第98話 魔人
魔人とは人間と魔物の間に出来た子供の事だ。
魔人同士でも子供は出来るが、妊娠率も出生率も低く、人間の方が高かった。
獣人との交じり合いでも魔人は産まれるが、人間との方が妊娠しやすかった。
故に魔人・魔物は人間を母体することが当たり前になっていた。
ただし人間を孕ませる魔物は限られていて、サキュバスやハーピィなどが人間の男を襲って出来ることもあるが、ゴブリンやワーウルフなど人型をした魔物が女性を襲うことが多い。
そんな魔人の存在をヴェストニア法国は許していなかった。
ヴェストニア法国では定期的に魔人狩りを行っていた。
他の国でも魔物・魔人狩りは行われているが、何故かヴェストニア法国だけ魔人が多く出現していた。
魔人少女ケーナはヴェストニア法国の祓魔師に襲われた魔人集落の生き残りだった。
魔人の容姿は交じり合った種族によるが、人間の姿に似ることが多かった。
大まかなところは人間そっくりだが、よく見ると目の色や耳の形などが普通とは変わっていたりしていた。
魔人の多くは魔力持ちになることが当たり前だった。
それはステータスにも現れる。
祓魔師団が魔人かどうか見分けるために使う方法は、魔人は興奮したり命の危険に晒されると目が黄色に光る。
人間ではあり得ない現象だ。
その方法を用いて祓魔師団は魔人を炙り出していた。
たとえどんなに人間と同じ姿をしていても祓魔師団からしたら魔物狩りと一緒だ。
魔人を放置していたら、また人間を襲われてしまうと言われて殺されていた。
しかし、実は魔人にはちゃんと理性があり村や町を襲う者は殆どいなかった。
食事も人間の物と一緒で大丈夫であり、寿命も魔物と交じり合ったことで多少は伸びるが、人間の血を多く受け継いでいれば、百数歳ぐらい生きれる程度で長寿命の人間と変わらなかった。
魔人の中には魔物の血を多く受け継いだせいで本能のままに襲ってしまう者もいた。
人間の血を多く受け継いでいればそんなことはない。
基本的には人間血を多く受け継いでいた。
だからこそ、人間を母体にした魔人の出生率は魔物を母体にするよりも高かった。
だが、それを分かってくれる者などいなかった。
ヴェストニア法国ではそんな混じり物の存在を許されない。
発見次第即座に殺されていた。
だからケーナは怖かった。
ゼントに殺されるのではと。
しかし、自分を受け入れてくれた村の人たちを見捨てることなど出来ず自分の命を掛けて助けることにした。
「私は……殺させるのですか?」
「何故俺がお前を殺さなくちゃいけないんだ」
「それは……わたしが…………まじ、ん……だから」
「それがどうした……魔人如きが魔王である俺の行動を勝手に決めるな」
「ま、まおう⁉︎」
「お前の全てはもう俺のモノだ。お前の死をお前に決める権利は無い。俺が決めることだ。お前が死んでいいのは俺が死ねと命令した時だけだ」
「あ、……えっと……」
「ちゃんと返事をしなさい!子供であろうとご主人様への失礼な態度は許しません!」
アインスが槍をドンッと鳴らした。
「す、すみません!」
魔人少女が直ぐに頭を下げた。
「お前を奴隷にするという話だが俺にそんな気はない」
「え⁉︎どうしてですか?」
「お前には俺の奴隷になれる価値がない。一応俺のモノにはしたが、ただのモノだ。俺に必要だと思わせたら奴隷にしてやる」
「…………」
こう言うと同じ反応をする奴ばかりだ。
まったく、何でこうもこの世界はバカな奴が多いんだ。
「アインスもそう思うだろ?」
「その通りです。ご主人様の奴隷になれるという事はこの上ない光栄なことです。ご主人様のモノになれたという事だけでも感謝すべきです」
流石はアインスだ。
この魔人少女には理解出来ないなのだろうが、その内分かるだろう。
分からなきゃ、分かるようにしてやるだけだ。
「俺達も飯にするか……俺の分を食事を持って来い」
「は……はい……」
「ご主人様からの命令ですよ!返事ははっきりと言いなさい!」
「すみません!」
アインスの覇気にやられ、魔人少女は馬車から飛び出して行った。
「あの子にもご主人様のモノになるということがどれだけ光栄なことか教えないといけませんね」
またアインスの奴隷理論授業の開催が予定された。
ちゃんと聞く気はないが、ながら聞く分には面白いんだよな。
魔人少女がツヴァイ達が作ったスープとパンを持って来た。
アインスが俺の前シートを広げてその上に慎重に置くと、俺の左隣に座った。
「こっちに来て食べさせろ」
「はい!」
アインスが右隣に座るとスプーンでスープを掬って俺の口まで運んだ。
魔人少女は何でこんな事をさせているのか分からず、不思議そうな顔をしていた。
「どうだアインス、嬉しいだろ?」
「はい。ご主人様に奉仕出来る事はとても嬉しいことです」
アインスは満面の笑みで答えた。
魔人少女は少し距離を置いた。
「何故離れる……それでどうやって俺に奉仕するんだ?」
「え?」
「アインスがスープを口に運ぶなら、お前はパンを俺の口に運ぶのが当然だろ」
「ご主人様の言う通りです。早くしなさい」
魔人少女はゆっくりとパンを手に取ろうとした時、
「ゼント様、肉が焼けましたのでお運び致しました」
フィーアが狼型魔物のステーキ肉が乗った皿を持って馬車の中に入って来た。
俺、アインス、魔人少女を順番に見るとすぐに状況を把握し頷いた。
「ゼント様に奉仕する気が無いのなら下がっていなさい」
フィーアは魔人少女を押しのけるの俺の右隣を陣取った。
尻餅をついた魔人少女はパンを持ったままどうすればいいか混乱していた。
魔人少女を完全無視したフィーアはステーキを一口サイズに切ると手を添えて俺の口まで運んだ。
「あーん」
フィーアが恥ずかしそうに呟いた。
可愛いな。
俺はパクッと肉を食べた。
「美味いな」
「ありがとうございます。この肉は私が焼いたんです」
「そうか、上手になったな」
「はい!ゼント様のためですから!」
フィーアは肉の御代わりを取る時にアインスに向かって、にやっといい顔をした。
「ご主人様!私も2人程じゃありませんが肉を焼くことなら私も上手い自信があります!」
「この前グリーンホースの肉を焦がしたのは誰だったかしら……それに最近はドライもツヴァイの助手程度には腕を上げてるわ。ドライに負けていることがまた増えたわね」
また?
フィーアの視線はアインスの胸部を見つめていた。
なるほどな。
ドライの裸になんて興味はないが、最近防具がきつくなってきたとか言ってたな。
既にアインスを超えていたか。
だからと言ってドライに手を出そうなんて思わないが将来を楽しみにしておくか。
アインスは何か言い返そうと考えていそうだが、歯を食いしばるだけで反論が出来ていない。
「今は食事中だぞ。早くしろ」
「申し訳あららませんでしたご主人様」
「すぐに用意します」
それからは言い争うことなく息を合わせたかのように肉とスープを順番に運んでいく。
俺が飲み物を手に取ったら手を止めて、魔人少女のパンを見つめれば魔人少女の手から取り上げて俺の口に運ぶ。
自分の手で食べた方が楽だが、今回は魔人少女に奴隷とはどういうものか見せつけるためにやった。
これを魔人少女にさせるかどうかは決めて無いが、やらせることはないだろう。
13歳という年齢はギリギリアウトだ。
可愛いとは思うが性の対象としては無しだ。
二年後くらいに今のツヴァイと同じくらいの年齢になったら考えておこう。
村人達への施しも終了して、馬車の旅を続ける。
ヴェストニア法国の首都へは一本道なので迷うことはない。
特に欲しくないモノを手にしたが、その情報を得ただけで役に立った。
数十人の食料と盗賊が持っていたいらないものでこの情報を得られた。
それにアイテムボックスの中身を整理出来て良かった。
問題はこの魔人少女(名前は忘れた)をどうするかだ。
使えそうな時がくればいいが、その時が全く来なければドライの時と同じように調教して、無理矢理にでも役に立たせてやろう。
俺のモノになれたことを感謝させてやらないとな。
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