第38話 死神戦


「さっきの魔法はおまえの仕業か?」


 そこには体調3メートルぐらいの禍々しい姿が浮遊していた。

 背中には堕天使のような黒い羽を生やし、手には身の丈程もある鎌を持っていた。


 だが、体や羽には所々傷んでいるようでボロボロだ。

 先進的なファッションでなければ、俺の魔法を受けた結果だろうな。


 流星弾の直撃を受けて生き残ったとは考えられない。

 空を飛んで直撃は避けたが、爆風でダメージを受けたといったところか。


 爆風だけでも死に至ると思うが、目の前の敵はそれほどレベルが高いかそれを防ぐスキルや魔法があったということか。


「俺じゃないと言ったら見逃してくれるのか?」


「我の姿を見たものは始末する」


 それならどっちでも関係ないじゃないか。

 殺す理由に追加事項が付くかどうかの差だ。

 結果は何も変わらない。


 こいつの未来がな。


「うぅ……」


 急にアインスが左胸を押さえ苦しそうな声を出した。

 ドライは自分の体を抱きしめるようにうずくまっていた。


「どうしたお前ら?」


「すみ…ません、急に……胸が苦しく……」


 アインスはしゃべるのも辛そうだ。

 ドライはしゃべるどころか動くことも出来なそうだ。


「どうやら、我の姿を見て魔王様から授かった証紋が疼くようだな。こんな形で邂逅するとは想定外だが魔王軍復活の為、その身をいただく」


 アインスの左胸にあるものと言えば……


「お前は……まさか……」


「気付いたようだな、我こそは偉大なる深淵の主、魔王様の配下『死神デトートス』なり!貴様らの全てを刈り取らせていただく」


 本物の死神が来ちゃったよ。

 伯爵を殺した時に名乗ったことがフラグになっていたのか。

 もう魔王の幹部を名乗るのはやめて方がいいのかもしれない。

 このままだと全ての幹部が集まって来そうだ。

 まったく嬉しくない。


 俺は勇者なんかになる気はない。

 この世界を救いたいなんて気持ちもない。

 

 だが、


 魔王軍とやらが俺の世界を壊そうとするなら。

 世界を守るために戦ってやる。


「我の名乗りに対し沈黙とは、余程恐ろしく声も出ないようだな……それもそのはず、我のレベルは100だ。人間は到達することが出来ない深淵の力の前には死を待つのみ……大人しくしていれば楽にその命を貰ってやる」


 そんなボロボロの状態で偉そうにしていても痩せ我慢してるようにしか見えなく、哀れに思えてくる。

 プライドだけが高いバカなのか。


 100レベルでは数分前の俺ではあっという間に殺されていただろうが、今は違う。


 その程度レベルに負ける気など起きない。


 あんな大魔法を使える魔法使いを放置していたら、今度こそ殺されてしまうしな。

 何度軍を率いてもその度に撃ち込まれては、無駄に兵を犠牲にするだけだ。


 俺ならどいつなんか確認して、あわよくば殺す。

 もし美少女で性格も良かったら奴隷にするかもしれないけど。


「バカに名乗る名前はない」


 普通の物語ならここで名乗りあって闘いを始めるんだが、俺に正々堂々なんて精神は持ち合わせていない。


 卑怯、不意打ち上等だ。


 だから、


 俺はデトートスの後ろに回り込み、背中に向かって魔剣から一閃を放つ。


 キンッ!


 俺が魔剣を振り下ろす前にデトートスが鎌で防御した。

 振り向くことなく。


 どういうことだ?

 俺の動きを追えたとしても、見えない攻撃を防御できる訳がない。

 しかも、俺が魔剣をどういう軌道で切るか分かっているような感じだった。


「剣の腕に自信があるようだが、剣聖程ではないな。更にその程度の得物で我のデスサイスに敵う筈がない」


 デトートスが鎌を構え直した。


「故に……我が敗北を手に取ることは無い」


 デスサイスによる攻撃が降り注ぐ。


「ゼント様!」


「うるさい!黙ってろ!」


 避けたり、魔剣で防ぐことに問題は無い。

 ツヴァイが気を逸らすようなことをしなければな。 


 だが、デトートスのレベルが高く、武器の攻撃力も高い。

 このままでは武器が壊れそうだ。


「ツヴァイ……アインスとドライを連れて逃げろ出来るだけ遠くへだ」


 俺は土魔法でデトートスの間に縦横に長い壁を何重にも出現させた。


「お前達がいると闘いの邪魔なんだ、さっさと行け!」

 俺はツヴァイに振り向いて怒鳴る。


 ツヴァイは俺の怒気に固まったが、はっと正気になり、行動を始めた。


「アインスさん捕まって下さい」


「私は大丈夫、です……私より……ドライをお願いします」


 アインスは魔槍を支えになんとか立ち上がった。


 ツヴァイはドライを抱いて山の森の中へと消えていく。

 アインスも苦しそうだが、魔槍を杖代わりについて行った。


 その間にもバンッバンッとデトートスが壁を壊す音が響く。


 流星弾を使った反動で体内の魔力が心配だったが問題は無さそうだ。

 それどころか、体内の魔力が以前よりも上がっているのが分かった。


 そういうことか。

 俺はひっそりと笑みを浮かべた。


 遂に最後の壁にひびが入った。

 それを砕いたのはデトートスではなく、俺が砕いた。


 アクアブレスで壁ごとデトートスを攻撃する為だ。


 しかし、そこにデトートスはいなかった。


 空を飛んで避けていた。

 あんなボロボロの羽でよく飛べるな。


「随分と時間が掛かったようだが、始めから飛んでた方が良かったんじゃないか」


「我にとってもあの2人は邪魔だ。お前への攻撃の巻き添えで殺す訳にはいかなかったからな」


 デトートスは全身から黒いオーラのようなものが溢れ出て、さっきまでとは違い抑えていた力を引き出してきた。


 なるほどな。

 つまり、お互いに邪魔者がいなくなったということか。


 本当の闘いはこれからだ。

 と言っても、こちらは攻め手に欠けていた。


 俺の攻撃がまるで当たらない。

 行動予測や未来予知のようなスキルがあるのか。


 壁に挟まれて俺が見えていないはずなのに完璧に避けてみせた。


 見るけど、見えないもの。

 という言葉があるが、この場合は、

 見えないけど、見えるものと言ったところか。


 こういうシチュエーションはアニメやラノベやゲームでよくある設定だ。


 こういう時の種は大体決まってる。

 テンプレ通りなら……


 俺は周囲を見渡す。


 流星弾の影響で晴天だった空は打って変わったように赤黒くなっている。


 そのため、視覚に多少の影響が出ているが、それでも周囲の気配を集中して探れば……


 なんほど、そういう仕掛けか。



「我以外に注意を向けるとは……それは悪趣であるぞ」


 デトートスは空中でデスサイスを振り回した。

 デスサイスが描いた黒い一閃が鋭い刃となって飛んできた。

 それは一つや二つにとどまらず、デスサイスを振る度に襲ってきた。


 俺は地と水の魔法で何重もの壁を作った。

 流星弾を防いだ物と比べると完成度は数段落ちるが、時間稼ぎにはなるだろう。


「フラッシュ!」


 光魔法のただの目眩しだ。

 これも時間稼ぎにしかならないがこれで十分だ。


 俺は右手に貯めていた魔力を魔剣に移した。

 そして逆さに持ち変えて、地面に突き刺した。


 「インフェルノサークル!」


 すると、突き刺した魔剣を中心に四方八方に地割れが起きた。

 割れた地面の底からマグマのような炎が燃え上がった。


 全方位攻撃。


 これなら避けることは出来ないだろ。

 炎は地上だけでなく、空にも伸びていった。


 俺自信は全身に光魔法の防御魔法を纏っていたので、ダメージは無しだ。

 

 デトートスの目となって飛び回っていたカラス達も全滅だ。

 インフェルノサークルは火属性の上位魔法だ。

 先程の流星弾より魔力消費が少なく使うことが出来た。

 ただ、周りに味方がいる時は使えなかった。

 単独での殲滅用攻撃魔法だ。


 もしアインス達がいたら巻き添えになって一緒に殺してしまっていた。

 俺の物を意図せず壊すわけにはいかないからな。

 壊す時は俺自信の意識で壊してやる。


 さて、周りが焼けた大地になったが、そこに黒い物体が所々から焼け焦げた煙を出しながら転がっていた。

 

 死んではいないようで、ぷるぷると小刻みに震えるように動いていた。

 羽は元の形が分からないぐらいにボロボロになっていてもう飛ぶことは不可能だ。

 

 唯一手に持っていた鎌だけは無事で元の形を保ったままだった。

 焼け焦げた後のような物も確認出来なかった。


 壊れない武器なんて羨ましい。

 ゲームで武器が劣化して壊れるなんてことは無かったが、ここは現実だ。

 

 一生使い続けられる武器なんて喉から手が出る程に欲しいに決まってる。

 こいつが死んだら有り難く頂戴しよう。


「まさか、この『死神』が人間の魔法使いごときに負けるとは……」


「ふん、そのごときに負けるお前はいったい何者なんだろうな」


 俺は魔剣を抜いて一歩一歩デトートスに近付いて行った。


「お前は負けを認めたようだが、俺はまだ自分が勝ったと思っていない。お前が死ぬまで俺はお前の負けを認めない」


「この強さに手段を選ばない戦法、容赦のない殺意、あなたこそ魔王様の生まれ変わりかもしれないな」


 生前のゲーム内では魔王だったが……


「魔王か……それも悪くない」


 この世界で魔王になったらどうするか。

 普通の魔王は何を目指して活動しているんだ?

 目的なんてあとで考えればいいか。

 

「もし俺が魔王だとしても、お前のような部下は要らない」


「何故だ?あの奴隷共より我の方が力もあり役立つと思うが……」


「見た目が気に食わないからだ」


 見た目が不気味で側に置きたくない。

 側に置くならやっぱ可愛いやつを置きたい。

 可愛いは正義という言葉があるが、全くその通りだと思う。

 可愛いやつは目の保養にもなるし、側に置きたいと思うが、こんな汚いやつを側に置きたいやつの気がしれない。


 前魔王はこいつを側に置いていて余程不快だったんじゃないか。

 前魔王がどんな趣味趣向を持っていたが知らないが、趣味が悪いというのがよく分かる。


「それと俺のレベルは150を超えている。お前ごときが勝てる道理など最初からないんだよ」


 俺は光魔法で魔剣を強化して一閃を放った。

 

 デトートスは頭から真っ二つに分かれ、切れ目から蒸発するように消えていった。

 やっぱり、闇に勝つには光だよな。


 光魔法で勝つ悪の魔王なんてテンプレから外れておかしい気もするが、勝てるなら別にいいだろ。


 俺は魔剣をしまって、アインス達を追いかけるために山の森へ入った。


 アインス達と合流したら、まずは魔王になることを伝えるとしよう。


 目的は今思いついた。

 

 さぁ!

 世界征服の始まりだ!



 名前:ゼント

 レベル:200 up

 魔法:〈火魔法(上)LV10〉 up〈水魔法(上)LV4〉up〈地魔法(上)LV3〉up 〈闇魔法(下)LV1〉new 〈光魔法(上)LV1〉up

 スキル:〈剣王LV10〉〈槍士LV3〉〈闘王LV1〉〈投擲LV10〉up〈隠密LV10〉〈自然回復LV10〉〈運搬LV10〉〈奴隷契約〉〈鑑定〉〈アイテムボックス〉

 称号:無能王


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る