第62話 救いを求める声
ゼントとシューネフラウの邂逅から数時間前。
夕方、第四騎士団53名がタール村に到着した。
村人達は何ごとだと集まっていた。
団員が不思議に思ったのは、村の様子が変わっていたことだ。
報告書ではどこにでもあるような質素な村と聞いていたが、目の前にあるのは魔物でも壊す事が難しそうな頑丈そうな家が並んでいた。
誰が作ったかは不明だが、相当な腕の職人による手のものなのが見ただけで分かってしまう。
「私はオーストセレス王国第四騎士団団長レイゴウである!村長はいるか!」
「はい……私がこの村の村長をしております。王国騎士団の方々がこのような辺境の村にどのようなご用件でしょうか?」
「我々は宰相閣下からの命により、魔王の調査とその痕跡を追っている。この村の近くに『ギガンツァー』の目撃情報があったという報告を聞いてやって来た。何でもいい情報をよこせ」
村長達は目を逸らしたり、俯いたりして答えることが出来なかった。
自分達は魔王様に救っていただいた身。
魔王様と敵対する騎士団に協力するということは恩人を裏切ることになってしまう。
だからと言ってずっと黙ってるわけにはいかない。
「ギガンツァーという魔物かは分かりませんが、巨大な魔物が現れて誰かと戦っていたのは見えました。ですが、戦いが終わるとそこには魔物の死体しかなく、それ以上の詳細は分かりません」
嘘はついてはいなかった。
村長はなんとか話せる部分を抜き出して話した。
「そうか、ところでこの村の建物はいつからこんな立派になったんだ?」
「こちらは旅の魔法使い様が魔物に襲われて崩れた家を魔法で立て直してくれました」
「その魔法使いの詳細は?」
「さぁ?顔も隠していて名前も知りません」
「そんな怪しい奴が建てた家によく住み続けられるな」
「家がないよりかはマシですから……」
村長はボロが出ないように言葉を選んでいったつもりだったが。
「魔物に襲われたと言っていたが、ろくに戦うための武器もないのによく追い払えたな」
「それは……」
村長が頭をフル回転させて言葉を繋ごうとした時、
「魔王様とドライちゃん達が助けてくれたんだよ」
声を発したのは小さな女の子だった。
母親はすぐにその子の口を塞いだ。
「おい、今『魔王』と聞こえた気がしたが……」
「物語に出てくる魔王のように恐ろしかったということです。子供の発したことですから……」
「なるほどな。そこの女、子供の口から手を離せ」
「この子は今調子がよくなくてですね」
「いいから手を離せ」
レイゴウが腰の剣に手をかざした。
女性は恐怖で子供の口から手を離した。
「なぁお嬢ちゃん。ちょっとおじさんのお願い聞いてくれないかな?」
レイゴウはしゃがんで女の子と目線を合わせて、笑顔に優しい口調で話しかけた。
レイゴウの見た目は金髪に甘いフェイスで女性に好かれそうな顔をしていた。
そのせいで女の子から警戒心が全く無かった。
だが、それはゼントの前世で警察官が小学校の授業で教える、子供を誘拐しようと近づく危ない大人の例そのものだった。
もちろん異世界でそんな教えがあるわけがない。
「なに?」
「魔王がお嬢ちゃん達にどんなことをしてくれたか教えて欲しいんだ」
「いいよ。魔王様はね、おっきな人を倒して、魔物をいっぱいやっつけて助けてくれたの」
「それは凄いね。他には何かしてくれたかな?」
「壊れた家を新しくしてくれた。だから村のみんなは魔王様に感謝しているんだよ」
女の子は村長が必死に隠していたことを全て話した。
しかも、村長が真実を隠そうとした事が裏目に出ることになってしまった。
「教えてくれてありがとう。お礼にイイモノをあげるよ」
「ほんとー」
女の子は疑いもせず、目をキラキラとさせていた。
後ろの大人達は恐怖やら色んな感情が渦巻いてそれどころじゃなかった。
レイゴウは立ち上がると右手を上げて宣言する。
「このタール村は邪教徒の集団だ。宰相閣下の命の下、魔王の調査を開始する。全員捕らえろ!子供一人逃すな!」
騎士団員達は武器を手にして村人に襲い掛かった。
「捕らえるの女だけでいいぞ、男は殺し、女は……そうだな、各自のやり方で尋問しろ。好きなようにしていいからな」
レイゴウの顔は笑っているが先程の女の子と話していた時の笑顔とは別人のようだった。
「え……なに……?」
女の子はレイゴウから離れようと振り向いて走り出そうとするが、すぐにレイゴウに両肩を押さえられた。
「約束通り、おじさんと『イイコト』しようね」
「いや……いや……」
女の子は泣きながら首を振るが、逆にレイゴウの気分を昂らせるだけだった。
「メイナ!」
ドサッ!
母親が子供を助けようと駆け寄るが、別の騎士団員に取り押さえられてしまった。
「お願いします騎士様。私はどうなってもかまいません。メイナだけは助けてください」
「もちろん助けてやるさ……邪教に汚された身体と心を浄化してやるよ」
レイゴウはメイナを抱き上げた。
「多少の痛みはあるが心配するな。すぐに快楽へと変わり、心が浄化されるはずだ」
「隊長。この女はどうしますか?」
「お前の好きにしろ、そんな誰かのモノより俺は誰のモノにもなっていない無垢な娘の方が好きなんだ」
「隊長は相変わらずですね」
そう、これが第四騎士団のやり方だ。
男は自分の命・恋人・妻・子供を守るために情報を吐く。
だが、吐いたところで結果は変わらない。
女も命を守るために情報を吐くが、それと己の純潔を守るためや、快楽に溺れて思考を停止してしまって情報を吐いたりする。
大した情報も持っておらず、性処理相手にもならない老人は殺されるが、女の子は人質やただの性処理道具となる。
この世界に自白剤やそれを強要する魔法はないが、第四騎士団は情報収集において王国一だと言われていた。
やり方が人道を外れていたとしても、成果を上げるために王国上層部も黙認していた。
その情報一つが国の行く末を左右することになるかもしれないからだ。
それ故に第四騎士団の調査中は地獄絵図となる。
男は殺され、女は犯される。
相手が子供だろうと関係ない。
大義名分のある彼等を止めらる者など、オーストセレス王国にはいない。
ただ一つの例外を除いて。
ゾウル率いるタール村の冒険者達とゼントから武器を貰った男達が村人を逃すために立ち向かった。
しかし、日々の鍛錬を欠かさない騎士団に敵うわけがなかった。
多少の時間稼ぎにはなったが、それも十数分だけで、すぐに全員殺された。
家に立て篭もろうとした夫婦だったが、壁はゼントが作ったもので頑丈であっても、出入りするためのドアはそうではなかった。
ドアは壊され、立ち向かおうとした夫は斬られた。
妻と10歳になったばかり娘は捕まり、騎士連中の性の捌け口とされた。
相手の年齢も場所も問わず、夜になっても尋問は続いた。
成人したばかりの15歳の女子サイナは4つ下の妹ナンシーを連れて森の中に逃げ隠れた。
親は子供達に逃すために騎士団員に立ち向かった。
サイナは涙を堪えて妹の手を引いて走った。
両親の安否は気になるが、それよりも妹だけでもなんとか逃したいという思いでいっばいだ。
しかし、現実は厳しく手慣れた騎士団員二人に見つかってしまった。
「見つけたぞ!」
「俺たちと楽しいことしようぜ」
サイナは妹のナンシーの手を引いて一所懸命逃げた。
「ばぁー」
逃げた先に回り込んでいた騎士団員にサイナは取り押さえられてしまった。
「おねぇちゃん!」
「ナンシー!」
追いついた騎士団員の一人がナンシーを羽交い締めにした。
「ナンシーを離して!」
「安心しろって、こいつは隊長へのお土産だからな。傷つけたりなんかしねぇよ」
「俺たちの好みでもないしな」
「でも、ちょっとお勉強をしてもらおうか」
「これから自分がどんなことをされるか、見てもらおうな」
サイナに覆い被さっている騎士団員が服に手を掛けた。
怖さからサイナは目を閉じて願った。
自分達を助けてくれた恩人がまた自分達を助けてくれることを。
(助けて……救世主様……魔王様)
「おい、俺の家畜に何をしている」
いつの間にかゼントはそこにいた。
「誰だおま」
「俺の質問に答えろ、お前たちは何をしようとしていたんだ?」
ゼントは騎士団員の頭を掴んだ。
手を剥がそうと拒むが、びくとも動がなかった。
周りに視線を向けると、他の仲間は既に倒れて息をしていなかった。
「俺たちは王国第四騎士団だぞ!こんなことして」
「俺の質問に答える気がないなら死ね」
ゼントは団員の首を斬った。
「大丈夫ですか?」
ツヴァイがサイナに駆け寄って、回復魔法をかけた。
「ナンシーは⁉︎」
「無事ですよ」
ナンシーはアインスに泣きついていた。
「ありがとうございます。魔王様」
サイナは土下座の姿勢で涙ながらにお礼を言った。
「村は騎士団によって襲われています。どうか助けてください」
「当然だ。そのために来たんだ」
ゼントの後ろには忠誠を誓い、怒りに燃える奴隷達がいた。
「いくぞ、俺のオマエたち」
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