第3話 魔法

教室にいくと、始業が近いというのに、席はガラガラだった。

これは流行感染病がクラスで起きた、わけでもなく生徒がいないわけでもない。

この学校の規則そのものが自主通学なのだ。自由を重んじた弊害が生徒の大量登校拒否。まあ普通はそうだろう。休めるなら休みたい、多くの生徒が思うことだ。

しかし、それを実行してしまう度胸が、元いた世界の日本人からすれば、何か落ち着かない、胸がそわそわする。

この世界は、「ザ・自由」だ。

自由は人を救う、という具合にこの世界のルールギリギリまで許される。

それも修復魔法でもとに戻せば良いという、物理と時間の法則を破ってそうな魔法があるおかげで成り立っている、がそのしわ寄せとして人口9割減少、人類絶滅の危機に瀕しているといってもおかしくはない。

でも、もっとおかしいのは、そういう状態でもこの世界の人たちはそれを気にしやしない! なんてこった! 魔法の世界にせっかく来たというのに、これではどうしようもない。生徒会長は、人類絶滅危機の緊急事態に気づき、なんとかして人類を増やすために東奔西走してくれてるらしい。

いやーマジで頑張って欲しい。僕が無能書記で本当に申し訳ありません。

魔法世界の歴史は、僕の知る歴史とは全く違った(そりゃ魔法世界だから当然なんだろうけど)。

「原始戦争により、ザリドに勝利したフォルマが魔法世界に統一し、人口機械時代を終わらせたのです。そして今の魔法世界はできました」

魔法史のミランダ先生は妙に艶っぽく説明した。だけど、不思議とここの生徒は騒いだりしない。上品過ぎるのか、大人の女性はもう興味の範囲外なのだろうか。

いや、もしかしたら学校外の生徒はそういう世界に踏み込んでいるのか、だとしたら羨ましいなあ。僕は異世界転生して三年、ビジュアルは良くなったし成績も上がったけど、女の子達と進展はないな。


生徒会室は、夕焼けが差し込み、外では魔法飛行部が、箒で飛んでいく姿と掛け声が聞こえた。生徒会役員のためのVIPソファーに会長と向き合って座る。

簡単に言えば、僕は会長から呼び出しを受けた。過去の経験上、この世界で呼び出しを受けたことはないけども、なーんか嫌な予感がする。

会長は足を組み替え、目を大きく開く。

「ユウ書記、これより命を下す」

あ、やっぱりこれやばいやつだわ。

会長の動きがスローモーションに見える。

ゆっくりと僕に指を差しながら

「この世界の人口過疎化問題を解決する為に、私に手を貸してくれ。

この問題が解決するまで」

「その事でしたらいくらでも手を貸しますよ、契約の魔法でなくとも」

「この魔法は、契約の魔法などではない。隷属の魔法なのだ」

「隷属魔法? 魔法の進歩が顕著なこのご時世なら、簡単に解けますよね」

「いや、解けないよ。君は私の命令に従ってもらうことになる。

このような形で君を縛り付けてしまい、申し訳なく思う。この問題が解決した曉には、君の願いをなんでも一つ叶えよう」

「そんな魔法のランプの様な願い事だとしても、人口減少化を止めるって、人口を増やせってことですよ、僕はただの学生ですよ、無理だ……」

頭を抱え頭を垂れる僕。

「無理じゃ、ないよ」

そう会長は言っ――途端、僕の頭が暖かいマクラのような柔らかさに包まれた。

「かい、ちょ……う」

「いいんだ、そのままで。私だってこの魔法をかけることに躊躇いが無かったわけじゃない。それに実は手掛かりが掴めたんだ、ついさっき」

「え、もうですか。さすが会長です。だったらこんな隷属魔法かけるまでも」

「……それを試すために、先ほどから自分で実験しているんだ」

「はい?」

「人類史について過去を遡ってみた。人類は何度も滅んでいるが、今回の人類過疎化問題と酷似していてね。その後、人類が滅びにくくなったきっかけが……これなんだ」

「あの、そのまえに、会長……の胸が僕にあたっています」

「ああ、あえて当てているんだ。我慢してほしい。この方法が一番早かったんだ。私にとってこれが一番羞恥心を感じる方法だったのだから……」

「いや、あの、その、会長こそ何か魔法にかかってます?」

僕は慌てて会長から離れようとして突き飛ばしてしまう。

「きゃっ」

会長らしくないか弱い叫び声とともに、後ろに倒れてしまった。

その格好がなんともエロい。

スカートは乱れ、白い足が見え、その奥には薄らピンク色をしたショーツらしきものが見えていた。

「見てるか?ユウ君、紅潮しているということは、私を見て、羞恥心を感じているのか」

会長は足をモジモジと落ち着かない動きで、僕を上目遣いで見ている。

対する僕は、会長の淫美な姿に釘付けになっていた。

「どどどどどどうしてこんなことを?」

「これが、答えなんだ」

「ジョジョジョジョジョウダンでしょう?」

決してジョジョファンでもスタンド遣いではない。

「わた……しは、いたって、まじ、めだよ」

会長は恥ずかしいのかたどたどしい口調が止まらない。

「は、恥ずかしくはないんですか?」

僕も頭に血が昇って何にも考えられなくなってきた。

「そう、しゅう、ち、しん。それが、こたえ、なんだ」

「しゅう、ち、しん、ですか?」

「すま、ない。魔法で元に戻す」

会長は頭の飾りに触れると、朱くなった顔もすっかり元の顔色に戻り、乱れた服装を整え、立ち上がった。

「かい、ちょう」

「君にも魔法をかけてある、大丈夫な筈だが?」

「あ、あれ。本当ですね」

気持ちの高揚感は落ち着いたけど、まだ顔が熱い気がする。

「というわけで羞恥心が人口過疎化に歯止めをかけるということが歴史からわかったのだよ」

「あの、でも、それって結構、難しくないですか?状況が限定されているというか……」

「なに、今すぐ解決しなくてはいけないということでもない。それに、不可能を可能にすることができるのが魔法だろう?」

会長の笑顔が夕日と調和していた。それを見て、僕は密かにどきりと彼女にしていた。会長は僕に対し、普段は粗いのが目立つけど、どこまでも真っ直ぐで決して諦めない所が格好よかった。

「わかりました、少しでも会長に役立てられるよう頑張ります」

「ユウ書記」

僕の耳に顔を忍ばせ、小声で囁く。

「でも拘束魔法を私が君にかけてるのは秘密だよ、シーッだ」

会長の甘い声と吐息が入り混じって僕の鼓膜を突き抜けていく。

「だ、だめですよ、会長。僕、耳弱いんですから」

「それは良い事をきいたね。また、機会があればしてあげよう」

会長は小悪魔チックな笑みを浮かべる。

その様子が僕には刺激が強すぎて、身体が落ち着かなかった。



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