にとっては強敵)。小難しい言葉と堅苦しい文章に、飽きる。大体そもそも小説読解は得意じゃない。
そこで現れたのは「パプリカ」だった。檸檬で爆破された(読んだ人なら「爆破」の意味がわかるはず)僕の脳みそはパプリカによって再び殴られたわけだ。
(……中身空洞だから痛くなさそうだな)
前者の彼は気付かなかったのか思い切りスルーしていたけれど。
そしてまたもや唐突だった。
「お前俺のボケ超高速でスルーしたけども!」
漫才閉幕を感じさせた間際だった。キョトンとする相方に向かって再度パプリカの彼が言う。
「いやめっちゃ剛速だったし!時速30kmぐらい」
「え……のぞみ?」
相方のコメントにどえらくツボに入ったらしい。見なくても伝わる小刻みに震えた気配に加えて「のぞみ……のぞみ」と小さく繰り返す声が聞こえていた。
僕は詳しくないけれど、きっと時速30kmなんだろう。いや誤情報だったとしてもここでは最高の返しだったと思う。鉄ちゃんには怒られるかもしれないけど、僕のお父さんみたいな。
こういうくだらないネタで盛り上がれるのは本当に貴重と思う。人によっては伝わらないボケもツッコミも瞬時に捌き続けてフルコンボを達成する間柄は見ていて痛快だ。
こんな日常に組み込まれている僕には、世間僕らにかける言葉に今日もピンと来ない。
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