第31話 早苗祭…その①
10月第2週の金曜日。
この日から日曜日までの3日間、
高等部の文化祭である早苗祭が開催される。
俺たち軽音学部にとっては1年で最大のお祭りであり、
もっとも気合が入るイベントだ。
ノリが良く、規模も大きい上に有名な早苗祭は外部の来場者も多く、
過去にはこれがきっかけでメジャーデビュー果たしたアイドルやバンドまでいる。
早苗実業には数百人収容の大型の講義教室がいくつかあり、
その中のひとつは3日間、音楽系のイベントで貸し切り状態になる。
要するに朝から夕方まで色々なバンドが演奏しているのだ。
メインは軽音学部だが、軽音以外の有志のバンド、クラスによる
アイドル系の出し物等々、とにかく多彩だ。
軽音学部は高等部の1年から3年まで全部合わせると60人を超える大所帯だが、
楽器のパートバランスが悪い…要するにボーカルとか
基本誰でもやれるパートの希望者が多く、次に多いのがギター、
ベース/ドラム/キーボードともなると人数が少ない上に、
それなりの演奏技術を持つ奴となると更に少数だから、
そういう奴は必然的にいくつものバンドを掛け持ちする事になる。
そんな訳で俺は3つのバンドを掛け持ちし、
毎日朝から晩まで演奏する羽目になった。
まあ、それはそれで楽しいから良いのだが、
メインのバンドはアレックス岡本達と組んでいる
【DUCKBILL…ダックビル】だ。2年の小督祥子先輩をボーカルとした、
レッド・ツェッペリンのコピーバンドで、毎日1回40分程のステージをこなす。
プログラムの1曲目は強烈なドラムソロのイントロから始まる
文字通りのロック、【Rock''n roll】、
締めの曲は【Black dog】、いずれも超有名なナンバーだ。
白のTシャツに薄いブルーの半袖ジャケット、
裾を短く切ったピンクのショートパンツ姿にヤンキースの
野球帽をかぶった小督先輩は可愛く、エロカッコ良い…。
彼女のボーカルはハイトーンで上手いし、キレも良い。
踊りのパフォーマンスも上々で、俺たちもこの日の為に練習を積んだから、
演奏の出来も中々のもの、観客もノリノリだ。
こういう洋物のコピーバンドの他に、米津やクラムボン、
相対性理論とか、アイドル系邦楽のコピーバンドもある。
技術的なバラつきはあるが、そんなことより祭りを
楽しむという事の方を大事にしているから、細かい事は誰も気にしていない。
ライブの衣装も自由だから、普段見れない過激な衣装も存分に堪能できる。
緒賀ちんも毎日朝からノリノリだ。
さて、そんな中でも特に注目を浴びたのが、
如月雪音のバンド、【白狐姫】である。
まず、このバンドは5人全員女の子で、その上衣装が巫女姿。
白い襦袢に緋袴という、強烈なコントラストの衣装がとにかく目立つ。
その上メンバーに雪音と天音という、絶世の双子の美少女がいるのだから、
視覚的なインパクトだけでもうとにかく他を圧倒している。
それともうひとつ。このバンドは曲がコピーではなく、
全曲雪音の作詞/作曲によるオリジナルだ。
オープニングに使う曲は和楽器をアレンジした神社の応援歌…【おいでなさい】
(※作者注。ここで紹介する曲はYoutube 白狐姫で動画を検索して頂くと
実際の動画を視聴可能です。作者自ら唄っている他、如月雪音さんのCV、
Sinoさんの可愛い歌声も聴く事が出来ますので、ご興味のある方は是非!)
『生きる事は切なく、大事なもの失う…そんなことばかりある…』
せつない歌詞だが曲自体は中々ノリが良かったりする。
女の子同士の唄の掛け合いが楽しい【私の小唄】。
『請うは唄さ~やさしい唄さ~。どんな唄さ~細やかさ~』
『私のささやく子守歌~素敵な夢へ誘う唄~なつかしい調べに乗せて…』
すごく和風でかわいい歌だ…。
さらに有名な平家物語前文に曲を付け、しっとりと唄う…夢の如し。
歌詞は平家物語前文と敦盛の一節をそのまま使っている。
ラストで唄う【辞世の唄】は、歴史上有名な辞世の句にそのまま曲を付け、
ピアノをバックに壮大なエンディングをもつ美しい曲だ…。
如月雪音はピアノ、ギター等、大抵の楽器を上手くこなすマルチプレイヤーで、
その技術は鈴音先生直伝、言うまでもなく高校生のレベルを遥かに超えている。
歌は可愛い声で上手いし、演奏も良い、
音楽も巫女服の恰好に良くあった良曲揃い。噂が噂を呼び、
白狐姫のライブはとにかく他のバンドを圧倒する客入りだった。
演奏の出番待ちの間、俺はアレックス岡本一緒にあちこちの屋台で
買い食いしたり、他のクラスの出し物を冷かしたり、
あと、如月天音原作による「転生したらゴブリンだった件!
アマ~ネとユキ~ネの大冒険!」クラスとしての出し物…
にもやられ役の冒険者のひとりとして出演したりした。
結構はちゃめちゃな演劇だったが、歴史研とサバゲー部の奴らに
死ぬほどウケていた。ゴブリンに扮した緑色の如月姉妹も可愛かった。
その他の特筆されるイベントは、2日目に行われた恒例の
ミス早苗コンテストで、俺たちも無論見学、投票ももちろんした。
在校生と来場者による投票で、今年のミス早苗には如月雪音が選ばれ、
僅差の2位が如月天音、3位は3年の剣道部主将千葉さな子になった。
天音は雪音と差を付ける為に髪型と衣装を変えて
登場していたが、姉が優勝した事を誰よりも喜んでいた。
『な!大橋殿!やはり雪音姉様こそ至高の女子なのじゃ!』
究極のシスコン天音の表情は明るい。
「確か先生達のティーチャーズって、最終日のトリに出るんだよね?」
演奏会場で俺は準備中の雪音に声をかけた。
「そうですよ、母上がそう言ってましたから」
「俺としては結構楽しみなんだよね~。どんなのやるのか」
「母上、詳しくは秘密だって言ってましたから、当日見てみるしかないですね」
「そうだな。中身がバレない様に学校の外のスタジオで練習してるみたいだし」
「でも早苗祭って、本当に凄い盛上りですね。楽しいです。
この学校に来て本当に良かった…」にっこり微笑む雪音は本当に可愛い。
そんな雪音の笑顔にほっこりしながら、俺はその日のライブに向かうのだった…。
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