③夜の闘い
意識が布団に沈んでいく。
やがて布団を突き抜け、床にめり込むほどに。
ただ心地よく、沈んでいく。
途端に、宇宙にいるかのように目の前に暗闇が広がる。
ゆっくりと、あちこちで小さいオレンジや金色の星がポツポツと輝きだす。
ここからが綺麗なんだ。
・・・いつもならこの辺で眠れる。
でも、この日は違った。
走ったせいで足が痛かったから?明日が憂鬱になったから?
いや、”両腕”の掌から肩の真横を何かが通った感じがしたからだ。
すぐに電気をつけてあたりに目を凝らす・・・が、何もない。
”事故物件” ”幽霊” が頭に浮かぶが「おいおい、勘弁してくれよ」と無理やり打ち消し、気のせいだと仰向けになって再度目をつぶる。
間もなく、今度は胸のあたりを何かが横切った。
ビクッと瞬時に起き上がり、電気をつけて目を凝らす・・・がまたも何もない。
念の為、死角になっているゴミ箱や積まれた書類を親指と人差し指でつかみ、ピッと高速でどかす、が何もない。
なーんだ、気のせいか と声に出そうとして、すぐ横の壁を見ると
黒いアイツがいた。
「なーあぁぁんでいるんですかぁ!?ひぃぃぃぃ!!」
昔、地元で不良にカツアゲされたときのことを思い出す。
「あぁぁぁぁ・・・」
恐怖で声を漏らしながら、部屋の隅に移動する。
今回は、お金で解決できそうにないがアイツと財布を交互に見やる。
パニックを起こしてしまった。
黒いアイツは壁を忙しなく動き回っている。
財布からは朝の酒とツマミのレシートがはみ出ている。
左右の触覚を柔軟に動かして僕の動きにアンテナを張っている。
お守りのコンドームもそろそろ入れ替えた方がいいか悩む
一万円札をアイツに差し出しながら土下座している自分を想像して笑ってしまった。
僕は、パニックを起こしている。
不意にアイツが反対側の壁へと飛び移った。
その姿が怖すぎて、DNAがMAXで警報を鳴らす。
その場でうずくまってしまい、「東京怖い、東京怖い・・・」と他の上京者に失礼な怖がり方を見せる始末だ。
「な、なんかないかぁぁ!」
床に一冊だけ置いてあった週刊少年誌を乱暴に丸めて強く握る。
「うぅ・・・」情けなさと恐怖で涙が出てくる。
強く握りすぎて変形している少年誌を見つめると、テーマである【友情・努力・勝利】の三原則が頭に浮かび、イラッとする。
「今、必要なのは勇気だろお!?入れ替えろよ!?おい!編集長!」
と叫んでみる。しかし、黒いアイツはより一層早く触覚を動かすだけだ。
冷静さを取り戻し、意識を部屋全体へ向ける。
最初の ”両腕” の感触が忘れられない。
少なくとも・・・2匹は、いる。
とりあえずコイツから、と勇気を振り絞り
「お、お、おまえがわるいんだからなぁっ」
と低い声でボソボソっと叫び、少年誌を壁にバンッと叩きつける。
かわされてしまった。
もう一回・・・と思ったそのとき冷蔵庫の下から
二匹目の黒いアイツが登場した。仲間のピンチに駆けつけたとでもいうのか。
編集長もびっくりだ。
僕はすかさず捲し立てる。
「ご、ごめ、ごめんなさい、許して許してください!ふぅふぅ、出ていきますからぁぁぁ!!あぁ、そうだ!引っ越し当日にコストコで大量にコーンフレーク買ったんですよ!た、食べますか!?」
先に謝りたい。
今後人類全てが黒いアイツらに舐められるようになってしまったら、私にも少し責任があると思う。でもどうか責めないでくれ。
もう一人謝りたい人がいる。
夜に笑い声が聞こえてきたと思ったら、東京怖いと泣き出し編集長!?となったそのとき、急におまえがわるいっと壁ドンされた可哀そうな僕の隣の住人。
・・・正直、この2匹目が出てきた直後のことをよく思い出せない。
結局その夜、僕はなぜかコンドームを握りしめたまま4匹の黒いアイツを殺したのだった。
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