第9話 武器探し

「それではヘンゼルさん、お疲れさまでした」

「イオちゃんお疲れ様。明日もまた宜しくねー」


 夕刻。冒険者ギルドでの仕事を終えた僕は、ある場所に向けて歩を進めていた。


「こんばんは。ギルドマスターいますか?」

「おう。冒険者ギルドのイオじゃねぇか」


 そのある場所というのが、此処。鍛冶ギルドだ。

 その名の通り、鉱石を加工して金属製品を作り出す職人を要しているギルドである。

 冒険者御用達の武器や鎧はお手の物。他にも鍋や包丁、職人たちが使用する工具まで、鉄や鋼を材料とした道具であれば何でも作ってしまう。一般的には冒険者の武具を作る職人、というイメージの方が強いけど、僕たちのような一般人にとっても身近な存在なのだ。

 僕をカウンターで迎えてくれたのが、鍛冶ギルドのマスター、ヴォスライさん。

 職人服からちらりと覗く筋肉が逞しい、まさに鍛冶師といった風の男だ。


「お前が此処に来るなんて珍しいな。納品にでも来たのか?」

「ちょっと色々ありまして」

「何だ、悩み事か?」


 ヴォスライさんは小首を傾げて、僕の顔にじっと注目した。

 僕はカウンターに歩み寄り、実は……と話を切り出した。

 冒険者のラーシュさんからの依頼で、街の近くに誕生したダンジョンの調査に同行することになったこと。

 そのための準備として何を用意するべきか悩んでいること。

 説明を終えると、ヴォスライさんは成程なぁと頷いて腕を組んだ。


「つまり、ダンジョン探索のための準備として武器探しをしてるってことか」


 防具に関しては既に裁縫ギルドに話が行っている。他に準備するものとなると、やはり身を護るための武器だろう。

 僕は武器の扱いに関してはからきしだから、一流の冒険者が求めるような上等な武器は扱えない。僕でも扱えるような良い業物があれば良いんだけど……


「何か、こう……素人でも扱えるような丁度いい武器ってないですかね」

「そういうことなら、待ってな。丁度いいのがあるぜ」


 ヴォスライさんはカウンターを抜け出ると、ギルドの奥に姿を消した。

 そのまま待つこと、しばし。

 一本の剣を持って、彼は戻ってきた。


「うちの鍛冶師が作った業物なんだけどな」


 カウンターの上に、それを置く。


「とにかく軽いのが特徴なんだ。お前みたいに腕が細っこい人間でも余裕で振り回せるぜ」


 刃の長さはショートソードとロングソードの中間くらい。柄はこれといった装飾もなく至ってシンプルな作りをしており、握りやすさを考慮してか滑り止めの布が巻かれている。

 試しに持ち上げてみると、確かにヴォスライさんの言う通り、これは本当に剣なのかと思えるくらいに軽かった。

 子供が遊びで持つような模造刀、あれに近い感じだ。

 確かにこれだけ軽いのなら、僕の腕力でも扱えるかもしれない。


「こいつで良ければ格安で譲ってやるぞ」

「良いんですか?」

「昇級試験の課題で作らせたやつだしな。でも、一応剣として使えるぞ? 強度はそこまでじゃないが、その辺の魔物相手に振り回すんだったらこれで十分だ」


 ……それってちゃんとした製品って言わないんじゃ……

 けどまあ、あまり立派な武器を持っても僕の腕力じゃ扱いきれずに持ち腐れになるだけだ。

 そもそもダンジョンではラーシュさんに護衛してもらうわけだし、僕が前に立って魔物と戦う機会なんてないと思うし。

 ヴォスライさんが提示した金額は三百ガロン。武器としては破格の値段である。


「それでは、これにします」


 僕は代金を支払って、剣を受け取った。

 持ち運びのための鞘がないが、それは後で考えよう。

 とりあえず抜き身のまま持ち歩いたら色々な意味で危ないので、適当なボロ布を一枚貰ってそれで包んでもらうことにした。


「ダンジョンから戻ったら、その剣の使い心地を教えてくれよな」

「はい。ありがとうございます」


 長細い布包みを片手に、僕は鍛冶ギルドを出た。

 思っていたよりも良い買い物ができたね。ヴォスライさんには感謝だ。

 早速、この剣を納めるための鞘を調達しに行かないと。いつまでも布で包んで持ち運ぶなんて不便だし、いざという時にすぐに使えないのは流石に困る。

 何処に行くのが妥当だろう……やはり此処は、同じ職人ギルドの革細工ギルドだろうか。

 適当なのが見つかれば良いんだけど。

 すっかり暗くなった空を見上げ、僕は深呼吸をして気持ちを切り替えたのだった。

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