第2話 恐怖の足跡
聖獣タダル 視点
とある森にて、
(聖獣様、大変です起きてください)
寝ていた我が眷族のフローペガサスの念話に突然起こされた。
(何事だ騒々しい)
急に起こされ不機嫌ながらもゆっくりと5メートルの巨体を起こした。
我の目の前には眷族がビクビクしながら頭を下げ許可を待っていた。
元野生動物でも、別の我が眷属が礼儀は徹底して教育はさせている。
エライぞ!我が眷属。
我はムーンホーンというユニコーン型の魔獣で大地の女神ルナ様より加護を賜り聖獣という役職に就き、魔獣が人里に行かぬように任務を与えられている選ばれた者である。むふぅ!
(頭を上げい、何があったか説明せよ)
威厳たっぷりに許可を出し眷族の説明を聞いた。
(まず、一つ目に森の一部の魔素が消え、我々が死の土地と呼んでいる状態になっています。)
(何!?常に魔素が溢れているこの森で死の土地が出来ただと!!)
魔素の発生源はこの世界の中心に生えている世界樹と呼ばれる神木が原因である。
魔獣の森の中心には黒根と呼ばれる世界樹の魔素を放出する場所があり、そこから魔素が世界に広がっていく。
そして死の大地とは土に含まれる魔素が無くなり生物や精霊が消えた土地の総称である。
主に大規模な魔法実験を繰り返し、精霊が消えた国がなると言われる。
魔素が溢れている発生地である魔獣の森ではあり得ないことだった。
(世界樹様に変化はあったか?)
(いえ、いつも通りであり問題はありません。)
世界樹に問題がないとなると新種の魔獣でも現れたのかも知れない。調査に行かねばならない。
(他にはあるか?)
(次に森に住み着いていた要監視の討伐獣が次々と姿を消しています。)
(はぁ?)
ここは魔獣の森という場所だ。その名ごとく多くの魔獣が住み着いている。
世界中に多く生息するのは魔物である。 魔物とは体の中に魔石と呼ばれる核がある生き物をいう。
魔物は魔素を含む食べ物を食べれば基本大人しい。
しかし、魔素を大量に食べる事や浴びることで体が大きく凶暴になり魔獣と呼ばれる。
さらに凶暴な魔獣の中で異質に進化した魔獣は複数の猛者達で討伐隊を組まなければ倒せないことから討伐獣と呼ばれ、討伐獣が人里に現れれば滅ぶと言われるほど甚大な被害が出る。
(森の外に出た可能性はあるか?)
(いえ、外回りの眷族達は一体も確認してないそうです。)
討伐獣どもには我が眷族達の監視が付いている。
もし、奴らが森の外に出た時は冒険者ギルドに報告し、討伐隊を編成するからだ。
討伐獣の大体は身体が周りの木より大きいので離れていても監視ができる。
離れても見える討伐獣が消えたと証言しているという。不思議なことだ。
森の外に出たとしたら何かしらの痕跡が残るはずだ。
我の心の中で新種の魔獣がいて討伐獣を襲っているのではないかと推測した。このまま問題を放置してはいけないという警告音が鳴り響いていた。
これで問題なければ笑い話で済む。この森を守るには行くしかない。
(すぐに調査に行く、お前達付いて来い)
我は眷族を2匹連れ、まずは最初の異変が起きたという草木が消えた土地に向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
数時間後、我を遮る木々を体で薙ぎ倒しながら目的の場所に着いた。
途中にどこかに逃げようとしていたトレントの枯れ果てた姿が見えたが、それも関連しているのだろうか…
着いた場所は報告にあった通り、死の大地となった場所だった。
そこには草木どころか水分を含んだ土もなく、砂漠のような土色の砂だけしか無かった。
(どういう事だ!!
この土地の周辺の魔素がまだ薄いだと!?)
この森は濃い魔素が常に溢れており、我の主が昔、森に大規模な結界を貼った時に大量の魔素が消費したが、ほとんど森から魔素が減らなかった。
それに時間がそれなりに経っているはずなのに未だに魔素が薄い。
したらいいその場の魔素がなくなっても周りの魔素がそれを補うのが自然な事である。
そのあり得ない状況に我は混乱していた。我が主ならわかったかもしれない。
ふと周囲を見るとスチールスネークの死骸があった。
魔獣の森では魔獣同士がよく食い合っているため、死骸がある事に驚きはしない。
問題はその死に方だ。鋼のように硬い皮膚を持つスチールスネークが抜け殻のように薄く脆くなっていた。
その腹には内側から突き破られたような穴が開いていた。
我は観察眼をフル稼働させ何があったのか見渡しながら考えた。
そこで気づいたのは、何かが砂の山を転がり下りた跡と、スチールスネークが食べたような跡が見えた。
つまりスチールスネークは砂の山の上から転がり落ちた何かを食べて逆に食われ腹を破られ死んだと思われる。
眷属にその考えを述べると
(確かに状況を見る限り、そうですがそれと死の大地の原因に関係が…!?
聖獣様、大変です。今、消えた討伐獣の調査をしていた眷属から崩れそうなほど脆い魔獣の死骸が次々と発見されたそうです。
恐らく監視対象の討伐獣も含まれるのではないかとのこと)
我はその報告を受け恐怖した。短期間で死んでいるのだ。
多くの時間と犠牲を奪う討伐獣がだ、危険が減ったと喜ぶよりどんな奴に殺されたかという恐怖しか無かった。
それでも元凶を見つけ対処しなければならない。
我は恐怖を振り払い、まだ生存している討伐獣の元へ向かった。
監視対象の討伐獣でまだ残っているのは3体らしく、今いる場所から向かえるのは我が知る討伐獣の中で最も凶悪な1体がいる場所だった。
我の感が今すぐそこに行かなければと示している。と同士に死ぬかもという警告音が鳴っていた。
その心の格闘をしながら1時間程走り目的の討伐獣の元へたどり着いた。
目的の討伐獣が見えた瞬間に我は凍り付いた。
その討伐獣の名はエビルライガー、10メートルを越す黒い獅子型の魔獣で周辺諸国の実力者と我が共闘しても未だに討伐出来ない強者である。
それほどの強者が目の前で悲鳴を上げ、全身から出せるものを撒き散らしながら暴れていた。
黒い毛並みな白くなり、多くの冒険者を葬った足は枯れ枝のように細くなり、近く者を恐怖させ噛み砕いた顔はアンデットのように萎びていた。
先程見たスチームスネークを連想する状態だった。
そうして観察しているとエビルライガーが最後の力を振り絞って首を大きく振った。
すると何か丸いモノが我に飛んできた。
それを見た瞬間に我は死を直感した。同時にこれが元凶だと理解した。
やはり、新種は居った。
それから世界がゆっくりになった。そして目を閉じれば今までの記憶が次々と思い出してきた。
これが走馬灯と言うのだろう。
幼獣の頃、魔獣に襲われた時にルカ様に助けられ忠誠を誓い首飾りを賜り、その後に身体を鍛え、力を認められ聖獣の職を与えられた。
その後多くの眷属を仲間にしつつ、共に討伐獣を戦っておりました。
しかし5年前に出かけると言ったきり帰って来ませんでした。
カグリア様や神官達がここに来て行方を聞きに来ましたが進歩はありません。
最後にルナ様に会いたかったです。
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どのくらいの時間が経ったのだろうか、我が目を開けると目の前には干からびた討伐獣が横たわっているだけだった。
少し落ち着き始め、ふと足元を見ると魔石のカケラが散らばっていた、まさかと思い魔法で鏡を出し首元を見ると主から賜った首飾りの魔石が砕けていた。
我の目から涙が出た
主から賜ったモノが壊された無念の思い
死を逃れた安堵の思い
助けてくれた…いなくなった主への感謝の思い
様々な思いが込み上げ我は泣いた
そして主の言葉を思い出した。
『ねぇ、タダル。
聖獣就任記念にこれをあげる。
この首飾りには貴方が危険と思った時に一度だけ敵を好きな場所に飛ばす魔法が込めてあるのよ。
使い方は首飾りに魔力を込め相手を指定して何処かに飛ばすイメージすればいいの。
最果ての地とか被害が少ない場所に飛ばすのよ』
・・・・・・・・
魔力を込める→恐怖でだだ漏れ
飛ばす相手→ナニカ?
場所→ルナ様の所?
我の意識はそこで途切れた。
眷属の話では眷属たちが駆けつけた時には泡を吹いて倒れたらしく、力がある眷属たちを集め寝床に運んでくれたらしい。
すまなかった
我が数日寝込んでいる間、残りの討伐獣は何かに怯えるように穴に身を隠しているらしい。
我は眷属の報告を受けて今後の対応を考えつつ、主の帰りを願うのだった。
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