第27話 如月雪音。

楽しさ満載、怒涛の夏休みはあっと言う間に終わり、

9月に入ると後期の授業が開始される。

俺のいる1年A組では、鈴音先生の発案で、

最初のHRの時間に席替えが行われた。

席替えは男女別のくじ引きで行われるが、

男女が比較的均等な配列になる様に工夫がなされている。

で、俺はというと、教壇から向かって

右側の窓際、後ろから2列目という、またもやグッドなポジションで、

俺の席の後ろは浅井茶々、席の右側が如月雪音(超ラッキー)、

そうして何故か前の席にアレックス岡本という…

こいつとの腐れ縁は相当根が深いらしい。

ちなみに右斜め前が細川玉子、右斜め後ろは高杉晋作だ。

夏の天体観望旅行で、如月姉妹とは大分打ち解けた関係になって

いたので、雪音が横にいると言うのは正直嬉しい。

可愛くて綺麗な彼女は素晴らしい眼の保養になるし、

その上学年1の優秀な頭脳の持ち主だから、

勉強の上での助けにもなるだろう。


まあ、そんなこんなで彼女と真近に接する様になったのだが、

それで分かった事があった。

前々から薄々感じていた事ではあるが、

彼女は天音とは色々な意味で真逆だと言う事である。

抑揚のあるはっきりした話し方をする天音に比べて、

彼女の話し方はとてもゆっくりとしていて、穏やかである。

同級生の俺に対しても「大橋君」ではなく、

「大橋様」と様付けで呼んでくるくらい、とにかく口調が丁寧。

所作も全体的にゆるやかで、とても上品且つ優雅な感じがする。

彼女の周りでは、何故だか時間がゆっくりと流れている様な、

暖かでほんわかした雰囲気があった。

平安時代のお姫様とか似合いそうだ。

運動系できびきびしている天音と比べて、実に対照的なのである。

外観的には全く見分けがつかない程良く似ているこの双子は、

この様に性格的には非常にはっきりとした違いがあった。

ひとつの人間が本来持っている陰と陽が、

別々の人間に分かれて生まれてきた様な…そんな感じである。


そんな9月のある日のランチタイム。

その日、俺とアレックスは席を繋げ、

向かい合って弁当を広げていた。

すぐ横の席の雪音の所には、天音と浅井茶々がやって来て、

傍の机を繋げて同じ様に弁当を広げている。


俺は雪音に声を掛けた。

「そう言えば、10月の早苗祭って、雪音はバンドで出るんだっけ?

俺とアレックスは、DUCKBILLって言うバンドで出演するつもりだけど」

それを聞いた雪音が答える。

「はい、軽音の女の子を何人か誘って、あと天音ちゃんも入れて、

オリジナル曲の演奏をするつもりです」

「へぇ~。オリジナル曲とは凄いね。どんな曲なの?」

「う~ん、口で言うのは難しいので…それは聴いてのお楽しみですね」

「俺らは基本レッド・ツェッペリンのコピーかしらん。

違うバンドのコピーも入れるかもしれんけど」

岡本が口を挟む。

「レッド・ツェッペリンは演奏が難しいと思うので、

凄いですね。聴きに行きますよ。

それに、ボーカルは2年生の小督先輩でしょう。

彼女の歌も聴いてみたいですね!」

音楽好きの雪音は、早苗祭でのライブを楽しみにしている様子である。

「雪音姉様もそうじゃが、この天音も歌を歌うでな、

我が美声に聴き惚れるが良いぞ」

天音は少しばかり得意そうな表情だ。


「そう言えば、今年は先生達もバンドを結成して出演するみたいですよ。

なんでも【ティーチャーズ】とか言うバンド名だそうです」

「それは初耳だな…って事は緒賀ちんも歌うわけ?」

俺が雪音に聞くと

「さあ、詳しい事は知りませんけれど、母上も出るみたいです。

これから練習だって、張り切ってましたから…」

「って事は、緒賀ちんに鈴音先生、後は誰なんだろ?

他に楽器が上手い教師なんていたっけ?」

「ハルゼーのおやじって、この前軽音の部室でドラム叩いてたから、

出るんじゃね?」岡本がぼそりと言った。

「【Sir! Yes! Sir!】のあいつか…英語得意そうだもんな…

ってかアメリカ人だしな…」

「彼、確か元アメリカ合衆国海兵隊らしいのよね…」

奴の補習を受けていた浅井茶々も口を挟んだ。

「緒賀ちんに鈴音先生…それにハルゼーって、

相当濃いメンバーだし、何にせよ凄そうだな。

聴いて損はない気がする…。で、話は変わるけど、

クラスの出し物は何が面白いと思う?」

毎年10月中旬、3日間に渡ってに行われる早苗祭に向けての話で

俺たちは盛り上がった。


この学校の学際は、生徒による運営を基本としていて、

故に学校側は生徒が決めた事に関し、原則口を出さない。

だから普通の学校では考えられない様な企画が平気で通るし、

その盛り上がり方も凄まじいらしい。都内でも有名な学園祭で、

他校からの来訪者も多い。

今年初参加となる俺たちにとっては、本当に楽しみなイベントだ。

【こりゃあ、早苗祭に向けてがんばらなきゃなぁ~】

多分みんな気持ちは同じだろう。

「拙僧の究極のギターテクを見せてやるかしらん!

これでプロデビュー!うりゃ!!」

エビぞりのポーズでエアーギターを弾くアレックス岡本を見て、

微笑ましく思う俺なのだった。

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