第17話 噂
宿屋で朝飯を食べ、そのまま武器屋に向かった。
「おぅ来たか、武器は出来てるぞ、今最後の手入れをしてるところだから少し待っていてくれ」
オヤジは本体の刃や鞘を見て磨いたりしていた。
「にぃちゃんは聞いたかい?昨日ここの領主が魔王の手先に殺されたそうだぞ」
「宿屋で飯を食べてる時に周りが話していたのを聞いたレベルだけどな」
ドキリッとしたが俺はなるべくポーカーフェイスを意識して、声もいつも通りにした。
アインスは黙って顔色1つ変えない、ツヴァイはおろおろと感情丸出しだ。
「魔王の手先ってのは初めて聞いたな。魔王は滅んだんじゃなかったのか?」
「そう言われているが、実は幹部連中は生きていて何処かで息を潜めているって噂だ。今回はその中の『死神』が現れたらしい。街じゃ幹部連中が動き始めて魔王の復活を狙っているっていう噂でもちきりだぜ」
えー、その場の思いつきで適当に名乗っただけなのにそんな大事になるのかよ。
というか、どうして俺が死神の名前を使ったことを知っているのだろう?
死神を名乗ったのは伯爵とあの執事だけだと思ったのだが、外で見てた者でもいたのだろうか。
だとしたら失策だな。
今後は気をつけるようにしよう。
犯行現場を見た者も殺す必要があるからな。
まぁ、魔王の幹部の仕業ってことになれば俺を疑う奴は少なくなるだろう。
これから悪いことをするときは魔王の幹部の誰かを名乗ろう。
もちろんフェンリルは除いてだがな。
近くに本物がいることだし。
というか、魔王の復活とか辞めて欲しい。
魔王と戦う為に転生したわけじゃない。
平和な世界って聞いてたんだけど……
女神が嘘をついたとか考えたくないな。
そうだとしたら、本当にクソ女神だと思う。
「ほら出来たぞ、持って確かめてくれ」
俺は鞘に収まった剣を受け取る。
ずっしりと重さが伝わってくる。
鞘についているベルトを腰に巻き付けて剣を抜く。
明らかに今まで使ってた盗賊の剣とは格が違う。
剣の輝き、赤を基調としてあしらわれた持ち手がその剣をさらに引き立てる。
鋭さや重さで攻撃力が高いのが分かる。
「軽く素振りしてもいいか?」
「別にいいが、広くない店なんだから店や商品を傷つけないようにしてくれよ」
俺は素振りを開始した。
返事はしない。
そんな保証はないからだ。
剣王スキルのおかげで初めて握る剣でも思い通りに振るうことができる。
重さがある分スピードに期待は出来ないが、そこはスキルでカバーすれば問題ないだろう。
「綺麗な剣技だな、普通に作るよりも重く作ったんだが、やはり俺の見立てに間違いはなかったな。あんたの振るう姿を見てると作って良かったと心から思えるぜ」
俺は剣を鞘に戻した。
「ところで槍の方はどうなってんだ?」
「すまねぇ、剣の方に時間を掛けすぎて槍はまだ出来ていないんだ。今日中に終わらすようにはするからよ明日また来てくれないか?」
「構わない、そのかわりコイツに合う武器と防具をくれ、これからダンジョンに行く予定なんだ」
「そうだったのか、それは悪いことをしたな。迷惑料代わりに昨日みたいな楔帷子だったら無料で譲るよ」
「それは悪いから金は払う。値下げはさせて貰うぞ」
俺は鉄貨を3枚取り出し店主に渡した。
「……ありがとうよ、こいつは大切にしておくぜ」
苦笑いの店主だったが、内心かなり喜んでいるだろう。
無料が有料になったんだからな。
俺は新しい剣と共に店の外にでた。
アインスの姿は特に変わったところはない。
ローブ下に楔帷子と皮の鎧をしていているが見た目に変化はない。
ツヴァイは楔帷子と金貨1枚で買った魔法使いのローブ(顔が隠れるぐらい深く被れるフード付き)だ。
魔力上昇(小)の補正付だ。
武器は棍棒を買った。
剣などの刃物は本人が嫌り、俺が適当に選んだ。
とりあえず、これで様子を見ながら武器を考えよう。
目深く被れるローブを貰ったのは、もしかしたら伯爵がツヴァイを購入したことを知っている奴がいるかもしれないから、正体を隠すのは必要だ。
種類の違うローブをかぶった2人の奴隷を連れた武装した男。
明らかに悪い人側に見られることだろう。
こんなことで目立っても何も嬉しくない。
今回の目的はダンジョンに行くことだ。
この街の近くには初心者冒険者のレベルアップに最適なダンジョンがあることを知った。
ここでアインスとツヴァイのレベルアップをされる予定だ。
本当はすぐにでもここ街を離れた方がいいのだが、外に出て魔物に囲まれて、ツヴァイが殺されてしまう可能性がある。
それは避けなければならない。
だから、レベル3のままでいてもらっては困る。
早くなんとかしないとな
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