第134話 教養授業30限目。鈴音先生、ユニバース25実験を語る…その②

「それでは、何故この様な問題が起こったのか?その解決策とは何か?

少し考察してみましょう。


ユニバース25はネズミを使った実験です。種類はノルウェー産の

白のドブネズミ、実験用の白色ラット(ラットはドブネズミの飼育種)ですね。

自然界で暮らすドブネズミは、当然ですが、

この様な過密な環境には暮らしていません。

前述した通り、ドブネズミは成熟するとオスは自分の縄張りを作り、

メスは縄張りを持つオスとペアを作って子供を産み、これを育てます。

ドブネズミは子育てにオスも参加、巣作り等、協力しますが、

主に子育てを行うのはメスの役割になります。

オスの役割は食料の確保と縄張りの維持、外敵からの防衛です。


この自然界とユニバース25の環境の一番大きな違いは、自然淘汰の働き方です。

ユニバース25のネズミの繁殖過程で生まれた、

テリトリーを持とうとしないオスは、自然界では居場所がなく、淘汰されます。

ネコ、イタチ、フクロウ、トビ、ノスリ、アオダイショウ等の

天敵によって捕食されるか、十分なエサが確保出来ない為、

成熟前に死を迎える。ドブネズミは同族では順位を決める性質もあるので、

余程の事がなければ共食いの様な事は行いません。

つまり自然界には、子孫を繁殖力させる力のない、弱いオスはほとんど存在しない。


以上の事から言えるのは、種族が繁栄する為には、

メスが安心して子育てに集中する環境を用意出来る、

強いオスが必要だという事になります。

実際、オットセイの様に、強い1匹のオスが多くのメスを独り占めにして

沢山の子孫を残すという例は、自然界に多く存在しています。

これを現代日本に当てはめると、社会の安定と進歩に伴い、

本当なら自然淘汰されるはずの弱いオスがそのまま成長し、

その弱いオスが種族繁栄の足かせになっているとも取れます。

結果、弱いオスに頼るくらいなら、

自分で安定的な社会的地位を勝ち取ろうとするメスが増える…。

これが更に種族の繁栄に足かせをはめる…と見えなくもありません。


では、これ以降は質疑応答の時間としましょう。

まだ始まったばかりのクラスなので、

出席番号と名前を言ってから質問して下さい。

あと、授業の内容から逸脱した質問はしない事。それではお願いします」


「女子出席番号12番 清 少納言や。

なんで今の時代はそんなに弱い男はんが増えたんや?

それに弱い男は昔かておったはずや」


「おっしゃる通り、昔だって弱い男性は沢山いました。でも今とは違って、

10代後半くらいの若い年齢で、半ば強制的に結婚させられていたのです。

本人の好き嫌いより、親や親族の意見が優先されるのが当然という社会ですからね。

結婚すれば問答無用で独り立ちさせられますから、

私は弱いなどと言っていられない。

つまり【男は強くなくては生きる資格がない】、そんな環境だったのです。


それと医療技術も未熟なので、そもそも生命力に劣る男性は、

成人まで生き延びる事も難しかった。人間の場合、自然な状態での

男女比は、生まれた段階では男性106に対し、女性100くらいになります。

それが成人になる頃には、男女比がほぼ1対1になる。

これはそもそも男性の方が女性より生命力が劣っている事、

男性の方が好奇心が強く、この為幼い頃事故に遭い易い…という事から、

長い進化の過程でこの様になっていったみたいですね。


大半の男女が10代後半から20歳くらいまでに結婚する…。

精力盛んな若い男性と、最も妊娠出産に適した年齢の女性がする事をすれば、

当然子沢山になります。それに昔は避妊用具がありませんでしたからね、

ひと組の夫婦に5人や6人の子供がいるのは当たり前。

それ故、自立出来ない、頼りにならない男性は、

両親や親族から下人の様に扱われたり、平気で勘当されていました。

お前の代りなどいくらでもいると…。

詳しい統計がありませんからはっきりとはわかりませんが、

昔の男性の自殺率は、今より随分高かったはずです。

これらの事からわかる様に、

昔の男性に掛るプレッシャーは本当に厳しいものでした。

冗談抜きで…【男は辛いよ】。

私の眼から見ても、当時の男性は本当に気の毒に思えたものです。

こうした厳しい社会的環境が、弱い男性を自然淘汰していたと言えるでしょう。


女性の場合は、総じて男性より教育が不十分で、

収入の良い働き口も多くはありませんでしたから、

それなりの男性と早く結婚する事は、生活する上で必要な事でした。

結婚しない女性の地位は非常に低かったですから、

行き遅れてしまうと、悲惨な事になってしまいます。

なので、適齢期になれば、大抵親同士で決めた相手の男性に嫁ぐ事になります」


この鈴音先生の説明に、教室は暫くの間シーンとなった。

【昔の男は辛かった…】

いや、これは冗談抜きで本当の事なのかもしれない。

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