第六話 如何にして魔法をかけるに至ったか? 末期魔法世界
生徒会室に戻ると、会長は紅茶を淹れて一人飲んでいた。
「お疲れ様。君の分もあるぞ。私はコーヒーのほうが好きなんだが、
君がストレート派か砂糖派かミルク派かわからないので、紅茶にしておいた」
「僕は砂糖派です……ってそうじゃなくて!」
「わかったそうするよ」
「そうじゃなくて! どうしてアーシアだったんですか」
「ん? 彼女では何か不満か?」
「不満とか満足とかそういう問題じゃないですよ。理由を聞きたいんです」
「先ほども言ったが、彼女が君を好いていることは知っていた。また、彼女の性格的にリスクが少ないと思ったのだ。もし、攻撃的性格になったとき、私の力で対処できなくなったら世界ニュースになりかねん」
「じゃあもし会長が暴走してしまったら?」
「ま、その可能性も無きにしもあらず? 魔法使いのスペルミス並みに恥ずかしいことになっただろうよ。だが私はこうしてピンピンしている、心配無用だ」
「なんて無茶なことを。会長が暴走したら、世界が一度は滅びるかもしれませんよ」
「だが私は絶対にそうならない」
「どうしてですか?」
「絶対にそうならない自信があるからだ」
「なんて無根拠な」
「根拠なんてどうだっていいさ。人類を救うこと自体、何も犠牲なしでどうにかできるとは思っていない。もし、君が嫌ならばいつでも、この計画から降りてもらって構わない。無謀とも言える私の野望は壮大な計画に変わりない」
「いえ、僕は会長についていくと決めているのでどこまでもいきます」
この人はやっぱり凄い。断固として意志が揺るがないんだ。
「二宮アーリアにも悪いと思っている。しかし、これしかないんだ、私には。
力不足ですまない……」
会長は、首を垂れ、僕に頭を下げた。
「やめてください、僕に頭を下げないでください。下げるなら彼女に」
「本当ならそうしたいが、この計画は絶対に秘密しなくてはならないんだ。少しも勘繰られてはいけない。いつか対抗勢力が出てくるかもしれない」
「対抗勢力?」
「魔法使いが今のままであってほしい、超楽観主義であったほうが都合のいい連中だよ」
「そんなやついるんですか、みんな幸せそうな顔してるのに」
「であればナバーゾのような極悪な魔法使いはどうしてでてきた?
君は戦ったのだからわかるだろう?」
「うーん、わからないです。と、途中でいなくなってしまったので」
ここで曖昧なことはいえない。ついうっかり僕が異世界から来たとでも言えば、今までのユウの生活はなくなってしまう。それだけは嫌だ。
「これは憶測なのだが、ナバーゾの裏に、大きな組織があるということだ。
その活動がまだ公になっていないだけかもしれない」
「気がついたらこの世界は滅びていた、とかですか?」
ただでさえ、人類は衰退しているというのに。
「ありえなくもないが、まだはっきりしない。そうなる前にこちらも、人類存続の為に子孫繁栄させたい」
「なんだかおかしい話ですね」
「どうしてだ?」
「魔法が使えて自由な世界の筈なのに、人類が滅びそうになってるだなんて」
「みんなそう思ってたのだろう。なんでも手に入るとな。しかし、その代償は高くついた。楽をするから怠けるし、努力もしないから考えもしなくなる」
「終末期みたいですね」
「魔法世界の終末期、笑えないほど的確だな」
「全くですね」
「とりあえず当分の間、これ以上の人数増やす事はしないと約束しよう、緊急の事が起きない限りな」
「また、彼女らに魔法をかけるかもしれない、という事ですか」
「そうなるな、といっても古に使われていた脳を動かすだけなんだ、無害であることは保証しよう」
あれは……無害なのだろうか。
数々のラッキーでスケベなことを思い浮かべる。
「ユウ君も男の子、という事だな。全否定はしないね」
「ぼ、僕は拘束魔法があるから仕方なく従っているだけです」
「そういう事にしておこう、顔は紅いがな」
会長は笑顔になる。
「からかってますよね?」
「いいや。紅いなら私がまた、君を誘ったっていい。そうだろ?」
会長の手が僕の顎の下に入ってきて、手のひらで撫でてくる。
「ま、また。僕を誘ってるんですか」
「ああ、君を、人類存続のために誘ってる」
「会長は、ずるい、ですよ」
「ああ、そうだな。好奇心がとまらないよ」
そう言って僕をズボン越しに膝を人差し指でなぞってくる。
「やばいですよ、会長」
「古書によれば、さ、さわ、る、らひい」
「か、会長? 大丈夫ですか?」
会長の体を軽く揺らすとそのままふらふらさせる会長。
「な、なぜらろう。こ、これは、昔、お酒をこっそり呑んらときに〜」
「会長? かいちょーう」
僕が呼ぼうとも反応がない。
かわりに、すーすーというおとが聞こえてくる、
会長は寝てしまったらしい。
酔っているようにみえたけど、 会長は会長で人類を救わなくてはと使命感に駆られているのかもしれない。
僕はそのまま、僕の腕が毛布になればいいなと思いつつ、そっと抱きしめて眠ることにした。
この世界は幸せだ、僕に居場所があるんだ、その実感を、噛みしめながら。
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