第11話 ランチタイムにて…
ある意味凄い4限目が終了し、昼食の時間になった。
やって来たふたりの女子転入生の周りに人だかりが出来ている。
まあ、色々インパクトあり過ぎのふたりだから、
みんなが色々知りたがるのは理解出来る。
いや、俺だって色々知りたい。今日は弁当だから、飯食う前に色々…
とは思ったものの、主に女子連中が壁を作っていて、簡単には近づけない…。
彼女達ふたりも今日は弁当の様で、弁当を開いて食事を始めている様子だ。
まあ、後で聞けばいいかと弁当を開けて、周りの会話に少し聞き耳を立ててみた。
「ねえ、天音さん。鈴音先生の娘って、本当なの?」
クラスの副委員長、細川玉子が天音に尋ねている。
「そうじゃ。母上様じゃ」
「え~、全然お母さんに見えない。だって先生、見た目私達と変わらないよね?」
「そう言われても、母上様は母上様じゃからなぁ~」
「う~ん、鈴音先生って、いったいいくつなの?
まさか本当に八百比丘尼で不老なの?」
「うむ、歳の事など話したことないな。お主も母親の年齢など気にせんじゃろ?
それに八百比丘尼の話は今日私も初めて聞いた」
「へぇ~そうなんだ。でもねぇ~。あの物凄い幼い外見は
ちょっと異常というか…。やっぱり本物の比丘尼様?」
「比丘尼かどうかは私も知らんが、異常とは聞き捨てならん。
母親が若く見えるなど、悪い事ではないではないか!」
天音はちょっとツンとした表情をした。
「おとうさんは?おとうさんも若いの?」
「父上はもう10年前にみまかられた。私は5歳だったから、
まあ、覚えてはいるが、どこにでもいる普通の御仁であられた。
特に物凄く若くとかはなかったと思うな…」
「ごめん、ちょっと悪い事聞いたね…」
玉子は少し申し訳なさそうに言った。
「事故である故、致し方ない。この10年は雪音姉様と、
母上様と一緒に暮らしておった」
天音はそう言いながら開いた弁当の中の野菜の煮物を口に運ぶ。
「うまああ~い!ほっぺが蕩けそうじゃ。
相変わらず雪音姉さまの料理は絶品じゃ!」
「へぇ~、その料理、雪音ちゃんが作ったの?」
玉子と仲の良い浅井茶々が口を挟んだ。
「この学校に勤める様になって、母上が忙しいので、
私がお弁当作りの担当になっているのです…」
箸を進めながら、雪音がゆっくりとした優しい口調で答える。
「ひとくち貰っても良い?」
「良いですよ」
茶々は箸でその野菜の煮物を口に運ぶ。その瞬間、彼女の表情が輝いた。
「まじこれ?本当?ありえないくらい美味しい…」
「雪音ちゃん、お料理上手なのね…」
「お褒め頂き光栄です」雪音は嬉しそうにしている。
「天音ちゃんもお料理出来るの?」茶々が質問を続ける。
「私は雪音姉さまの護衛という大切なお役目がある故、まあ、これからじゃな…」
天音は少しバツの悪そうな顔をしている。
【そっか、天音ちゃんは料理得意じゃないんだ】茶々は内心可笑しかった。
【へぇ~、比丘尼の話は彼女達も初耳か…それとあの雪音という娘は、
料理得意なんだな…】
聞き耳を立てていた俺は、そんな風に思いながら食事を終えた。
後ろで岡本が爪楊枝を使いながら、田山花袋の【布団】を読んでいる。
「そんなカビの生えそうな古い小説、読んで面白いか?」
俺は振り返って奴に聞いた。
「うむ、いとおかし、趣き深し…」
そういやあ、このクラスには妙な文学青年もどきが何人かいるな。
芥川龍之介とかいう奴もこの前、
「人生はひとつのマッチ箱に似てゐる。大事に扱うのは莫迦莫迦しい。
大事に扱わなければ危険である…」
とか、キザにのたまわっていたしな…。
そう思いながら俺は、【伝説のロックベーシスト大全】という本を開き、
午後の休息のひと時を満喫するのであった。
【うむ、これこそ趣き深い…】と思いながら…。
校内はスマホ禁止だが、本は持って来てもOKなのである。
エロは駄目だがな…。
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