その日の夜、町では2軒の家が燃えたという。

 ひとつは平民の小さな家。男がひとり住んでいて、裏手には大きめの犬小屋に住む、変わった外見の少年がいた。男は深く眠ったまま、火事に気づかずそのまま死んだ。

 一緒に燃えた犬小屋は空だった。

 もうひとつは裕福な、占いやまじないを家業とする一家の豪邸。使用人が火事に気づき、全員が逃げることができた。ただひとり、その家に住んでいた一家のひとり娘の姿が見えないことを、火が消えるまで皆思い出せなかった。焼き跡に遺体はなく、娘の両親はどこかで娘が生きていると信じ、必死の思いで町中やその周辺を探したが、姿はおろか、影も娘の情報すらも探し出すことはできなかった。

 夫婦は今も必死で探し続けているという。



 悪魔に願った少年は今、自身の知らない場所にいた。

 周りは白が基準となった風景、足元は綿のようにふわふわとしている。以前は着られなかった肌触りの良い、白い服を身に纏い、白い素肌をした裸足が服から覗く。頭の上には光る輪が浮き、背中には白い羽が生えていた。

 右の瞳は緋色。左の瞳は深藍。

 白い髪色。左寄りの前髪の一房だけが赤。

 左頬の痣。円形の三日月の中に炎。さらにその中には逆五芒星。ただ、色は白っぽい灰色になっている。

 少年は今、地面の端に立って下界を眺めていた。家が焼けた跡が2つある。

「母さんに会いたいな」

 少年は呟いた。

「トリアドールとの約束のおまじないを叶えたいな。父さんには拳を振り上げたいな。……なんてね」

 少年は愉しそうに笑った。

「どうすれば会えるかな?」

 下界から顔を上げ、そこからくるりと振り向き歩き出す。

「また会えるの愉しみだなぁ」

 その声を聞く者はいなかった。


  ◆◆◆


 これは、御伽話。

 遠い昔の、全ては悪魔の手の上で踊らされた人々の、なんでもない御伽話。

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エキセントリック 陰陽由実 @tukisizukusakura

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